蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

楽園

2010年12月06日 | 本の感想
楽園(宮部みゆき 文春文庫)

著者の初期作品は、超能力を持った年少者を主人公にした作品が多かったと思います。異常な能力を持ってしまった悲しみみたいなテーマはエスパーものの定番ではあるのですが、著者はこの主題を描かせては天下一品でした。

その後、エスパーそのものが登場する作品はあまり見かけなくなったのですが、本作は久々に他人の記憶を読めるいわゆるサイコメトラーの少年が重要人物となっています。
彼は交通事故ですでに亡くなっているのですが、残された母親がルポライターである主人公に、息子の不思議な能力を解明してほしいと依頼します。
息子が残したスケッチブックには、彼の生前には明らかになっていなかった殺人、死体遺棄(娘を殺した両親が自宅の床下にしたいを埋めていた)事件のシーンが描かれていました。
本作は、その事件の背後に潜んでいた別の悪事を主人公が暴いていくプロセスを描いています。

新聞連載であったせいか、少々長すぎるのですが、著者一流のストーリーテリングに乗ってサクサク読み進めるためあまり気になりません。

同じ主人公が活躍する「模倣犯」の犯人もそうでしたが、本作における犯人も読んでいてゾッとするほどの悪人として描かれています。
犯した事象がひどいというより、現実の世界のどこにでも、それこそ隣の家にもこうしたモンスター級の犯罪者がいそうな感じに描写されているせいで、そうなるのでしょう。


長い小説の最後まで読むとはじめてタイトルに込められた意味が浮かんでくるような構成は「理由」「模倣犯」と共通するものですが、個人的には、いずれもインパクト(「おお、このタイトルの真意はこうだったのか!」と、ドンデン返し的に驚かせてくれるようなもの)がないなあと感じられてしまいます。特に「模倣犯」は失敗だったのでは?壮大な物語がこのタイトルのせいで矮小化されてしまったような印象がありました。
同じ著者でもRPG系の小説のタイトルは大河小説らしい堂々たるものが多いと思うのですが・・
コメント
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