殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

里帰り

2023年08月12日 15時00分07秒 | みりこんぐらし
お盆ですね!

昨日からお盆休みの方も多いのではないでしょうか?

そしてお盆もお仕事の方、お疲れ様です。



さて我が家も昨日から、6日間のお盆休みが始まった。

男どもは休むけど、主婦の私は通常営業。

姑仕えをする身で一番きついのは、年中無休の勤務形態かもね。


町内のアパートで暮らす新婚の次男夫婦は

お盆だからといって、わざわざうちへ泊まりには来ない。

いつも会っているので、来させるほどのこともないのだ。


「盆正月に夫婦でお互いの実家へ泊まる習慣は、無しね」

帰省したければ、それぞれが自分の実家へ分散するように…

もちろん、嫁がこちらへ来たいと希望すれば歓迎する…

アレらの結婚にあたり、私の伝えた要望がこれ。

姑として、唯一の願いと言っていいだろう。

夫婦が盆正月に、お互いの実家へ帰省して泊まり合うのは

日本の悪習慣と思っているからだ。


「いいえ、僕は、私は、配偶者の実家で過ごす休暇を楽しみにしている」

そう言う人もいるだろうが、迎える人や泊まる人の性質によっては

きつい修行になる場合も少なくない。

離れて暮らす家族が合流して楽しいのは自分の実家だけで

配偶者の実家に泊まるのは辛いものよ。

考え方も生活習慣も違うし、メンバーだって仲良くできる人ばかりではない。

その中で我慢するのは、新参者と決まっている。

夫と結婚した頃は私も嫌だったし

盆正月に妻子と泊まりに来る夫の姉カンジワ・ルイーゼの旦那キクオも

見るからに辛そうだった。


ルイーゼは、結婚しても毎日欠かさず実家に帰って来るという

40年前にしては斬新な生活習慣を実行していた。

しかし盆正月になると急に古式ゆかしくなって

“盆泊まり”、“正月泊まり”と称し、家族で長逗留をした。

ルイーゼに放っておかれ、仏頂面でテレビを見る義父アツシと一緒に

狭い居間で過ごすしかないキクオ…

時折、おずおずとアツシに話しかけるが

返事は返ったり返らなかったりで、あと先は気まずい沈黙が続く…

気の小さいキクオには、ちょっとした拷問よ。


数年が経つとキクオにも知恵がつき

「友だちと約束が…」、「用事があって…」

などと理由をつけて、泊まらずに一人で帰るようになった。

そして翌日の夕方、再び訪れて夕食を済ませると

また「友だちと飲みに行く約束が…」と言い出し

妻子を残して帰る繰り返しだった。


けれどもある年、普段は口をきかない義理親に

どうしても伝えなければならない用ができたルイーゼは

珍しく自宅に電話した。

しかし電話に出たのが、友だちと釣りに行ったはずのキクオだったから

さあ大変。

嘘をついて家に帰っていたことが、ここで露見。

ルイーゼは怒り狂い、ひと悶着あった。

それっきり、盆正月にキクオが泊まる習慣は終わった。


このように、最初はうっかり配偶者に従っても

やがては嘘をついて逃げるようになったり

お泊まりが近づくと憂鬱になるなんて、あまりにもザンネンではないか。

だったら最初からやめておこうというのが、私の考えだ。


そういうわけで嫁のアサリ、いや、アリサはお盆を実家で過ごし

次男はその間、うちに預けられることになった。

彼は日中、趣味の鮎釣りに出かけるので、夜間の託児所みたいなもんだ。


しかし前日になって、ハタと気がついた。

結婚後、初めて泊まりがけで里帰りをするアリサを

手ぶらで行かせるわけにはいかんじゃないか。

何か持たせなければ。

子供が結婚するって、こんな贈り物の習慣が始まることなのね。


何がよかろうか…と思案した結果

酒豪のお父さんにはビール、甘党のお母さんはブドウに決定。

ビールは、長男のソフトボール仲間の酒屋から

ブドウは、夫が毎日通ってタムロしている青果店で調達する。

贈答品は、お世話になっている町内の店で買うことにしているのだ。


長男がビールを買いに行くと、酒屋の友だちはいつも言うそうだ。

「近くに激安店があるのに、いつもうちで買ってくれてありがとう」

長男も恐縮しつつ答える。

「こちらこそ酒を飲まないから、普段付き合えなくてごめんね」


これが大事。

確かに量販店で買えば、数百円だか千円だか安く買える。

しかし、この気持ちのやり取りはプライスレス。

折に触れ、息子たちに生き金の使い方を教えるのは

私のライフワークみたいなものだ。


青果店のほうは、夫にとって第二の家みたいなもの。

アリサの里帰りの手土産にすると言ったら、とっとと買いに行ってくれた。

便利じゃ。


この便利は、4月から入社したパート事務員アイジンガー・ゼットに由来する。

夫は彼女の入社以来、私が青果店の夫婦と接触しないように

ものすごく気をつけているのだ。

彼らの店で何かを買う必要にかられた時

私が行かなくてもいいように素早く立ち回るのである。


なぜってアイジンガー・ゼットは一時期

うちの夫や店主の妻、京子さんとバドミントン仲間だった。

どこでどうなったかは知らないが、彼女は京子さんの紹介で

クラブへ入会したことになっているのだ。


高齢者ばかりのクラブに40代の若手が入ったということで

メンバーは皆、喜んでいたらしい。

が、1ヶ月ほど来て、夫の会社へ入社した途端に辞めてしまったので

京子さんは彼女に腹を立てていると、別のバドミントン仲間から聞いた。


夫は、そんな彼女と私が顔を合わせるのを恐れている。

二人の話がアイジンガー・ゼットに及ばない保証は無いからだ。

夫がアイジンガー・ゼットを京子さんの親戚だと私に説明したことや

京子さんの愛するバドミントンを色恋の舞台に使ったことを知ったら

彼女は怒りでぶっ倒れるだろう。

同時に夫の信用は地に落ち、出禁になると思われる。


もちろん私は、そんな話なんかしない。

夫の嘘を暴露するのは、そのまま京子さんを傷つけることになるからだ。

不倫には必ず嘘が付いて回る。

嘘をつかなければ成立しないのが不倫だ。

その嘘をつくためには、必ず無関係の誰かを利用しなければならない。

利用された人が、それを知ったらどんな気持ちか。

不倫が罪深いのは、こういう面なのよ。

亭主の病気は女房一人で受け止めることであり

他者を巻き込んではならないと思っている。


しかし夫にしてみれば、気が気でない。

必死でガードしている様子だ。

そういえば毎年、京子さん夫婦が招待してくれていたビヤガーデンも

今年は無かった。

年に一度、7月の末に商工会議所が主催するもので

彼らは友だち夫婦や我々夫婦を呼んでくれていたのだが、夫は断ったのだ。

慌ただしい店と違い、ゆったりと飲み食いしながらおしゃべりに興じる数時間…

彼にとって、これほど危険な集まりは無かろう。


ビアガーデンは暑いのでどうでもいいが

思い起こせば昔から、夫はこうして無言のうちに

私の行動範囲を狭めてきた。

嘘がバレないようにするには、私を人に会わせない手段しか無いのだ。


しかし生活に支障は無いため、夫を恨む気は無い。

元気に稼いで口うるさくなく、しかも便利とくれば

それが私にとって最高の夫である。


というわけで昨日、アリサは車にビールとブドウを積み込み

「行って来ます!」と手を振って、島の実家へ帰って行った。

一人で帰らせるのはかわいそうな気がしたが

長い目で見たら、うちの場合はこの方がいいと思い直す私だった。
コメント (2)
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