電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

藤沢周平『獄医立花登手控え』シリーズを一気に読む

2016年05月26日 06時01分50秒 | -藤沢周平
毎週金曜日の夜に、テレビで藤沢周平原作『獄医立花登手控え』シリーズををもとにしたドラマを放送していますが、なんだかんだと都合が合わず、見逃してしまっています。残念ですが、ここは寝床脇の書棚に並んでいる原作の文庫本(講談社文庫)全四冊を、数日がかりで一気読みしました。

一冊ずつ、一話ずつ、断続的に読んでいるときは、獄につながれた者とそれにつながる市井の人々の姿が印象的ですが、連作を一気読みするときは、共通して何度も登場する人物が浮かび上がってきます。それは、主人公の立花登本人はもちろんですが、叔父・小牧玄庵夫婦や従妹のおちえ、おちえの遊び仲間のおあき、獄の同僚にあたる土橋桂順や平塚同心、有能な岡っ引の藤吉、下っ引の直蔵、登が通う柔術の鴨井道場の仲間の新谷弥助などの面々です。これらの登場人物の描写が、巻が進むにつれて次第に変化してくるところが実に面白い。

代表的なのがおちえでしょうか。生意気で小癪な小娘が、少々遊びが過ぎて、第一巻の最後に悪党どもに牢破りの幇助の人質として捕えられ、大立ち回りの末に救出されます。そして後の巻では、しだいに殊勝な娘になって、主人公の相手役らしくなっていきます。実に恋は成長の糧です(^o^)/

おちえの引き立て役のように、運の悪い役回りなのが、山猫のような眼をしたおあきでしょう。この娘は、遊び仲間から転落し、やくざの情婦になってしまうのですが、最後は実直な豆腐屋の女房としてようやく落ち着きます。

叔父夫婦の描き方は、実に人間観察が面白く、俗物性と医の仁術性とを共に見ているようです。とくに、流行らない医者の奥方というのは、こんなふうにしまり屋でなければやっていけないのだろうと思いつつ、ちょいと御免蒙りたいと思ってしまいます(^o^)/
藤沢周平の周囲に、もしかしたらこういう夫婦がおられて、それを誇張して描いたのかな、などと想像して、思わず笑ってしまいます。

何度も読み返していますが、その度にドキドキします。思わず引き込まれてしまうおもしろさです。同じ作者の『用心棒日月抄』シリーズでもそうですが、細部を味わいながら少しずつ読む楽しみと共に、シリーズを一気に読む楽しみ方もあります。どんなふうに読んでも味がある点で、藤沢周平作品はやっぱり良いですなあ。



昔の中井貴一主演のテレビドラマシリーズでは、篠田三郎さん演じる同心の平塚が良い役回りで、人気があったようです。原作ではそれほどでもないのですから、あれはきっとテレビ的な都合で、主役を助けるわき役としての創造なのでしょう。今度のリメイク版ではどんなふうに描かれているのか、興味深いところです。

(*1):藤沢周平『春秋の檻~獄医立花登手控え(1)』を読む~「電網郊外散歩道」2007年9月
(*2):藤沢周平『風雪の檻~獄医立花登手控え(2)』を読む~「電網郊外散歩道」2007年9月
(*3):藤沢周平『愛憎の檻~獄医立花登手控え(3)』を読む~「電網郊外散歩道」2007年9月
(*4):藤沢周平『人間の檻~獄医立花登手控え(4)』を読む~「電網郊外散歩道」2007年10月

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