蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

模倣の殺意

2015年01月08日 | 本の感想
模倣の殺意(中町新 創元推理文庫)

新人賞を受賞したが、2作目がなかなか書けない作家の卵が自殺した。彼には盗作疑惑も持ち上がっていた。本当に自殺だったのか疑問に思ったルポライターが彼の周辺を探り始めるが・・・という話。

創元推理文庫版の裏表紙に、鮎川哲也さんのコメントが掲載されていて「・・・読み進んでいくと、やがて、どうみても中町氏の書き誤りではないかと考えざるを得ない結論に到達する・・・」とあります。
この箇所(がどこか)は、非常にわかりやすく、そこを読むと明らかに違和感があり、「ダマされるな、オレ」とすぐに自覚できるのに、謎解きにはまだ距離がある、といった上手な作りになっているのに感心しました。

本書の叙述ミステリとしてのトリックは2つあって、そのうち1つは、まあ、よくあるパターンなのですが、もう1つの方は、真相を明かされると確かにびっくりします。というか、見方によってはトリックといえないほど単純で、ミステリとしてOKなのか、と疑いたくなる面もあります。

後から冷静に考えれば、ミステリの読者としては当然に考慮の範囲に入れなければならない事項なのですが、謎解きされたその瞬間は「えーこんなのアリ?」って思っちゃたんですよね。
まあ、単純でわかりやすいからこそ、東京創元の文庫にはいってから爆発的に売れたのでしょうけど。
ストーリー自体は薄っぺらな感じではありますが、読み返さないと理解できないような精巧なトリックや重厚で複雑なプロットのミステリより、むしろ爽快な読後感がありました。
コメント
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