イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「SIGNAL シグナル」読了

2020年11月05日 | 2020読書
山田宗樹「SIGNAL シグナル」読了

う~ん、この小説はどのように評価したらいいのだろう。一応、「三体」の流れで借りてみた本だが、SF小説と言っていいのかどうか・・。そもそも、著者は多分SFとは全然縁のないような作家に思う。代表作は、「嫌われ松子の一生」だ。

あらすじはこんな感じだ。
あるとき、とある電波天文台が47分49秒周期で繰り返される明らかに人工的な電波を捉えた。それは、300万光年離れたM33さんかく座銀河からとどいた人工電波であった。
それに興味を持った、主人公である中学生がその話題について語り合いたいと望んだ相手が中高一貫校で学ぶ高等部の先輩である通称「ディラック」と呼ばれている風変わりな高校生であった。母親が天文学者であるという理由だけできっと話が合うだろうと考えたが、打ち解けるまでにはなかなか至らない。打ち解けたかどうかもわからない。
同時に、300万光年離れた世界からのメッセージを直接頭で聞くことができるレセプターという人たちが現れる。頭痛にも似た症状に悩まされながらも、同じようにメッセージを受けたものたちが動画投稿サイトを介して集まるようになる。
そして17年後、「ディラック」先輩は天文学者になり、謎のメッセージの解析に挑んでいる。主人公の後輩は科学ジャーナリストとなり、仕事の合間にメッセージの謎を追っている。

レセプターのグループは受け取ったメッセージから300万年前、地球に向けて大宇宙船団が発進したことを知る。侵略か、移民か、的なのか、友好的な相手なのか、それはわからないが、それをしかるべき人たちに知らせようとする。
そこでレセプターたちと主人公との接点が生まれる。

レセプターたちは、主人公を通して「ディラック」先輩たち、メッセージの解読者たちに自分たちの見た光景を知らせようとする。

そして、「ディラック」先輩のグループはついにメッセージの解読に成功する。その内容とは、300万年前、この星の人たち(M33ETI)は母星のある恒星が高温化することによる暴走温暖化のためいずれは居住できなくなることを知り、地球への移住をおこなうために大宇宙船団を発進させたが、M33さんかく座銀河を出られることなく全滅した。その間際、自分たちの行動とその進んだ科学技術の内容を、おそらくその頃には電波を受信できるようになっているであろう地球人に向けて発信するために宇宙空間に電波発射装置を残した。というものであった。

物語のかなり初めの部分に、「三体」が取り上げられていて、光年単位の距離の彼方からやってくる電波の速度と物理的な物質との移動速度のギャップを利用した設定はあまりにも似すぎているのでこのSF小説にインスパイアされて書かれたのかもしれないが、それがどうもSFとは言えないような・・というのが冒頭にも書いた感想だ。わざわざ「三体」というタイトルを盛り込んだのは逆にこの小説はSFではないと言っているのかもしれないと思えてくる。

しかし、それでは著者はこの小説を通して何を言いたいのか、それもよくわからない。SF小説なら、著者が自分の科学知識を駆使して空想の世界を作り上げるのだから、その空想世界そのものが伝えたいものであるとしていいのだろうが、一般的な小説というのはなんであれ様々なエピソードに何か著者の伝えたいことを盛り込んでいると思っている。

かなりのページを割いて書かれているのは、レセプターたちの人間関係だ。お互いをニックネームだけで呼び合い、最後のシーンまでお互いの素性を知らないまま物語は続き、その中でおお互いの中に友情や愛情が芽生えてくるのだが、そういった今風の人間関係を実験的に描いているのか・・。

唯一、示唆的に書かれているのはこの文章だ。
『人をある行動に駆り立てた〈理由〉は、だれかがその〈理由〉を探そうとする瞬間まで、どこにも存在しない。〈理由〉を探す行為によって〈理由〉が出現するのだ。そして探し当てた〈理由〉も、いかに説得力があるように見えても、それが真にして唯一の〈理由〉あることは滅多にない。』それは、M33ETIがどうして300万光年も離れた地球を選んだのかという疑問を持った主人公に「ディラック」先輩が語る考え方なのだが、それを強調したいというのならそれはいろいろなエピソードの中に埋もれてしまっている感がある。
謎の先輩とのコンタクトと異星文明とのコンタクトを掛け合わせて相手の意思を探るということは無駄なことだと言っているのなら、落ちが単純すぎる。

どれを取っても僕にはすべてが中途半端なものに見えてしまう本であった。
もっと読み込んでいる人の感想も聞きたいものだ。
コメント
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