電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

高橋義夫『艶福地獄~花輪大八湯守り日記(3)』を読む

2013年01月07日 06時04分05秒 | 読書
中公文庫で、高橋義夫著『艶福地獄』を読みました。『湯けむり浄土』『若草姫』に続く、山形県最上郡大蔵村の山深い湯治場・肘折温泉を舞台にした「花輪大八」湯守り日記」シリーズの第3巻です。

新庄領外れの山深い湯治場、肘折温泉。二十歳の藩士で具足術の名手にして、「火花の」と異名をとる暴れ者、花輪大八は、友を救わんとした私闘を咎められ、勘当同然にそこの湯守り役を与えられた。湯守りとは温泉を管理する村役で、収入は湯銭と酒代。勤番の老人・勘兵衛、張番の次郎吉、世話役の六兵衛や、奉行所の手先・合海の伝兵衛ら、一筋縄ではいかない連中との毎日が始まった。………そして、いわくありげな湯治客たち今日も肘折を訪れる。

このシリーズは、山深い湯治場を舞台としてはいるものの、典型的なグランドホテル・スタイルの時代小説です。

第1章:「狐の嫁入り」。御城下から、女子衆が五人もそろって湯治に来ます。地蔵講という触れ込みで、いずれも家中のしかるべき身分の女たちばかりです。先達は、摂州医師・赤根思庵、地元の医師・松木泉庵によれば医学知識は確かなもののようで、どうやら婦人科の治療が目的らしい。ところが、妻に性病を感染させた夫が無理強いに妻を連れ帰ろうとする事件が起こったりして、どうも一行は波乱含みのようです。

第2章:「雛祭り」。事の性質上、どうしても隠して秘密が多くなる治療を、村の男衆は切支丹伴天連の秘法ではないかと疑いますが、逆に女たちは自分たちも診てもらえないかと期待を寄せます。ところが、地蔵講の女に石つぶてが投げられる事件が発生します。

第3章:「湯治養生訓」。石つぶてを受け負傷した杉山れんは小太刀の心得があり、投げた者は兵法の心得のある者だと言います。村の悪童の悪戯ではなさそうです。城下からは、大八が縁談を断ったものだから、娘の父親の庄司左内が存念を確かめるためにやって来ます。どうも、こちらも一筋縄ではいかない頑固者、無骨者らしい。例の妻女を無理に連れ戻そうという騒動もまだ続いており、村の女たちも思庵に婦人科の診察を希望し、波乱含みが続きます。

第4章:「子を盗ろ」。村の女たちは、薬師講と名づけて薬師堂に籠らせ、思庵の診察を受けさせます。庄司左内は相変わらず頑固に居座り、大八の具足術の朝稽古を隠れ見て、ますます婿に欲しいと言い出します。地蔵講の女中の一人が懐妊していると村の女が見抜きますが、曲者たちは静江という女を襲い、執拗に下腹を踏みつけるという暴挙に出ます。婿は諦めるが娘を肘折温泉に寄越すという庄司左内は、殿の寵愛を受けた腰元の懐妊と、家老と結ぶ奥女中の陰謀を懸念します。もしかしたら、静江さまが殿の御愛妾なのでは?

第5章:「女難と剣難」。ここまで筋が進めば、あとはクライマックスに向かってまっしぐらに進みます。せっかくの物語ですので、あらすじは省略しますが、表題の由来は、婦人科を専門とする医師・思庵の、次の言葉のようです。

「わたくしが女子衆の相手をしとるから、知らん人は妬んで、やれ色医者や、艶福で羨ましいなどと冷やかします。たしかに艶福なのかもしれんが、わたくしにとっては艶福も六道地獄の一つですわ」(p.294)

なるほどね。題名で、一瞬、過度の愛欲を描く物語かと懸念しましたが、やはり著者は男子校出身ではないかと思わせる(*)だけのことはあり、むしろなりゆきでお家騒動への展開を阻止する結果となってしまう、というお話でした。

(*):高橋義夫『湯けむり浄土~花輪大八湯守り日記』を読む~「電網郊外散歩道」2011年11月

【追記】
脚注の『湯けむり浄土』のリンク先が誤っていましたので、訂正しました。

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