蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

本当はちがうんだ日記

2007年10月07日 | 本の感想
本当はちがうんだ日記(穂村弘 集英社)

貧乏人は金持ちにあこがれる。あんな大きな家に住んでみたい。毎日うまいものを食べてみたい。しかし、大金持ちは広い家にもうまいものにもあきあきして、わずらわしさのないシンプルライフに戻ってみたいと思う。

一般人は、皆に注目される有名人になってみたいと思う。しかし、この上もなく有名になってみると24時間監視されているような生活に耐えられず「普通の女の子」になってみたいと言い出す。

平和で安全な日本に住む人は、刺激を求めてインドや中東に旅立つ。

人間は今現在の自分の状態に満足しきることはできない。「ああ、オレは幸せだ」という感覚を持ち続けることは難しく、「ここではないどこか」を求めて世間的な幸福に背を向ける。
もしかしたら、そんなワガママこそが人類の文明・文化の進展に貢献しているのかもしれないが。

この本は、まさにタイトル通り「自分が本当に望んでいる自分は、こんな姿ではない」という思いを素直に吐き出したエッセイ集。
著者の高校時代の親友は学業優秀、スポーツもできて、美形で、それゆえとてもモテて、通学途中のバスの中でもらったラブレターの数は20通はくだらない(著者は一通ももらったことがない)。その事実を(うすうす感じてはいたものの)はっきりと親友が口にしたとき、著者は激しく動揺する。一方でその親友から「俺たち親友だろ」といわれて狂喜する。

著者は、大雨のターミナルでタクシー待ちをしている。とても長い列ができていて早くタクシーに乗りたいとイライラする。やっと次の次というところまで来た時、前にいた老人は著者の後ろにいた赤ん坊を抱えた女性に順番を譲って自らは著者の後ろに回ろうとした。自分は後ろに子供連れがいたことに気づかず、一方自分よりもつらいはずの老人にものすごく気の効いた行動をとられて面目を失う。

(いずれも実話かどうかは不明だが)「オレは本当はこうじゃない」「こんな自分はもういやだ」という誰もが持っている気持ちをとてもうまく表現できているエッセイだった。
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