イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「なぜテンプライソギンチャクなのか?」読了

2024年09月04日 | 2024読書
泉貴人 「なぜテンプライソギンチャクなのか?」読了

数日前の新聞のコラムに、『無用の事を為(な)さずんば何をもって有限の生を遣(や)らん』という言葉が載っていた。「死ぬことによってどんな意味づけもやがて無に帰すなら、無用の中に己を精一杯漂わせるほかない。」というような意味だろうとこのコラムの著者はかいていたが、この本の著者もこういう心で研究を続けているのだろうか。

著者はイソギンチャクの研究者で、それもカワリイソギンチャク(正確にはヤツバカワリイソギンチャク上科という)の仲間の分類をやっている分類学者だ。東京大学大学院の在学中の2018年に、「テンプライソギンチャク」という生物を新種、新属として記載したことで有名になったそうだ。著者は発見した新種に面白い名前を付けることでも有名だそうだ。テンプライソギンチャク以外にも、「ヘラクレスノコンボウ」「ヨウサイイソギンチャク」「ウミノフジサン」「ゲンシカイキ」という名前を付けた新種があるそうだ。

東京大学に入ってまでどうしてイソギンチャクの分類なのか・・。イソギンチャクって食べることはできたとしても地球の食糧危機を救うわけでもない。要はおそらくだけれども社会貢献にはまったく何の役にも立っていないような気がする。もし、この人の研究が社会に貢献しているものがあるとすれば研究費用を使うことでいくらかの経済の回転に貢献しているということくらいだろうか。だからもう、自己満足でやっているとしか思えないのである。
そこで最初の言葉が出てくる。きっと人生とはそういったものなのではないかと偶然読んでみたコラムによってこの本の真意がわったのである。
しかし、きっとそれは引き返すことができないところまで来てしまった白秋の老人が思うことであって、やたらとルビが多い構成を考えると中高生が読むような本なのだろうと思うので、大学での研究というのはこんなにドラマチックで面白く、やりたいことをやれ、我が道を行けということを伝えたいのだと思う。

しかし、この研究者はこの分野では確かに成功した学者には違いがないと思う。日本のなかでカワリイソギンチャクを語らせるとこの人の右に出る人はいないそうだから間違いない。
この人が無用の人なら僕なんかはもっと無用の人だったわけであるが、その違いというのは人脈と記憶力とコミュ力なのだと気がついた。何かを成し遂げるにはこの三つはきっと必要条件なのである。
そして、自己プロデュース力もすごい。東大卒というブランドを活かし、さらに学者らしくない風貌でそのギャップから強い印象を植え付ける。水族館と連携して研究成果を発信するというのも美味い考えだと思う。

自分の成功譚を面白おかしく伝えたいのだとは思うが、こういう類の本は、書き手がはしゃぎすぎると読んでいるこっちが醒めてしまう。洞窟の中にいる誰も知らない虫を探す研究者バッタを倒しに砂漠をさまよう学者世界の土を集める研究者ゴキブリを探し求める研究者などの本を読んだけれどもこんなにはしゃいだ書き方をしているひとはいなかったように思う。そこはちょっと残念に思うところであった。まあ、これも自己プロデュースの一環なのだとうは思うが・・。

テンプライソギンチャクというのは変わったイソギンチャクで、ウイキペディアを調べてみると、『体長は成体でも3-4ミリメートルしかない。カイメンの出水孔の脇に埋没するように棲息しており、刺激を受けるとカイメンの中に完全に隠れてしまう。本種とカイメンは、単に本種がカイメンの組織の隙間に入り込んでいるというレベルではなく、本種の外胚葉から出た繊毛が撚り合わさってカイメンの上皮に陥入しており、その結合は非常に強い。
また、自然下では必ず共生した状態で発見され、それぞれが独立した姿は確認されていない。
このため、本種とカイメンの間には、非常に強固な共生関係があると推測されている。本種は外敵に襲われてもカイメンの中に隠れて身を守ることができ、カイメンは天敵であるカイメン食性のウミウシから本種の刺胞で保護してもらえる。また、本種がカイメンの体を貫通し、かつ、両者が強く結合しているため、構造的に脆いカイメンが岩などの基質に付着するのを助けている。すなわち、両者は相利共生の関係にあるといえる。』
という生物でカイメンが衣でイソギンチャクの刺胞がエビの尻尾のように見えるので、著者はこういう名前を付けたということだ。ここまではしゃぐのなら、いっそのこと、「エビテンイソギンチャク」という名前にして、エビだかイソギンチャクだかなんだかわからないようにしてもよかったのではないかと思う。
そして、この本によると共生しているカイメンも新種である可能性があるそうである。この新種にはどんな名前が付けられるのか楽しみだ。



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