電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

本多孝好『真夜中の五分前』を読む

2007年08月14日 10時43分28秒 | 読書
文庫になると、普段は手にしそうにない本を読みます。今回のこの本『真夜中の五分前』もそう。手頃な薄さの、side-Aにside-BとLPを模した二冊本です。

広告会社に勤務する、有能だがプレイボーイと噂の主人公は、つき合っていた女性がまた去っていっても、淡々と見送ります。実は、学生時代に恋をした水穂という女性を交通事故で失ったときから、感情の深い部分がしなびてしまっているのです。
たまたまプールで知り合った双子の姉妹の一人、かすみと親しくなり、婚約した妹かおりのために贈り物を探す手伝いをします。
この双子の姉妹は、完璧にそっくりで、区別がつかないほどでした。ですが、姉かすみにはある秘密がありました。そして、再び起こった事故により、秘密は哀切な色を帯びて浮かびあがります。

とまあ、こんなふうに紹介できるのでしょうか。結末は書かないでおきますが、本多孝好さん、たいへんにうまい作家ですね。水穂さんの墓の前の場面など、中年オジンもちょっと切ない気分になりました。

いくつか、しょうもない感想を。

(1)どんなに見かけがそっくりでも、双子を見分けることはできるのでは。姉妹が全く同じバランスで育つことはできません。一方がわがままを抑えないと、関係を保つことができません。だから、会話の文脈を離れて観察すると、視線の上がり具合・目を伏せる頻度が、確実に違います。でも、それを言ってしまうと、そもそもこの物語が成り立たないのでしょう。
(2)セヴィリヤの礼拝堂で古いロザリオを盗む場面、シャーマン(巫女)のような描写は必要なのでしょうか。事故などで人が亡くなるのは唐突なものです。なにも劇的に飾る必要はなかろう、と思います。
(3)事故の後、本人自身がどちらの人格だかわからなくなる、という想定は、ちょっと不自然。作者は、男性の双子の場合でも、同じ想定をするでしょうか。むしろ、作者の女性観の現れでしょうか。
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