蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

イギリス人アナリストだからわかった日本の「強み」「弱み」

2016年03月20日 | 本の感想
イギリス人アナリストだからわかった日本の「強み」「弱み」(デービッド・アトキンソン 講談社+α新書)

90年代に銀行(業界を分析する)アナリストとして活躍し、今では文化財補修会社を経営し、茶道が趣味という著者が(タイトル通り)日本国民のウィークポイントを挙げ、その改善プランを提案する内容。

本書によると、戦後の日本経済成長のドライバとなったのは、先進国(戦前日本は世界有数の経済力を持ちすでに経済的先進国だった、としている)としては珍しい人口の急増であり、日本人の器用さや勤勉さによるものではない、という。今も昔も日本人の仕事に対する効率性(生産性)は低いままであり、人口減少期に入った今、日本経済は大きな危機に瀕しているとする。

人口が多いだけでは経済は発展しないが、経済基礎力のある先進的な国で急激な人口増加が起これば、必然的に大きな経済成長が発生する、という考え方が(私には)斬新だった(もっとも、そういうことは滅多に発生しないのだが)。そういう視点からすると、アメリカが世界一の経済力を長年維持し続けている要因は、移民による人口増加なんだろうなあ、と思った。

民主政治や資本主義が多くの国に行き渡った世界においては、経済発展や社会構造のサを決めているのは、国民性とか政策の巧拙ではなく、単なる時間の問題にすぎないような気がしている。
つまり、どんな国も似たような発展過程を経て成長し衰退することは不可避で、今栄えている国はやがて衰え、それに替わって今は途上国とみられている国が勃興してくることになる。
著者が言いたいのも、日本は特別な国じゃない、手をこまねいていれば衰退の順番が回ってくるだけだ、ということではないと思う。
(その対策として観光振興を挙げて、古い文化財の魅力を高めるべし、というのは(現在の職業から考えると)ポジショントークがあからさまなような気もするが)

余談だが、本書で紹介されている次の2つのエピソードが面白かった。
・(銀行界きってのインテリと思われている)興銀の頭取に対して銀行業務の改善プランを提案したら、不合理極まりない理由(「外国人であるあなたにはわからないかもしれないが、この興銀の廊下の壁から、これまで日本経済を支えてきた産業界、経済界の人々のパワーが出ている。それが利益に反映されていないだけだということが、株が高い理由です」)で拒否された(あるいは単なる韜晦なのだろうか?)。
・イギリスの料理がまずいのは、質素を旨とするプロテスタント信仰のせい。
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駈込み女と駆出し男

2016年03月18日 | 映画の感想
駈込み女と駆出し男

江戸時代末期の縁切り寺(東慶寺)に駈込んだ女性たちの人生模様と東慶寺の御用宿で働きながら戯作者見習いをする男の恋を描く。

何人もの人物のエピソードが並行して描かれるので、前半はやや話がわかりにくかったが、終盤になってうまく収束されていた。

ストーリー展開よりもセットや美術の美しさに目がいった。映画村のセット風の映画やテレビでよくみるようなお仕着せ?の江戸時代の風景はほとんどなく、浮世絵や古い写真などで見かけたような景色が多く、御用宿のセットもかなり凝ったデザインになっていたように見えた。

本作のエンディングによると東慶寺は2000人余もの離縁を実現させたそうである。厳しい身分制・男女差別の中でもラストリゾートは確保し、縁切りまでのプロセス(本人や縁者からの聴取→2年間の寺修行→男性側から形式的に離縁状を出させる)も非常に民主的で?改めて江戸の行政機構の精妙さを感じさせられた。
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真田丸 第8回 調略

2016年03月18日 | Weblog
真田丸 第8回 調略

大河ドラマはだいたい3回目くらいで見るのをやめてしまうことが多いのですが、今のところ「真田丸」は毎週欠かさず見ています。
こんなことは「龍馬伝」以来で、単に三谷さんの脚本が好きなだけかもしれませんが・・・
そういう贔屓目を割り引いても第8話「調略」は特によかったです。とてもややこしい筋をあんなにわかりやすく説明したうえに、策謀をめぐる信繁の微妙な心理もうまく描けていたように見えました。

その「龍馬伝」が(香川さんの怪演?により)いつの間にか「弥太郎伝」になってしまったように「真田丸」が「徳川丸」になってしまいそうな予感がします。

どうも信繁のコイバナや奥方の浮き方がウザくてぱっとしない真田家(あくまで私見です。ただし、昌幸は別格。何十年か前の幸村役の好演がいまだに強烈に印象に残っているせいでしょうか。私のような年寄にはこのキャスティングはこたえられません)に対して、徳川側の家康自身や家中(といっても今のところ本多正信・平八郎(忠勝)、阿茶局くらいしか出てきませんが)の方が断然面白いんですよね。

正信は(これまで陰惨なイメージしかなかったのですが)近藤さんの剽軽さがなんとも良く、藤岡さん演じる平八郎は「きっとこんな人だったに違いない」と思えるほどハマっています。
そうした二人に翻弄?される家康は、内野さんがダンディさを振り捨てて?気弱で優柔不断な姿を演じています。最後までこういう家康でも面白いし、だんだんと鉄面皮な狸おやじに変貌していくという展開でもよいです。(後者になると思えますが、個人的には前者希望)
また、平八郎は(信之の舅になるため)今後も重要人物として出続けるはずなので楽しみです。

私としては「徳川丸」になってしまっても全く構わないのですが、視聴率のためには真田方が悪者っぽい信州争奪戦は早めに切り上げて、関ケ原以降を多くした方がいいかもしれません。
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そら、そうよ

2016年03月15日 | 本の感想
そら、そうよ(岡田彰布 宝島文庫)

本書は、阪神の中心打者として活躍して、その後、阪神とオリックスで監督を勤めた著者の野球観を語ったエッセイ。

私は、現役時代の著者は「何も考えずに打つ(よく言えば天才型、悪く言えばテンネン系の)打者」だと思っていた。
しかし、監督になってからの記者へのコメントはなかなか頭脳的な感じだったし、野村(克也)監督さえうならせた鉄壁の投手リレー体制(阪神のJFK)を構築した手腕もあって、認識を改めさせられた。
阪神以外のファンからも「オカカン」なんて愛称で呼ばれて、その独特な野球の見方には注目する人が多かったように思う。

ただ、本書はそういった頭脳的な監督像とはやや距離があって、監督時代のぼやきを書き連ねた内容。
特にオリックス時代のそれは、良い成績を残せなかったせいかオリックス球団のフロントやスタッフに対して批判している部分が(少々見苦しいくらい)目立つ。
いわゆる、直言タイプ、毒舌タイプの人と見受けられ、選手や球団スタッフはお付き合いが大変だったろうなあ、と想像される。

監督の采配で勝てる試合なんて年間数試合もあれがいい方、として、開幕前に大勢は決してしまっているので編成構想や秋のキャンプなどで生え抜きを育成するのが肝要、と主張している。
このあたりは(私の思い込みでは「オレの手腕で勝って見せる」的な人だと思っていたので)かなり意外な感じだった。

オリックスでは、フロントが1軍と2軍の選手の入替まで口出ししてきた、という主旨の部分があった。なんでもオーナーまで個人名を挙げて「一軍に上げたらどうか」などと直接言ってきたそうである。
楽天のオーナーだけじゃなかったんだ。っていうかどの球団でも日常のことだったりして。よく知らないけど、楽天の人はともかくオリックスのオーナーはそういうこととは縁遠いタイプだと思ってたんだけどなあ。
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満願

2016年03月13日 | 本の感想
満願(米澤穂信 新潮社)

いろいろなベスト10モノで高く評価されただけのことはあるなあ、と思わされるエクセレントなミステリ短編集。

「夜警」は警察(交番)もの、「死人宿」は怪談?系、「柘榴」はファミリー小説、「万灯」はハードボイルド系?のビジネス小説、「関守」はサスペンス、「満願」はホワイダニットと、各編がバラエティに富んでいるのに、いずれもミステリとして堅固な作り(伏線や回収がしっかりしている)になっていて、かつ、論理性も十分だった。

警察小説が好きな私としては「夜警」が一番のお気に入りだが、「柘榴」も今までに読んだことがないような意外性あふれる筋立てにうならされたし、「関守」も楽しく読めた。
結局、全部良かっただが、本作の中でもひときわ世評の高い「満願」は謎解きがやや拍子抜け気味だったような気がした。
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