蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

理系の子

2017年11月11日 | 本の感想
理系の子(ジュディ・ダットン 文春文庫)

アメリカでは高校生までの学生を対象とした、理科の自由研究の発表コンクール:サイエンスフェアが盛んで、日本の高校野球みたいに地方大会を勝ち上がった学生が全国規模のフェアで競い合う。上位に入賞すれば多額(数百万円レベル)の賞金や大学4年間の奨学金までが得られるので競争は激しく、研究レベルも恐ろしく高い。
本書は、インテルISEFというアメリカでも最高レベルのフェア(2009年)に挑戦したユニークな学生たちを描いたノンフィクション。

紹介されている学生の研究内容(核融合炉、廃棄ラジエターを使った太陽光エネルギー装置、会話する手袋、馬を使ったセラピー、ハンセン病、自閉症児の教育プログラム、ミツバチ大量死対策、ナノキューブ作成等)もさることながら、学生たちの生い立ちの方がさらに興味を引く。

当然裕福な家庭で育った子供が恵まれた環境(実験器具やスペース等々)の準備がしやすいため有利なのだが、勝ち上がってきた子の中には貧困世帯に育つ等、厳しい環境を克服している者も多い。大学に進学するにはフェアで上位入賞して賞金や奨学金を得るしかないという子が多く、ハングリーであることが大きな糧になっているようだ。(全く関係ないし、私の偏見にすぎないのだが近年(日本の)高校野球のスターにひとり親世帯の出身者が多いのも似たような理由のような気がする。軍隊並みかそれ以上の苛酷な練習や日常生活を課す名門校の野球部で台頭するには、才能の他に相当に強靭な精神が必要と思われるからだ)

先住民の母子家庭のトレーラーハウスに育ち、寒くて仕方がない家をなんとかしたいという切実なニーズから廃棄ラジエターを利用して温水器や暖房機を作り上げたギャレット。

ガンに冒されてものぞみを捨てない気力あふれる父(←このお父さんのガッツが特にすごい)に育てられ、8頭の馬を育て、警官たちのストレス解消に馬とのふれあいが役立つことを発見したキャトリン。

自閉症のいとこに言語を教えるために、音楽に乗せて綴りを覚えてもらうメソッドを確立したケイラ。

9.11のテロをきっかけに、華やかなキャリアを捨ててど田舎暮らしを始めた両親に家庭内学習のみで育てられ、カーボンナノチューブの製法を開発してフェアを総ナメにし、ビジネスとしても成功したジェイムズ。

といった学生の話が特に印象に残った

巻末の付録?の日本人参加者の経験談、成毛真さんとの対談も良い内容で、編集者および出版社はなかなか良心的だなあ、と思った。
コメント
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