蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

2021年09月06日 | 本の感想
渦(大島真寿美 文藝春秋)

近松半二は、幼いころから儒学者の父につれられて道頓堀の芝居小屋に入り浸り。やがて浄瑠璃の脚本家になり、妹背山婦女庭訓という大ヒット作を書く。半二とライバルの歌舞伎の脚本家:並木正三を中心に、江戸時代の芝居界の事情を描く。

半二も正三も、四六時中芝居の脚本のことばかりを考えているうちに、現実と虚構の境目がしだいに曖昧になってくる。
作中から引用すると「真っ黒な深淵がある日、蓋を開けるのである」「虚が実を食いちらかしていく」
クリエイターの危うさは、自殺者が多い(統計的に多いのかは知らないが、イメージとして多いような気がする)ことからも伺いしれるが、すぐれた創作者の業の深さのようなものをうまく描いている。

芝居小屋が集中した道頓堀は、そうしたクリエイターが集中する場所でもあり、虚実入り混じった彼らの生態と記憶が界隈に渦巻いているように感じられることが、タイトルの由来。

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