蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

神の子どもたちはみな踊る

2015年01月17日 | 本の感想
神の子どもたちはみな踊る(村上春樹 新潮文庫)

「アイロンのある風景」→浜辺で焚火をする男の話。文中でジャック・ロンドンの「たき火」が紹介されていたので、読んでみた所、大変に面白い作品だった。

「神の子どもたちはみな踊る」→新興宗教に帰依した母親はシングルマザーだった。主人公は父親らしい耳たぶのない男を見つけてその後をつけるが・・・という話。「1Q84」の原型のような話だと思った。

「かえるくん、東京を救う」→主人公は信用金庫の不良債権の回収担当者で、そのハードボイルドぶりがかっこいい。地震の原因であるみみずくんと戦うかえるくんが主人公の前に現れて・・・という話。「かえるさん」と呼びかけると、必ず「かえるくん、だ」と訂正されるのが可笑しい。

「蜂蜜パイ」→作家である主人公は、新聞記者の親友に彼女を譲ってしまったことを悔いていたが・・・という話。こちらは「多崎・・・」の原型のような話に思えた。

阪神淡路大震災の後に書かれた短編集で、地震を擬人化したような場面がちらほら出てくる。村上さんの短編らしい安定した面白さはあったのだが、前述のようにジャック・ロンドンの「たき火」があまりにも良い作品だったので、それと比べると・・・と思ってしまった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

冷血

2015年01月17日 | 本の感想
冷血(高村薫 毎日新聞社)

私は、子供のころに乳歯を抜きに行った(昔は学校の歯科検診で乳歯が残っていると抜いてこいと言われたものだった。しかし、自分の子供ではそんなことは一回もなかったので、最近ではそういうことは必要ない、ということになったのだろうか?)くらいで、歯医者には縁がない人生を送って来た。

本作の犯人の一人は、強烈な歯痛に悩まされており、最後はアゴの一部を削ってしまうような手術を受けるに至る。この歯痛も犯行動機の一部になっていることもあって、歯が痛くなったことがない私でも多少は共感できるほど、そのつらさが執拗に描写される。
同じ著者の「照柿」でも歯医者が治療する場面が詳細に描かれていたし、もしかして高村さんも虫歯がひどいのだろうか?

三章に分かれていて、一章では犯人二人の、出会ってから犯行(都内の富裕な歯医者一家四人の強盗殺人)の直前までの行動を描く。
二章では合田雄一郎らの捜査陣が犯人を逮捕するまでを描いている。
ここまでが上巻で、犯行場面の描写が飛ばされている上に、犯人(井上・戸田)があっさりと見つかってしまうので、もしかして、殺人犯は別にいて井上・戸田が押し入った時にはすでに4人は殺されており、下巻で合田たちは犯人を追う、みたいな筋かと思ってしまった。しかし、犯人はやはり井上・戸田で、三章で犯行過程が(取り調べの形で)これまた詳細に語られる。

ミステリ的要素は排除されていて、警察小説とか犯罪小説ともやや離れた感じだし、現実の事件ともあまり似ていない。あえて言うと刑事訴訟法のサブテキストとでも言うのが適当かもしれない。

そんなもの読んで楽しいのか?と思われてしまいそうなのだが、けっこうスイスイ読み進められて、読後感も悪くなかった。
合田は終始傍観者的で冷めたムードだったのが残念で、次回はもうちょっと活躍もしくは苦戦してもらいたいなあ、と思った。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする