蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

完全なるチェックメイト

2017年04月22日 | 映画の感想
完全なるチェックメイト

冷戦時代にソ連代表とチェス世界一をかけて戦った米代表ボビー・フィッシャーの前半生を描く。

昔、将棋棋士の羽生さんが、「将棋のことを深く考えていると、現実世界に戻れなくなるのではないか、という危うさを感じることがある」といった旨のことを述べているのを読んだことがある。
将棋やチェスでなくても、長時間集中して一つのことを考え続ける生活を何年もしていると、多少なりとも神経症的な傾向が出てくることはありそうで、本作の主人公ボビー(トビー・マグワイア)も試合中のちょっとした物音や振動に過敏に反応する。
ボビーは私生活においても症状が出ていて、ソ連側に盗聴されていると思い込んで電話機を分解したりし、対戦に遅刻しそうになったりすっぽかしたりする(これは宮本武蔵みたいなじらし作戦なのかもしれないが)。
トビー・マグワイアは、こうした「神経質なちょっと変な人」にぴったりハマっていてスパダーマン役なんかよりずっとよかった。

ライバルのスパスキー(ソ連側のチャンピオン)も、巌のような強い精神力をうかがわせる外見なのだが、対戦中に劣勢に陥ると、「椅子から不審な振動が・・」なんて言い出す。そのギャップをリーヴ・シュライバーがとてもうまく演じていた。

しかし、この二人以上にクールだったのはボビーの練習相手(セコンド)の神父(ピーター・サースガード)で、とてもカッコ良かった。

本作の見どころは、ボビーとスパスキーの対戦シーンの緊張感あふれる描写で、ほとんど動きがないチェスの試合を長時間描いて飽きさせない(むしろ画面に釘付けになってしまった)監督の編集力はすごいなあ、と思った。

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ノボさん

2017年04月22日 | 本の感想
ノボさん(伊集院静 講談社)

正岡子規の評伝。副題が「小説正岡子規と夏目漱石」となっているが、漱石の登場場面はそれほど多くなく、大部分が子規に関する内容となっている。

伊集院さんの小説というと、主人公の熱さとか周囲の人とのぶ厚い交情が描かれることが多いが、本作は評伝スタイルとでもいうのか、第三者の視点で式の人生を淡々と描写している。

向島で幼馴染の藤野古白や三並良らと合宿して処女出版となる作品を執筆する場面の闊達さや旅館の娘との淡い恋の場面がよかった。

また、超わがままな被介護者であった子規が死んだとき、長年献身的に面倒見てきた母の八重が、すでに亡くなっている子規に「さあ、もういっぺん痛いというておみ」と叫ぶ場面は感動的だった。
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ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人

2017年04月22日 | 本の感想
ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人(伊藤歩 星海社)

本書は、NPB各球団の財務やファン対応を比較分析しているが、球団運営会社自体は非上場なので決算や財務の詳細はほとんど公開されておらず、新聞公告などのわずかな情報や著者の「体感」、大学の研究者のアンケート調査などをもとにデータを作成している。

本書を読んで、意外感があったり、「なるほど」と思わされた事項は次の通り。

**************
・試合の放映権とは、一般に球場内に録画場所を確保する権利と認識される。
なので、普通の人がチケットを買って入場し手持ちのビデオで録画して番組化してなんらかの方法で放映?しても問題ないし、ヘリコプターからの撮影も放映権と関係ない。

・巨人戦のチケットの裏面には、興行主として球団名がなく、親会社名(と日テレ)が表示されている(他球団は地方興行等を除き球団名が表示されている)。巨人は興行権もすべてを親会社に一括売却していると推測され、そうすると球団としての業績もこの興行権にどれくらいの値段をつけているかに大きく依存してしまい、巨人がずっと黒字だという説に?が付く。

・ソフトバンクは球場を自社保有する唯一の球団だが、球場所有に至るプロセスは資産の流動化を絡めた複雑な経緯があった。(このあたりが著者の専門分野らしく、やたらと詳しく説明されていたが、普通の人には少々退屈だったと思う)

・ベイスターズはずっと赤字だったが、その間もスタジアム運営会社は黒字を続け100億円超の金融資産を保有する好財務の優良会社になった。この会社をDeNAがTOBしたことでため込んだキャッシュをどう使うのか注目される。

・球場内での試合運営等は多くの球団が外部委託していてその委託先の最大手はシミズオクトという会社。唯一外部委託せず自前で運営しているのは広島。こんなところにもドケチぶりが垣間見られる。
**************

経営実態が最も不透明なのは、(親会社が新聞社なので)情報公開をいの一番にしてもよさそうな巨人と中日というのも日本的というか、昭和な会社体質というのか・・・やはり日本の新聞社も上場して堂々と経営内容を開示すべきだよなあ、とあらためて思った。
ソフトバンクがテクニックを駆使して財務を改善したところなんかも、いかにもそれらしいよなあ、と思わされた。
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タクシードライバー

2017年04月22日 | 映画の感想
タクシードライバー

大学生のころ、4年間ずっと同じサークルにいた人が本作を(当時)見て、「お前(←私のこと)、デニーロがやった役の人に似てるよな。好きな女の子ができたら暴走しそう」なって言われたことを今でもおぼえています。
当時すでに公開から10年くらい経過していて「名作」扱いされていて、見たことがなかった私も筋くらいは知っていましたので「オレって変人(&モテない人)に見られているんだなあ」と今更ながらに認識させられました。

それから幾星霜、よく行くツタ●の棚の妙に目立つところに本作のDVDがあったので、借りて見てみました。

で、その結末が思いっきり(というか取ってつけたような)ハッピーエンド(ですよね?)であったことに大変驚きました。
私は、破天荒な主人公が暴走の末、破滅する物語だと思い込んでいたのですが、実はコメディとは言えないけれど滑稽譚みたいなラストだったんですね・・・。

主人公(ベトナム戦争の帰還兵でストリップ(って今時通じない?)が好きで無口で仕方なくタクシー運転手をやっている)は、今の日本に例えると、大学出た時就職氷河期で職を転々今はバイトで食いつないでいて彼女いない歴40年のアニメフリーク、なんて感じでしょうか。
アメリカにとってのベトナムでの挫折後の社会混乱は、日本でいうとバブル後遺症とデフレに苦しむ現在にあたるのかもしれず、1970年代のアメリカの困惑?みたいなものを描いた本作を現代の日本で味わうことに一興あり、と言えるのかもしれません。

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宇喜多の捨て嫁

2017年04月22日 | 本の感想
宇喜多の捨て嫁(木下昌輝 文藝春秋)

宇喜多直家の生涯を連作形式で描く。

直家は、戦国末期の中国地方にあって、策謀をめぐらせては、敵や時には味方だったはずの武将たちを暗殺して勢力を広げる。
彼が浦上氏の部将として城持ちになるあたりまでの史実はあまり明らかではないようだが、本書では、出来物の祖父が暗殺された後、母と二人で放浪して苦労を重ねる、という設定になっていて、この母との関わりを描いた「無想の抜刀術」が特に印象に残った。

著者によると、直家は、単に悪辣だったから(戦国期としても)ダーティとみなされてしまう謀殺を連発したわけではなく、戦をして家来の人命を損ねたり領民の経済的利益を損ねたりするより暗殺で済ませる方がよい、と考えたらしい(実際、敵手にとっては悪魔のような直家だが、家中の者への応接は大変に手厚かったらしく、多くの優秀な生え抜きの家臣が育ったということだ)。
そのあたりを描いた「貝あわせ」と前述の「無想の抜刀術」については、厳しい生い立ちを強いられた直家を、弱々しくも健気な?武将として描いていて好感が持てた。
ところが、それ以外の短編については、内面を全く覗かせない悪魔的な冷血漢としてしか登場しない。この2つの直家のギャップを埋めるような編があればよかったな、と思った。
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