殿は今夜もご乱心

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みりこんおばちゃんのお勝手相談室・仕事について・3

2016年04月13日 10時56分01秒 | みりこんおばちゃんのお勝手相談室
《この数年、古参のクロガネモチをしりぞけ

シンボルツリーになり変わろうとしている

菊桃さん、今年もよく咲いてます》



今回の精鋭は、私じゃなくて夫の所に来たの。

この人が一番の精鋭かもしれない。


《飛び過ぎた男》

6年前のある日、私は何の用事だったのか

たまたま夫と2人で会社にいた。

すると駐車場に、白いヤン車が乗りつけられたわ。

今どきシャコタンよ。

昭和にタイムスリップしたみたい。


車から降り立ったのは、一人の男性。

松葉杖をついて、片足はギプス。

服装は、ラッパーっていうの?

金髪に野球帽みたいなキャップ

ダボダボのトレーナーと膝丈のズボンに

ハイカットのスニーカーを片方。

ピアスも指輪も腕輪もジャラジャラ。


お堅い会社じゃないから

どんな格好してようが別にいいの。

ただし、その男性は40代後半くらい。

姉ちゃん婆ちゃんなら時々見かけるけど

兄ちゃん爺ちゃんってのは

なかなかお目にかかれない。

私は珍獣に出会ったような気分で

つい凝視しちゃった。


夫はその人と親しいわけではないの。

近くの会社で守衛をしている人で

顔は知っているという程度。


彼、C君は事務所の入り口に立つと

藪から棒にこう言った。

「ワシ、市会議員に立候補しちゃろう思いよん」

折りしも数ヶ月後に市議選が迫ってたわ。


「あ、そうなん?」

平凡な反応を示す夫。

夫のこういうとこ、実はひそかに尊敬してんの。

鈍いんだか平常心だか、驚きそうなところで

変に静かなのよ。

私だったら爆笑しちゃう。


「やり方がわからんけ、誰か市会議員、紹介して」

「いいよ」

夫は友人の市議、O君に電話をかけた。

私が専属でウグイスをやっているY市議とは別の人。


O君はちょうど議会が終わったところで

すぐに向かうと言ってくれた。

やがて到着したO市議、C君を見て少々驚いた様子。


「こんにちは、初めまして。Oといいます」

「あ、ども。立候補のやり方、教えて」

O市議、面食らっていたけど、そこはさすが議員。

「足はどうされたんですか?」

と心配そうにたずねる。

「折れたんよ」

「そりゃまあ、見ればわかるけど‥」


気をとり直して、O市議は聞いた。

「どうして市議になろうと思われたんですか?」

「今の仕事が嫌じゃけん、転職したいんじゃが。

尊敬されるし、ヒマそうじゃん」

「‥なるほど」


O市議は親切に、手続きや準備のあれこれを

わかりやすく説明。

C君は応接セットにふんぞり返ったまま

ふん、ふんと聞いていたわ。

「ま、およそわかったけん、帰るわ」

C君は松葉杖にすがって立ち上がる。

「外出許可取って来とるけん、はよ帰らにゃ」

彼、骨折して入院中だったのね。


「ゆっくり足を治して

それから立候補した方がいいですよ。

松葉杖で選挙活動するのは大変だからね。

お大事にね」

O市議に見送られ、C君は

「じゃ」

とクレヨンしんちゃんのように言うと

シャコタンに乗って帰って行った。

「もっとマシなのに会わせてや」

その後、O市議が夫に文句をつけたのは

言うまでもないわ。


そして4年の月日が経った一昨年

C君はまたシャコタンで夫の所へやって来た。

その頃、夫の会社で事務をするようになった私は

会社にいたので、再び彼を目撃する幸運に

ありついたってわけ。


「ワシ、今度こそ転職しちゃろう思いよん。

議員はワシに向いとる。

今年の市議選に立候補するけん」

事務所に入るなり、そう決意を述べるC君だけど

また松葉杖をついてるの。

前回も今回も左足だから、車が運転できるのね。


「足、また折れたんけ?」

夫がたずねる。

「うん」

「どうしよったん?」

「飛び降りたんよ」

「前の時も、飛び降りて折れたん?」

「時々、死にとうなるんよ」

「そうなん」

お互い、日常会話みたいにやりとり。


「足が治ってからの方がええで」

夫は変わらずの鈍感だか平常心だかで

普通に話してる。

「痛かろう」

「うん、まあ」

そう言うとC君は、きびすを返して

よっこらしょとシャコタン車に乗り込むと

改造マフラーの音もいさましく帰って行った。

その年の市議選に、C君は立候補しなかったわ。


結局のところC君は、時々死にたくなり

4年に1回、転職したくなる人らしいわね。

転職先に市会議員‥

向き不向きはともかく、斬新なアイデアだと思うわ。


次の市議選は2年後。

三たび、C君の訪れはあるのかしら。

今度もどこか折れてるのかしら。

それより、生存していればいいけど。

そこが心配よ。

(完)
コメント (8)
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