1980年代、第5世代コンピューターの開発プロジェクトのリーダーを務めた淵一博氏が亡くなられたと、今日の新聞で知る。
そのプロジェクトが始まりつつあった時期、まだ自分は大学生だったが、氏の講演を聴いたことがある。その頃というと、1973年の第一次石油ショックからほぼ10年。沈滞した気分から脱して、高度に発達した情報通信が主導する新しい時代の到来が期待されていた。そして、第5世代コンピュータープロジェクトも影響して、人工知能ブーム(英語のArtificial Inteligenceの頭文字を取ってAIブームと言われることの方が多かったと覚えているが)が巻き起こった。
AIブームでイメージされたものは人によってさまざまであったようだ。本当に高度な知性を持ったコンピューター(映画「2001年宇宙の旅」に登場するHALのような)が実現すると思った人もいただろうし、情報処理産業の現場にいた人は自分の仕事が楽になることを期待した人も多かっただろう。
自分はと言うと、SFものや小学生のときに読んだ「21世紀の世界」(のようなタイトルだったと思う)という本に書いてあった、老若男女誰でもコンピューターという便利な機械が楽に使えるようになる、技術的なブレークスルーがもたらされることを期待した。その当時、大学のコンピュータ教育はまずプログラミングから入っていたし、パソコンはもう世に出ていたが、ソフトを買ってきてインストールして使うというより、BASIC言語でプログラムを作って使うのが当たり前の時代だった。しかも、操作手段はキーボードから英数字と記号を打ち込んで使うしかない。マウスで画面上の矢印を動かして操作するコンピューターは、研究所レベルではあったのだが、そんなことは全く知らず、もう数年たてば世に出回るということも予想だにしなかった。
結局、AIで全く新しいコンピューターが出来て世の中が変わるということはなかった。AIブームというのは、1980年代のバブル経済時代に咲いたあだ花だったようだ。
第5世代コンピュータープロジェクトは、技術的にはさまざまな成果を上げてはいたのだろう。しかし、不幸なことにまわりからの期待が異常なといっていいぐらい大きすぎた。プロジェクト終了後に、「失敗」と断じたコンピューター雑誌もあった。言ってもしょうがないことだが、もし、バブル経済の時代と重ならなかったら、評価も違ったかも知れない。それを考えると、淵氏が気の毒に思えてくる。
ご冥福を心よりお祈りいたします。
さて、今日は晩飯はなか卯で親子丼と冷やしの小うどん。
夜はダンベルの下半身メニュー。