電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩。時々は実際に散歩を楽しみます。

諸田玲子『お鳥見女房』を読む

2008年08月12日 05時29分27秒 | 読書
お鳥見という世襲の職業は、中年になって長男が出仕するようになると回ってくる、幕府の密偵も任務の一つなのだとか。夫があわただしく旅立つのと同時期に、父を訪ねて妙な男がやってきます。ずうずうしく居候を決め込んだこの巨漢には五人もの子どもがいました。さらにこの男を父の敵と狙う若い女まで、こともあろうに息子が連れてきて居候するようになり、とまあ筋立ては多彩な要素が盛り込まれています。ただし、印象としてはわりに淡々とした展開です。

両頬にえくぼを浮かべる、一家の要の役回り、主婦の珠世さんはしっかり者ですね。藤沢周平の『用心棒日月抄』に登場する細谷源太夫は、憎めないがなんとも救いようのない、しょうもない性格に描かれていますが、こちらに登場する石塚源太夫さんは、登場の仕方こそ

板塀に目をやり、珠世は凍りついた。
晒台の生首よろしく、男の顔がのぞいている。
ごつい顔だった。大ぶりの目鼻のなかでも、ことに目がぎょろりと大きい。日焼けした顔を薄っすらと無精髭がおおっている。うなじで一つに束ねた総髪は、本来の毛質か、長いこと洗っていないのか、ごわごわで灰色にくすんでいた。
男も目をみはった。縁側に座している女を見つめ、思案している。
ふたりは黙したまましばし見つめ合ったすると不思議なことに、珠世のなかからすーっと恐怖が遠のいた。

というようなものでしたが、磊落ではあってもずさんな性格ではなく、神道無念流の達人です。第6章「忍び寄る影」の結末などは、巨漢と乙女のロマンス風。さらに、音信不通となった、珠世さんの夫君の捜索に、自ら出かけることを申し出ます。世話になった礼とはいえ、いとしい多津さんを置いて、ずいぶん立派な心がけです。思わず続きが読みたくなる、成程これが人気連続シリーズの始まりなのですね。



写真は、わが老母がせっせと干している、梅干です。こちらは果肉が軟らかい品種ですので、そのまま食べるのはもちろんですが、一部は鰹節と一緒に刻んでペースト状にしていただきます。
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