電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

マルティヌー「交響曲第1番」を聴く

2008年08月30日 06時46分13秒 | -オーケストラ
作曲家にとって、「第1番」という番号は、やはり気合の入るものなのでしょうか。晩年には作風が変わってしまう人でも、第1番の作品を聴くと、その人本来の個性がうかがえるようです。

マルティヌーという作曲家は、私にとってはそれほどなじみ深い人ではありませんでした。CDでピアノ協奏曲第5番や、N響アワーで交響曲第4番(指揮はアラン・ギルバート)を聴いたことがある程度です。それだけに、1942年、50歳の作曲家が、米国でクーセヴィツキー夫人追悼のために依頼を受け作曲したという、この交響曲第1番は興味深いものでした。

マルティヌー(1890~1959)はチェコ出身の作曲家で、まだ若い時代にフランスに留学、ルーセルに師事し新古典主義に傾倒します。後、ナチスから逃れてアメリカに移住し、活躍します。6曲ある交響曲のうち、1番から5番までの5曲が、アメリカ時代にかかれているそうです。後年ヨーロッパに戻りますが、戦後のチェコの体制を忌避し、生前は祖国に戻ることはありませんでした。チェコの当局から見れば、歓迎すべき存在ではなかったのでは。

でも、ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコフィルは、マルティヌーの音楽を、批判的にではなく共感を持って演奏しているように思います。1970年代のアナログ録音による交響曲全集の中の1枚(DENON COCQ-84038)、スプラフォン原盤です。録音は充分に鮮明で、力強さをよくとらえているように思います。

第1楽章、モデラート。重々しいというよりはむしろ、やや悲劇的な色彩を持つ、叙事詩的と形容できるような始まりです。急なダイナミクスの変化を抑え、徐々に高まっていく長大なクレッシェンドが、この曲と演奏に特徴的と言えるでしょうか。
第2楽章、スケルツォ:アレグロ~トリオ:ポコ・モデラート。リズムがとてもいきいきしています。途中、オーボエがしゃれた旋律を聞かせます。これが副主題か。なかなかかっこいい音楽です。ミヨーやプーランクに通じる新古典主義的な共通性も感じられますが、力感のある音楽です。
第3楽章、ラルゴ。低弦がユニゾンで重苦しい、悲劇的な雰囲気の旋律を奏でる、まさに哀歌です。ピアノが低音を連打しますが、弔いの鐘の音を模しているようです。途中、イングリッシュ・ホルンが印象的に使われています。
第4楽章、アレグロ・ノン・トロッポ。この曲としては比較的明るいのどかさがあるロンド・フィナーレです。ピアノが効果的。力強い前進力が支配的になり、盛り上がって終わります。

■ノイマン指揮チェコフィル盤
I=10'31" II=7'59" III=9'00" IV=9'28" total=36'48"

50歳ではじめて交響曲を書いた作曲家の人生は、ホテル暮らしの長いコスモポリタンのようでありながら、実は世界大戦と政治体制に阻まれた望郷の生涯だったのでしょうか。


コメント (4)