イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「牧野富太郎と寿衛 その言葉と人生」読了

2023年05月04日 | 2023読書
牧野一浡/ 監修 四條たか子/著 「牧野富太郎と寿衛 その言葉と人生」読了

世の中はみんなミーハーだ。「らんまん」が始まってから図書館の新刊書の書架を覗いてみると牧野富太郎関連の本が3冊も並んでいた。
今年度の上期の朝ドラは偉人がモデルということで、こんなのを見ていると自分が恥ずかしくなるだけだと思い、また、BSでは待望の「あまちゃん」の再放送が始まるので「らんまん」は観なくてもいいやと思っていたのだが、番宣のなかであまりにも精密すぎる植物のスケッチが紹介されていて、その絵を描いたのがこの人だということだったのでいきなり興味が湧いてきた。

あんまり分厚い本を読むほどの関心もないので、一番薄くて写真もいっぱい入っているこの本をとりあえず借りてみた。

読み終わった後、この感想文を書くために牧野富太郎の生涯についてAIにまとめてもらった。これも時代だ。感想文を書くのも楽になってくる。



牧野富太郎の生涯をAIに簡単にまとめてもらうと、
『牧野富太郎は、日本の植物学者で、「日本の植物学の父」といわれる人です。高知県出身で、幼少から植物に興味を持ち、独学で植物の知識を身につけました。多数の新種を発見し命名も行った近代植物分類学の権威で、日本の植物図鑑の基礎となった『日本植物図譜』や『牧野日本植物図鑑』などの著書があります。1957年に94歳で亡くなりました。』
だそうだ。
私生活についてまとめてもらうと、
『1888年、26歳で寿衛(すえ)と結婚し、13人の子どもを授かりました。植物研究に身を委ねることができたのは、寿衛や友人、後援者の支えがあったからです。多額の借金を背負って、債権者に追われるような日々が続いたこともありました。植物採集や講演に日本全国を飛び回り、94歳9ヶ月でその長い生涯を終えました。』
という答えが返ってきた。
そのほか、こんなこともあったそうだ。
『借金や浮気の問題で、家庭や職場にもトラブルが起きました。大学の書物や標本を使って個人の名前で研究発表をしたことで、厚顔と非難され、大学を出入り禁止になりました。他の植物学者との間にも、植物の命名や分類に関する意見の相違がありました。』

この本にも大体同じようなことが書かれていて、もう少し補足を加えながら直近までのドラマの展開と事実の違いをまとめてみたい。
ドラマとほぼ一致している部分は、
まず、この人の自己肯定感の強さだ。ドラマの中では、早川逸馬とジョン万次郎との会話の中でのこのセリフによく表れている。『植物が好きで緑豊かな地に暮らし、植物の絵がよ~描ける。そのうえ英語で読み書きができ、日本の植物を世界に知らせることができる。そういう人間が今、ここに居合わせちゅう。』
脚本家というのは表現が上手い。この一言でこのひとの性格を完全に表している。
そして、これはありえないだろうと思った姉、綾との結婚話というのは本当にあったことだそうだ。ドラマでは従弟ということになっていて、実際も従弟である猶(ゆう)という人がいた。ちなみに祖母のタキに当たる人は祖父の後妻で富太郎とは血のつながりのない人であったらしい。家の商売を守るため、猶とは体裁上は夫婦となっていたこともあるらしいが、後には竹雄と思しき井上和之助という番頭と結婚したそうだ。
ドラマと異なる点は多々ある。
小学校の教師に誘われるシーンで、万太郎はそれを断ったけれども事実ではなんと15歳で、中退した小学校の臨時教員として働いていたそうだ。
坂本龍馬とジョン万次郎に出会っているが、どちらの人物もその頃には土佐に滞在していたという可能性が少なくてほぼ作り話である可能性が高い。最近の朝ドラはご当地出身の俳優をよく起用しているが、この二人もその一環として登場させたのだろう。
シーボルトの図鑑を目にしたのも東京での体験であったようである。
自由民権運動についてはもう少し真剣に取り組んでいたようで、「公正社」という結社の副社長を務めていたほどだそうだ。土佐で自由民権運動というと板垣退助が思い浮かぶので早川逸馬は板垣退助だろうと思ったのだが、牧野富太郎とは50歳ほどの年齢差があるので別の人物であるらしい。同じ活動家で植木枝盛という人がいて、この人のほうがイメージ的には近いらしい。
勧業博覧会へ行ったのは、お酒の出品のためではなく博覧会そのものが目的であった。博物館(今の東京国立博物館)を訪ねたのは事実で、いとうせいこうが演じた里中芳生にも本当のモデル(田中芳男)がいたそうだ。

これからの展開だが、いよいよ東京に出て植物学の道に邁進することになるのだろうが、事実の中には朝ドラには似つかわしくないエピソードもたくさんあるようだ。
学歴は小学校中退にも関わらず、学位を得て東大で教鞭を取り、現代にも通用するような書籍や図鑑を著するなど偉大な面の裏には、教授との確執や浮気、お金に無頓着で破産寸前の綱渡りの生活、それでも13人(寿衛は15人の子供を産んでいるそうだ)の子供をもうけ、「このお方は浮世離れしていなさるよ。物狂いだよ」と言われるように周りのことは気にせず好きなことだけをやって生きていたというような面もあるようだ。
関東大震災に遭ったときには科学者としての一面なのだろうが、もう一度その揺れを体験してみたいという、今ならきっと炎上間違いないコメントをしていたりする。
大学を出禁になったというのも、この本では教授にその業績を嫉まれたというような書かれ方をしているが、AIは別の理由を揚げている。
対して、寿衛のほうはそうとうしっかりした人で、借金取りがやってきてもひとりで相手し、それから逃げるため18回も引っ越しもやりそんな中でも自分でお茶屋をやりながら最後には自分たちの家を持つまでがんばったというのだからそこは朝ドラ向きなエピソードが満載なのに違いない。
それでもやっぱりこの人はよほど人望が厚かったのか、たくさんの人が援助の手を差しのべてくれたそうだ。2度も東大を出禁になりながらそのたびに呼び戻してくれた人たちがいたし、経済的な援助も、有名な人たちでは三菱財閥の岩崎家や、ツムラ薬品の創業者たちがいたそうだ。
そういったところも朝ドラ向きではあるのだろう。

光あるところには必ず影があるものだが、そのバランスがどのようにドラマに盛り込まれてゆくのかが楽しみだ。

酒蔵の御曹司で学歴がないけれども偉大な科学者というと南方熊楠を思い出す。和歌山の人ならなおさらだろう。僕もドラマを観始めて真っ先に思い浮かんだのが南方熊楠だった。
どちらも昭和天皇にご進講をやったというほどの人物だが、富太郎のほうが朝ドラのモデルになれたのはやっぱり清潔さという部分が大きかったのだろうか。実家が富豪でお金に無頓着で使い放題という共通点はあるが、富太郎のほうは植物採集に出るときでもジャケットを羽織っていたそうで、熊楠のほうは浴衣にフリチンであったというのだからビジュアル的にもドラマにしにくいのだろう。和歌山の人らしいといえばそうなのであるが・・。
かたや酒癖が悪く、かたや下戸なので酒のうえでの失敗はなかったというのもイメージとしては上だ。
また、朝ドラとしては奥さんのエピソードというのも大切だが、そっちも寿衛のほうがたくさんあったようだ。熊楠のほうでも探せばたくさん出てくるのだろうが、雑賀孫市同様残念なところではあるのだ。
熊楠の実家である南方酒造は今も健在なのに対し、富太郎の実家である「岸屋」は富太郎への多額の送金もひとつの原因(どれだけお金を使ったのだろう・・)となり富太郎の存命中に破産したそうだ。だから富太郎の後半生は相当お金に困った生活になったのである。岸屋のその後は、佐川町のその他の酒蔵と統合され、「司牡丹」で有名な司牡丹酒造として引き継がれているそうである。


ここまで書いておいて何なのだが、今期の朝ドラはやっぱり「あまちゃん」に軍配が上がる。ヒロインの神々しさについては能年玲奈のほうがはるかに光り輝いている。僕にとってはまるで聖書のようなものなのである。日本のドラマは「あまちゃん」を紀元としてその前後で語られ、キリストが命を賭して人々を罪から救ったように能年玲奈ちゃんは自分の名前を失うことによって日本のドラマ界を救ったのである。(日本のドラマ界に危機があったのかどうかは知らないが・・)
橋本愛はマリア様で、有村架純は能年玲奈ちゃんの名声を簒奪しようとするサタンなのである。そうなってくると宮本信子と小泉今日子は旧約聖書の創造の神、「ヤハウェ」そのものなのだ。「潮騒のメロディー」は讃美歌だ。
新約聖書の中、イエス・キリストの弟子として漁師が多く登場するが、これも「あまちゃん」の舞台設定と同じなのである。
また、ドラマではYMOの音楽が随所に使われているが、これも坂本龍一の死を予言しているかのようなのである。

植物の分類といっても、僕の中での分類は食べることができるかできないかということがわかればそれでいいと思っているので、そのことに人生をささげた人にはなかなか感情移入というのは難しいのだが、とりあえずはがんばれ「らんまん」なのだ・・。
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