電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

山形弦楽四重奏団第46回定期演奏会でハイドン、紺野陽吉、ベートーヴェンを聴く

2013年01月15日 05時55分29秒 | -室内楽
外は大雪。山形市が属する東南村山地方は、大雪警報が発令されておりました。朝も除雪を行ったのだけれど、夕方にはまた積もリましたので、出かける前にまた除雪機を動かしました。一日に二回の除雪とは滅多にないことです。それでも、文翔館議場ホールで開かれた、山形弦楽四重奏団第46回定期演奏会には、ずいぶん大勢のお客様がお見えでした。



私が到着したときは、今まさに今井東子さんのプレトークが始まろうとしているところでした。以前の担当の時は、初めてで上がってしまい、声が後ろまで届かなかったようだと反省し、今回は後ろまで届くように心がけたい、とのこと。大丈夫、最後の列でしたが、なんとか聞こえました。今回は、演奏順ではなく、ハイドン、ベートーヴェン、紺野陽吉の順に解説を加えます。ハイドンは、エステルハージ候の死去後の様々なエピソードを、ベートーヴェンは、耳に快いばかりではないけれど、病が癒えた者の祈りのエピソードを、そして紺野陽吉は初演のことを解説します。全体に民謡調のもので、西洋音楽風の味付けがされているが、何の民謡なのか、山形でわかるのではないかと期待を表明します。

さて、いつものように、向かって左から第1ヴァイオリンの中島光之さん、第2ヴァイオリンの今井東子さん、ヴィオラの倉田譲さん、そして右端にチェロの茂木明人さんが座ります。本日の曲目は、次のとおり。

(1) ハイドン 弦楽四重奏曲 変ホ長調 Op.64-6
(2) 紺野陽吉 弦楽三重奏曲~生誕100年記念~
(3) ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第15番 ニ短調 Op.132

そして、演奏が始まります。

(1) ハイドン「弦楽四重奏曲Op.64-6」
第1楽章:アレグロですが、テンポは落ち着いたもので、柔和な感じの演奏になっています。その中では、チェロがけっこう主張しているように感じ、好感が持てます。第2楽章:アンダンテ。途中の曲想が変わるあたりから、四人の呼吸がぴったり合ってきたみたい。第3楽章:楽しいメヌエット、アレグレット。第1-Vnの中島さんが、こういうチャーミングな旋律を奏でているのは、失礼ながらパパ中爺みたいでおもしろい。超ハイポジションも、二回目は破綻なくぴたりと決まりました。第4楽章:フィナーレ、プレスト。緊密なフーガ?ハイドンらしい、晴朗で快活な、男性的な楽章です。良かった~。
全体に、お気に入りの「第三トスト四重奏曲」と呼ばれるOp.64の6曲の一つなだけに、聴いている回数も多く、欲を言えば第1楽章でも、第4楽章のようなハイドンらしい晴朗さがもう少し欲しかったかなと感じましたが、それにしてもこの曲を実演で楽しめるのは実にありがたい限りです。

(2) 紺野陽吉「弦楽三重奏曲」
第1楽章:アレグロ・マ・ノン・トロッポ。なるほど、基本的には西洋音楽の範疇にありながら、たしかに民謡風のところがあります。第2楽章:冒頭で、ヨーイイサノマカーセーが少し聞こえるような(?)アンダンテ・カンタービレ。第3楽章:アレグロ・マ・ノン・トロッポ・コン・レッジェーロ。ソーラン節みたいなところもある始まりです。互いに自己主張する弦楽三重奏のおもしろさがあります。

(3) ベートーヴェン「弦楽四重奏曲第15番イ短調Op.132」
第1楽章:チェロから始まります。アッサイ・ソステヌート~アレグロ。実演は、録音とはだいぶ違った印象を受けます。もちろん良い方で、ボヤけない、充実した音楽であることが、ひしひしと伝わります。
第2楽章:アレグロ・マ・ノン・タント。この時期のベートーヴェンとは思えない優美さを持った楽章です。優しいスケルツォと言ったらよいのでしょうか、でもやっぱりベートーヴェンらしい力感を感じさせるところもあります。
第3楽章:とても静かなモルト・アダージョ。素晴らしい音楽の素晴らしい演奏でした。一人の中年男が、神に祈りを捧げている。曲想は少し変わってアンダンテに。モルト・アダージョに戻り、第2-Vnが歌い出すところは、とても味わいがありました。全体に、この長大な緩徐楽章は、聴く方にも何がしかの人生経験~たぶん、悲しみや苦さなど~が求められるのでしょう。再びアンダンテに戻り、第1-Vnが歌う旋律のステキなこと!中島さんも今井さんも倉田さんも茂木さんも、音楽に没頭して、ほんとに気持ちよさそうに見えました。いえ、ご本人たちは必死なのだと思いますが(^o^)/
四人の響きが作り出すハーモニーに思わず聴き惚れました。ただし問題は、ここで終わるわけではなくて、さらに第4、第5楽章へと続きます。
第4楽章、第5楽章:2つの楽章が続けて演奏されます。アラ・マルシア、アッサイ・ヴィヴァーチェ~ピウ・アレグロ~プレスト。そして最後はアレグロ・アパッショナート。まるでハイドンのような明朗な曲の出だしが印象的ですが、すぐに曲想は変わり、Piu Allegro に。さらに Presto に変わって、堂々たるフィナーレ・・・にはならない。そこがこの時期のベートーヴェンです。最後の楽章には、再び悲哀の色が現れています。

たぶん、精も根も尽き果てて、アンコールはなし。白鷹町方面に帰る方々は、帰りの雪の状況が心配で、とてもアンコールの余裕はなかったかもしれません。おそらく正解だったのではないでしょうか。

それにしても、良い演奏会でした。私にとっては、何といっても生のベートーヴェン!!素晴らしかった。続いて紺野陽吉。自らの作品を師に託して出征して行った若い作曲家の運命を思ってしまいます。ハイドンの第1楽章は、もしかすると後の2つの作品の重さに、やや引きずられた面もあったのかもしれません(^o^)/
いやいや、そんなことよりも、やっぱりカルテットのおもしろさを満喫できた、幸せな演奏会でした。

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