電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

シューマン「交響的練習曲」を聴く

2007年02月28日 06時37分04秒 | -独奏曲
R.シューマンの「交響的練習曲」を初めて聞いたのは、おそらく学生時代だろうと思います。NHK-FM「大作曲家の時間」で、かなり長期間、R.シューマンを特集したことがありました。そのときのテーマ音楽が、この「交響的練習曲」の冒頭の旋律でした。シューマンの手紙や評論の文章や様々なエピソードとともに、年代を追って作品を紹介する構成のあの番組を監修したのは、たぶん吉田秀和氏ではなかったかと思います。毎週欠かさず聞いたものでした。今、もう一度聞けるなら、ぜひ聞いてみたいラジオ番組のトップに位置する名番組だったと思います。

LPを購入したのは、1970年代の後半かと思いますが、スヴィャトスラフ・リヒテルがスケールの大きな演奏を展開するレコードでした。「クレスハイム宮のリヒテル」と題された3枚からなるシリーズの一つで、1971年の9月にザルツブルグのクレスハイム宮で録音されたものです。ベーゼンドルファーを用いたベートーヴェンのピアノソナタ第27番がA面に収録され、A面の続きとB面に、スタインウェイを用いたシューマンの「交響的練習曲」が収録されていますので、シューマンだけを聴きたいときには、LPの中ほどの溝に針を降ろす、緊張の一瞬がありました。

先にショパンの「12の練習曲」作品12が出版され、大いに刺激を受けたシューマン、1834年にこの「交響的練習曲」を作曲します。実はこの主題を作ったのがフォン・フリッケン男爵で、その娘のエルネスティーネにのぼせたシューマンが、お父さんの御機嫌伺いの思惑を秘めた動機もあっての作曲のようです。しかし、わずか18歳の少女エルネスティーネが、美貌とは裏腹に意外に教養が低いことに失望したとされていますが、なに、惚れっぽいシューマン(24歳)は女性を見る目がないだけの話。あまり他人のことは言えませんが、この後はクララひとすじになるわけなので、まあいいでしょう(^o^)/

今、CDで聴いているのは、エフゲニー・キーシンの演奏です。キーシンが、若々しい感性で、とにかく速く活きのいいテンポで弾いています。1989年の2月のアナログ・ライブ録音です。

曲は、魅力的な旋律と和声で始まり、これを主題として多彩に変奏されていきます。ピアノ音楽の魅力を存分に味わうことができます。残念ながらせっかくのCDが全曲インデックスなしで収録されており、こまかくこの変奏曲だけを聴きたい、というワザは使えません。けれども、幻想的なスタイルを明瞭に示す第1練習曲から、最後の第12練習曲まで、主題から遠ざかったり近付いたりしながら見事な変奏を展開していく様が、よくわかります。遺作変奏の挿入位置は、中間部にまとめて演奏するリヒテルとは少し違うようです。

演奏データは、次のとおりです。
■エフゲニー・キーシン(Pf)
total=27'10"
(遺作変奏1~5は、別々に挿入されている模様。)
■スヴィャトスラフ・リヒテル(Pf, LP:Victor MKX-2002)
I=10'05" II=24'00" total=34'05"
(Iは第1練習曲から第5練習曲、IIは遺作変奏1~5に続き、第6~第12練習曲)
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14 コメント

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終曲だけをよく・・・ ()
2007-02-28 09:46:02
こんにちは。この曲は何故か終曲だけが耳に親しく
好きで、全曲は殆ど聴いていなかったものです。
古い録音ですがロベール・カザドシュの盤を持っています。
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丘 さん、 (narkejp)
2007-02-28 18:54:37
コメント、トラックバックをありがとうございます。ほんとに終曲がいいですね。せっかくのCDなのですが、曲ごとにインデックスがついているといいのに、と思ってしまいます。昔は、LPで、溝の振幅の具合から大体の見当をつけて針をおろす高等技術(?!)を持っていました。今は老眼でもう無理ですね~(^_^;)>poripori
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Unknown (e g u c h i)
2007-02-28 21:18:14
シューマンのこの曲は、これまでちゃんと聴いたことがありません。
私もこのところ4つの交響曲をかなり集中的に聴いています。素晴らしいですね、良い音楽と思います。といいますか、ほとんど初めてシューマンの良さに触れたような、、、これがきっかけになって交響的練習曲も、きちんと聴いてみましょうか。。。
ところで「大作曲家の時間」は、ほんとうに懐かしいですね~。それとたしかに「いつもR.シューマン」だったような記憶もあります。
吉田氏の解説も、もういちど聞きたいです。(一昨日に珍しくNHK-FMをつけましたら、吉田氏の声が聞こえ、ブルックナーの8番を紹介していました)
ともかく、「大作曲家の時間」などはライブラリ化してほしいですね。
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e g u c h i さん、 (narkejp)
2007-03-01 06:27:12
コメントありがとうございます。シューマンの音楽は、ロマン派の精華という感じがしますね。ピアノ曲では、謝肉祭や幻想曲、ソナタや子供の情景などとともに、この交響的幻想曲が大好きです。
吉田秀和さんが監修しアナウンサーが手紙等を朗読した「大作曲家の時間・R.シューマン編」は、ぜひ再放送するか、おっしゃるようにNHKがライブラリ化してほしいものですね(^_^)/
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シューマンの音楽 (pino)
2007-03-01 10:48:51
交響的練習曲、いい曲ですね。自身、優れたピアニストだったこともあり、そのピアニスティックな作曲技法は古今のピアニストの重要なレパートリーになっていますね。ショパンの闘争的とも言える激情とは違って、ドイツロマンの馥郁たる香りお思わせる音楽とでも言いましょうか。私は、「幻想曲」や「ウィーンの謝肉祭の道化」等が好きです。キーシン、素晴らしいですね。子供の頃、神童として話題になりどの様に成長していくのかと見ていましたが、立派に成長して世界でも指折りのヴィルトゥオーゾになりましたね。解釈が正統的で本当に素晴らしいと思います。人間性も魅力です。
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pinoさん、 (narkejp)
2007-03-01 19:26:28
コメントありがとうございます。シューマンの「交響的練習曲」、大好きな曲です。キーシンは、少年の頃の騒がれ方が、なんだか遠い昔のように感じます。最近の演奏や近況を知りませんので、今はどんな演奏家になったのか、興味深いです。世代が交代していくのは、嬉しいような、寂しいような(^_^;)>poripori
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ヴァレリー・アファナシエフのリサイタルに行きました (畑山千恵子)
2007-12-16 19:49:20
7日、ヴァレリー・アファナシエフのシューマンリサイタルへ行きました。プログラムは子供の情景、op.15、3つの幻想小曲集、Op.111、交響練習曲、Op.13でした。個性的でありつつもシューマンの本質を描き出した名演でした。交響練習曲は、遺作変奏の入れ方が巧妙なタイミングでした。音も素晴らしく、響きもよいものでした。これは最近のシューマン演奏では出色のものだと思います。
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畑山千恵子 さん、 (narkejp)
2007-12-16 21:33:24
コメントありがとうございます。東北の田舎で、冬になるとほとんど隠遁生活を余儀なくされますので、アファナシェフのシューマンが素晴らしかったなどとお聞きすると、羨望のまなざしです(^o^)/
シューマンの音楽、一般の愛好家にも、もっともっと聴かれて良いように思います。
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グリモーさん (nabukoanastasia)
2007-12-19 07:57:53
昨日、グリモーについて、久々に記事にしました。自伝的随筆も、日本語になり、講談社から出ているんですね。

私は、最初、エレーヌさんと同じ先生につくためにパリに行ったのですが…、その後、スイスの方に住む演奏家師事を10年間受けました。その方も、シンフォニックエチュードのCD出しているんですが。

個人的に、交響的エチュードは、ポゴレリッチのが好きでしたね。野性的で。



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nabukoanastasia さん、 (narkejp)
2007-12-20 21:24:20
コメントありがとうございます。エレーヌ・グリモーさん、フランスに戻ったのですね。nabukoさんも、来日?(帰国?)時に風邪など引かれませんように。12月、当方はなかなか音楽を聴くゆとりが持てません。週末が恋しい師走です。
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