電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

黒田恭一『はじめてのクラシック』を読む

2007年08月17日 05時02分00秒 | 読書
講談社現代新書で、黒田恭一著『はじめてのクラシック』を読みました。初版刊行は昭和62年、当時、著者は音楽評論家としてちょっと変わった立ち位置で活動していたように思います。当時の音楽評論家というと、吉田秀和氏が大御所として高みを守り、中島健蔵氏や遠山和行氏、大木正興氏などの諸氏が現役で活動していた頃です。当時、黒田氏は、少々てらいのある文体で、周囲がカラヤン指揮ベルリンフィルの演奏をほめないときでも、その演奏の美しさを率直にほめる、数少ない評論家でした。執筆の場も広く、雑誌「暮しの手帖」など一般の雑誌にも寄稿しておりました。

そんな著者が、当時、クラシック音楽の入門書をどんなふうに著していたのだろうかと興味を持ち、購入したのがこの本です。

主な構成は、次のようになっています。

1. クラシック音楽とのつきあいはむずかしくない、または、無愛想な男と友だちになる方法~すてきな音楽に出会ったら、書き留めておこう。愛称のない曲は、作品番号をメモする。
2. シンフォニーはフルコースのディナー、または、つまみぎきのすすめ~気に入った楽章を何度もつまみぎきしていくうちに、他の楽章にも興味を持つようになります。
3. ソナタ形式を耳で読む、または知ることの功と罪~尋ねる耳で。小学生がモーツァルトのホルン協奏曲第1番で主題を探す「音探しゲーム」。素手で聴き取る、時には知識が邪魔をすることもある。
4. コンサートできく音楽と再生装置できく音楽、または、一緒もいいが孤独もいい~不運に泣くコンサートも、CDの感動を分かち合えない孤独も、両方ありうる
5. オペラは「みる」ものか「きく」ものか、または肥満したカルメンを許せる理由~LP全曲盤できいてオペラの楽しみを知り、ビデオディスクでオペラをみる愉しみを知る
6. クラシック音楽も生きている、または、きかれる音楽の栄枯盛衰~バロック音楽のブームはLPとともに、大管弦楽はステレオレコードとともに。レコードやCDで音楽の好みも変わる。古楽演奏など、クラシック音楽も時代の空気を感じている。
7. 旅は道づれ、または、好きな音楽家をガイドにみたてて~音楽ノートを作ろう。好きな音楽家を道づれに、音楽の世界を旅する。
8. 損をしないディスク選び、または、名曲・名演の「名」にまどわされない賢明なききてへの道~好きな作品の好きな演奏のレコードやCDは買わない、ちょっと辛抱すれば、好きな曲は増える。
9. 「聞く」か「聴く」か、または、音楽の微妙さについて~きき流される音楽は悲しい、聴はくわしくききとること。音楽を「聴き」たい。

正しい指摘だなぁ、と思うこと。
(1) すてきな音楽だなぁ、と思ったら、曲名や作品番号を書き留めておく。
(2) 好きな演奏家をガイドに見立てて
(3) きき流さず、じっくり聴き取ろう

違うなぁ、と思うこと。
(1) 「ヘンな」クラシック音楽マニアを、そんなに意識する必要があるのだろうか。今の時代、ピアノや吹奏楽や合唱など、自分で演奏したりする積極的な世代が多くなり、「ヘンな」クラシック音楽マニアは相対的に減少して、あまり目立たなくなっているのでは。もっと普通にクラシック音楽に接している人が増えているのではなかろうか。
(2) 好きな曲をじっくり聴くからこそ、好きな演奏ができるのでは。むしろ、いろいろ購入して、好きな曲、好きな演奏を増やしていくべきだろう。

写真は、寺参りに行ったときに見つけたオニユリです。最近は、園芸品種の立派なユリが多くなり、自然のままのオニユリをあまり見かけなくなったように思います。
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