蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ウマし

2019年05月11日 | 本の感想
ウマし(伊藤比呂美 中央公論新社)

今はカリフォルニアに住む著者の食べ物に関するエッセイ。

食べ物のエッセイなのにその周辺のことばかり書かれていて、食べ物そのものの描写があまりない本があったりするが、本書は詩人らしい新鮮な表現方法でイキイキと食べ物を描く。
「黒トリュフの卵かき」に関する描写を引用すると・・・
「その卵は、あたしたちの口の中で、さっきまでおまえの体の中にいたのだと主張していた(ほんとはどこかのトリの体の中にいた)。トリュフは、森に生成するものはすべて、新芽も、朽葉も、蜘蛛の巣も、微生物も、木洩れ日も、自分のものだと主張していた。ソースは新鮮な赤い血が、時間が経って古血になりましたというような色だった。ああ、おお、いちいちが、かぎりなく獰猛だった。
しかし、新鮮なまっ赤なワインを口に含むや、その獰猛さがしゅっと鎮められ、あたしたちの老いた体に同化していったのである」

もう一つ、うな丼を引用・・・
「うなぎの身は柔らかい上にも柔らかかった。雲を食べてるようであった。タレはきりりっと引き締まっていた。潔くてすがすがしかった。雲の中には滋養がみっしりとつまり、それでいて引き締まった感じは、まるで日照りがつづいた後の雨雲のようであった。雷鳴のようにタレが響いた」

「黒トリュフの卵かき」「うな丼」といった、しゃれた(高価な)料理ばかりでなく、ポテチやチートスといったジャンクフードや、ドーナツ、そば、インスタントラーメンなどといった庶民?の味も登場するのだが、どれもとてもうまそうに思えた。

そういう、主題である食べ物を語る部分に加えて、本書を読むと力がわいてくるような気がするのは、いろいろな国を渡り歩き、離婚し、再婚し、子育てをし、親の介護をしながら詩人やエッセイストとしての仕事をこなしてきた著者の人生からエネルギーを与えられるせいだろうか。

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