電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

藤沢周平『愛憎の檻・獄医立花登手控え(3)』を読む

2007年09月27日 05時15分29秒 | -藤沢周平
講談社文庫で、藤沢周平『愛憎の檻・獄医立花登手控え(3)』を読みました。この巻も新装版で、文字のポイントが大きく読みやすいです。



「秋風の女」、女牢の新入りであるおきぬは、牢の下男の佐七を手なずけ、牢名主のおたつのひんしゅくを買っている。まだ若い佐七は、年増でやり手のおきぬを可哀想な女と信じ込み、頼まれた秘密の使いを果たすが、それは大きな危険を伴っていた。
「白い骨」、家を飛び出し、好き放題に暮らした男が、牢を出て古女房のところに戻ることになった。だが、男の面子からも、手っ取り早く金を手にして暮らしを楽にしたいと、危険な仕事に手を出す。古女房に抱かれた骨箱の中で、勝手な男がゆっくり休んでいるようだ。
「みな殺し」、牢内で芳平が死んだ。だが、牢名主さえ顔をそむけ、真実を語ろうとしない。牢名主もおびえるほどの極悪が牢内にいたということだ。ご赦免になった者の中で、むささびの七と異名を取る悪党は誰か。推理ドラマの要素もあり、緊迫感が快い。
「片割れ」、人は見た目が9割ではない。登もあやうく誤解した。この巻では珍しく、おちえの出番がある。
「奈落のおあき」、以前、おちえの遊び仲間だったおあきが、伊勢蔵という男の情婦になっているらしい。牢内で頼まれた嘉吉の子どもは、生命の危険があった。叔父とともにようやく子どもの命を救う展開は、医者らしい、いい場面だ。子どもを救ってもらった嘉吉は、礼として、黒雲の銀次の手下が牢内にいると密告するが、その夜に口を封じられてしまう。おあきを尾行した登らは、黒雲の銀次の一味を捕らえるが、おあきは奈落の底でうちひしがれている。かつて一緒に遊んだおちえとの対比が無情。
「影法師」、おちせは、母親を殺したのは加賀屋だと思っていた。だが、牢内に届け物をしてきたのは、加賀屋だけではなかった。小さな親切・大きな下心。



わがままな一人娘に変わりはありませんが、すっかり身持ちが良くなったおちえと、ライバルだったおあきとの対比が哀れです。現実にも、子どもの同級生等の可哀想な運命を聞いたりするにつけても、境遇や人との出会いの怖さとありがたさを感じます。叔父の小牧玄庵は酒毒に冒された俗物ですが、医師としての職業的倫理は好感を持って描かれています。医者が偉いのではない、医術が尊いのだ、という立場でしょうか。

写真は、ジョロウグモです。産卵するメスは強い。役目を終えたオスは、すでにひからびています。

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2 コメント

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藤沢周平 (mozart1889)
2007-09-27 07:56:56
おはようございます。
「重戦車」を「住専社」と変換してしまうワタシのアホなATOKでありますが、金融関係の仕事ではありません(^◇^;)。失礼しました。

藤沢周平、いいですね。僕はこの人の小説を読むと、一度訪ねた銀山温泉や山寺の風情、だだちゃまめや蕎麦の旨さを思い出します。
出羽国はエエところですね。
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mozart1889 さん、 (narkejp)
2007-09-27 19:49:01
コメントありがとうございます。「じゅうせん」で住専が出てくるところなど、なかなかやるではないですか、ATOK。私のVineLinux の日本語変換プログラムである canna は、縦線、十選、十千、十銭、拾銭、ジュウセン、で終わりです(^o^;)>poripori
藤沢周平の小説は、ほんとにいいですね。味があります。出羽国は、一雨ごとに涼しくなります。
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