電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ユーリー・ボリソフ『リヒテルは語る~人とピアノ、芸術と夢』を読む

2011年01月30日 06時02分51秒 | -ノンフィクション
過日、図書館で借りてきた本で、ユーリー・ボリソフ著『リヒテルは語る~人とピアノ、芸術と夢』を読みました。一時は幻のピアニストと呼ばれた、飛行機ぎらいのためシベリア鉄道経由で来日したという、スヴィヤトスラフ・リヒテルへのインタビューをまとめた本です。何の脈絡もありませんが、当方が面白く感じた部分を抜粋してみます。

ーリヒテルの冷蔵庫には日本酒しか入っていなかった。ほかには何もない。住居の反対側にある「ニーナの冷蔵庫」まで行くはめになる。日本酒の瓶をひっつかんでー。(p.133)

いちばん好きな作品は何だと思う?違う。ベートーヴェンの第32番(ハ短調Op.111)ではない。彼のソナタなら、もっと若い番号を好むね。ー違う。プロコフィエフの8番でもない。違う。スクリャービンでもない。確かに第五ソナタには熱い思いがあるけれど。ー答えは、シューベルトの《さすらい人幻想曲》さ。私の導きの星だ。あの音楽を神のように崇めている。だからあの曲をあまり損ねるわけにはいかないんだ。(p.160)

ラフマニノフは自分の手のレプリカを残した。だが、何の値打ちがあるんだ?レプリカはピアノを弾かないぞ!(p.166)

一度ニーナにこう言ったことがある。「うちにも子供が欲しい!」と。本心だった。「だが、ニーノチカ、その子をすぐに九歳にしてくれるかい?手がかかるのはごめんだ。大きくなって、知恵がつくまでにそんなにかかるなんて!」(p.183)

へ~。リヒテルは日本酒好きだったのか!などというびっくりはありますが、本書を読んだからといって、何か客観的なものとしてリヒテルの音楽を理解する助けにはならないようです。過酷なスターリン時代を生きのびた演奏家が、インタビューに正直に答えるものかどうか疑問だというよりも、むしろ風変わりな、独特な想像力が印象的。主観的だが幅広い芸術的な裏付けを持っているようです。ネイガウスの指導とは、どんなものだったのか、興味深いものがあります。

ところで、所有の有無にかかわらず、当方の印象に残っているリヒテルの演奏・録音は、以下のとおりです。

(1) グリンカ 「ロシア歌曲集」ニーナ・ドルリアク(Sop.)
(2) シューマン「交響的練習曲」
(3) シューマン「色とりどりの小品」ブラームス「六つの間奏曲」
(4) ベートーヴェン「三重協奏曲」オイストラフ、ロストロポーヴィチ、カラヤン指揮ベルリンフィル
(5) ベートーヴェン「ピアノソナタ第3番、第4番」
(6) ベートーヴェン「チェロソナタ第3番・第5番」ロストロポーヴィチ(Vc)
(7) チャイコフスキー「四季」ラフマニノフ「音の絵」
(8) ブラームス「美しきマゲローネのロマンス」フィッシャー・ディースカウ

数えてみると、意外に少ないものです。たぶん、レコード会社のドル箱スターだったので、廉価盤には入りにくかったからでしょう。
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