殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

続・長靴談義

2011年09月23日 09時31分06秒 | みりこんぐらし
前回でお話しした安子さんのご主人。

その後、アルバイトに精を出しておられる…

と言いたいところだが、まだである。


仕事は先週中に始まるはずだった。

ところが、明日が初出勤という日から、久しぶりの雨。

    「ごめんね…雨で、中止になりました」

「ええ~?せっかくその気になってたのに」

    「向こうから連絡があったら、すぐに電話するからね」

「長靴買わなきゃならないから、早めに電話をちょうだいね」

    「長靴、まだ買ってないの?」

「はっきりしてから買おうと思って…」


夫は後で首をかしげる。

「おかしい…何で長靴なんだろ…」

     「あら、面接の時、長靴がいるって言われたんじゃないの?」    

「長靴のナの字も聞いてないし、長靴がいるような仕事じゃないんだよな」

     「いらないって言おうか」

「そっとしとけ。

 なんかオレらにはわからん、こだわりがあるんだろ」


雨は3日降り、その後は機械が壊れ、合間で連休、そこへ台風接近…

と伸び伸びになった。

2週間近く経っても、いまだ初日を迎えられず。


その間にもう一人必要になり、安子さんのご主人と

ペアで働いてもらうことになったので、また別の人を紹介していた。

安子さんのご主人に断られた場合を考えて

目星をつけていた補欠の一人、太一君だ。


以前、夫の会社の社員だった彼のことをおぼえておいでだろうか。

退職して家にいた太一君の所へ、夫は復帰を頼みに行った。

復帰話は断られたが、その時、夫は気まぐれで

太一君に自分の頭を散髪してもらい、途中でバリカンが壊れる。

夫の頭は無残にも逆モヒカンとなった、あの太一君である。


おっとりとおとなしい彼は

夫の姉カンジワ・ルイーゼとそりが合わず、2年前に退職した経緯がある。

年は安子さんのご主人とそう変わらないが

独身で実家暮らしなので、同じ無職とはいえ

こっちはいささか悠長な雰囲気が漂う。


この太一君、面接で気に入られ

「明朝6時から作業があるんだけど、明日は1人しかいらないので

 とりあえず来てみてください」

と言われた。

長靴の話は、出なかったそうだ。


仕事があるなら、安子さんのご主人を先に…と言いたいところだが

誰を使うかは雇い主の勝手である。

夫も、ちゃんと朝6時に行くかどうか

心配するのが面倒だったので、押さなかったと言う。

「面接の10時でさえ遅れたんだ。

 その点、太一の犬は毎朝5時前に、太一を起こして散歩するから間違いがない」

夫は太一君本人よりも、彼の飼い犬“ケン”に

厚い信頼を寄せている口ぶりであった。


さて翌朝、太一君は5時半に出勤し

帰る時には、正社員になるように言われた。

安子さんのご主人が、太一君の踏み台になったと思う。

太一君は、見知らぬ他人によってゲタをはかせてもらったのだ。

そのうち安子さんのご主人にも仕事が振られるだろうけど

アルバイト期間が終わったらサヨナラなのは、これで確実となってしまった。


余談ではあるが、安子さんの姑さんは

とある公的機関へ長年勤め、職場ではそれなりの地位にいた人であった。

20年ほど前、その権限を生かして

当時、よその会社に勤めていた息子…つまり安子さんのご主人を退職させ

子育てが一段落した安子さんと、夫婦セットで自分の職場に引き入れた。


この話は、彼ら一家と一緒に働いていた人から、たまたま聞いた。

「公営か自営かわからん」という笑い話としてである。

いい気持ちではなかったということだろう。


安子さんはそのまま勤めて現在に至るが

ご主人のほうは、すぐに辞めてしまった。

女はしぶといけど、男にはいたたまれない雰囲気だったと察するのは容易である。

そこからご主人の転職癖が始まった。

あんまり無茶をすると、どこかで一番かわいい者に

しわ寄せが来るのかもしれない。




さて就職が決まった太一君は

「妹が大阪へ旅行に行ったから」と、土産のお菓子を持って来てくれた。

珍しいことである。

お礼のつもりだと思う。


お菓子の名前は、北海道土産の定番“白い恋人”ならぬ“面白い恋人”。

さすが大阪…つかみはバッチリ。

中味は、クリームを薄い洋風センベイではさんだゴーフルのような形状。

甘いんだけど、かつお風味のソース味。

何とも珍妙な味わいであった。
コメント (38)
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