電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

シューベルト「交響曲第9番」を聞く

2006年05月14日 21時41分12秒 | -オーケストラ
午後から晴れた日曜日、ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団の演奏で、シューベルトの交響曲ハ長調「ザ・グレイト」D.944を聞きました。番号は第9番とされることが通例でしたが、最近は第8番とされることもあるとか。それはともかく、彼の死の半年前の1828年に、ウィーン楽友協会に提出するため作曲されたものだそうです。ところがウィーン楽友協会は、あまりにも重苦しく長大であると拒否、結局この交響曲は日の目を見ずにシューベルトは32歳で亡くなります。現在「音楽の都」と呼ばれるウィーンは、多くの音楽家が失意のうちに亡くなった街でもありました。

その十年後の1838年、ローベルト・シューマンはウィーンを訪れ、ベートーヴェンとシューベルトの墓に詣でます。そして、だれか縁者に会いたいものだと考え、シューベルトの兄弟でフェルディナント・シューベルトに会いに行きます。フェルディナントは、シューマンが文筆活動を通じてシューベルトに賛辞を贈っている事を知っており、遺された多くの楽譜を見せたのでした。その中に、このハ長調の大交響曲があることを見つけたシューマンは、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団で演奏することとし、翌1939年に実際に初演されます。このあたりの事情は、吉田秀和氏が訳したシューマン著『音楽と音楽家』(岩波文庫)に、「フランツ・シューベルトのハ長調交響曲」という文章として記載され、臨場感あふれる興味深い読み物となっています。

第1楽章、アンダンテ-アレグロ・マ・ノン・トロッポ。ゆったりしたテンポ、堂々たる歩みです。
第2楽章、アンダンテ・コン・モト。イン・テンポで、きっちりしたリズムを刻みながら演奏されます。シューマンはこの曲を「ジャン・パウルの四巻の大部の小説に劣らず、天国のように長い」と評していますが、マーラーやブルックナーを経た現在、イン・テンポの快感は感じても、それほど長いとは感じません。
第3楽章、スケルツォ、アレグロ・ヴィヴァーチェ。流れるような軽快なスケルツォです。
第4楽章、アレグロ・ヴィヴァーチェ。きっちり正確なリズム。金管楽器の突出を避け、バランスを取りながらも、ここぞという場面では輝かしく音楽が発散します。

ジョージ・セル指揮するクリーヴランド管弦楽団の最後の録音の一つであるこの演奏は、イン・テンポの魅力を存分に発揮し、シューベルトの古典的な様式感を感じさせる演奏になっていると思います。リズムの快感が通勤の音楽としても良いですし、今日のような休日に、音量を上げて音楽にひたるにも適しています。

1970年4月27/29日、クリーヴランド、セヴェランス・ホールで収録されたEMI録音で、LPの番号はEAC-55003、解説は西村弘治氏です。

■セル指揮クリーヴランド管弦楽団、1970年のEMI録音
I=14'12" II=14'27" III=9'40" IV=11'38" total=49'57"
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