イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「怖くて眠れなくなる化学」読了

2020年11月12日 | 2020読書
左巻健男 「怖くて眠れなくなる化学」読了

新刊図書のなかにタイトルが面白そうなものがあったので借りてみた。様々なところで利用される化学反応であるが、取り扱いを誤るとこんなことになってしまうということを、産業、家庭の中で、また、著者は教師をしていたというので理科の実験中の事故なんかも交えて書かれている。
そんなに怖くて眠れなくなるほどでもないが、最初の章に出てくる、塩化ナトリウムについての話題だが、よく考えたら塩素もナトリウムも単体では危険極まる物質だ。それが化合していると人間にはなくてはならなくなるものになるというのがまことに不思議だ。
塩素は旧ドイツ軍も使った元祖毒ガスだ。僕は2か月に2回くらいの割合で風呂の壁のカビ取りをするが、その時も塩素系のカビ取り剤を使うので喉と目がヒリヒリする。だから、消毒だといって昼間からアルコールを摂取してしまうことになるのだ。塩素はそれほど危険だ。ナトリウムにいたってはもっと危険で、水に落とすと分量によっては大爆発を起こす。
1995年、高速増殖炉「もんじゅ」がナトリウム漏れ事故というのを起こしたが、これも金属ナトリウムが原因だ。この事故についても詳しく書かれているが、500度の液体ナトリウムを冷却材として使用しいてたそうだ。熱交換系の配管というのはよく漏れる。僕も船の管理でこれは実感している。最終的な熱交換は水なのだが、ナトリウムは水と激しく反応するから厄介らしい。
ちなみに、「高速増殖炉」の意味であるが、何かが高速で増殖するのではなく、高エネルギーで速度の速い中性子を使ってウランの燃料カス(劣化ウラン)からプルトニウムを増殖させるという意味だそうだ。その中性子の速度を落とさないために普通の原子炉では水を使うところにナトリウムを使っているらしい。

自然の状態ではすべての原子は安定した化合物として存在しているが、人間は電気や他の化合物を使ってその安定を崩すことでエネルギーや有用(善であろうと悪であろう)な物質に変換して利用してきた。そこに無理が生じてしまうことがある。だからよくよく注意して取り扱うべきだというのが著者の考えのように思えた。
例えば農薬や殺虫剤。これがないと農作物を安定的に作れないし、危険な伝染病を防ぐことができない。しかし、使い方を慎重におこなわないと耐性をもった害虫がよけいに作物を食い荒らし、そこで使われるもっと強化された農薬や殺虫剤で人間の健康を脅かす。

硝酸アンモニウムについては直近の事故を取り上げている。8月のおこったレバノンの爆発事故だ。この物質は、爆薬の原料にもなるが肥料にもなるらしい。なんとも両極端な物質だが、密閉した状態で火が点くと高温、高圧という状態になり大爆発を起こす。これも取り扱いを誤った事例だろう。いつでもどこでも起こりうるという危険を警告している。

著者はそういうことを理科教育を通して伝えたいと考えてきたようだが、危険やゆとり教育のあおりを食って自分の理想とする教育ができない。そして、教師たちも危険という認識がなく事故を起こしたりもしてしまうということを嘆いている。

一酸化二窒素(笑気ガス)の話題も面白かった。麻酔にも使われるガスだそうだが、吸い込むと顔の筋肉が弛緩して笑ったような表情になるからこんな名前がついているそうだ。同時に気分も昂揚するのでドラッグ代わりにも使われる。糞尿からも出るようなガスだそうだが、『数時間にわたりふんの堆積物のにおいを嗅ぎ続けると、完全におかしくなってしまう。気分が悪くなり、頭痛がしてくることもある。』というような代物らしい。う~ん、ひょっとして僕が毎日会社で嗅がされている彼から発せられるあの臭いは笑気ガスだったりするのだろうか?気分は昂揚しないが、気分が悪くなり、頭痛がしそうになるのは確かだ。
ここ数日、コロナ患者が急増して、こんな安普請の仕切り板で不安な毎日を過ごしているがその前に笑気ガスの中毒になってはしまわないかと不安になる。



日常生活では化学変化といっても僕の身の回りではサンポールで貝の表面を溶かしたり、上で書いた風呂のカビ取りくらいしか経験するものがない。なかなか実感がわかないが様々なところで恩恵を受けながらも危険であるというのはよくわかるのだ。
僕も経験できるものとして重曹とクエン酸を混ぜると温度が下がるという実験が紹介されていた。100均にも売っているものなので僕も洗剤代わりに使っているものが家にある。「混ぜるな危険」というほどのものではないのでぼくも手のひらの上でやってみた。確かにてのひらが冷たくなる。シュワシュワ泡が出て面白い。これは感動ものだ。

化合にはイオン化傾向というものが関係しているが、僕の高校時代は、カリウムからスタートして金で終わるという順番だった。語呂合わせで、「カカナマアアテニスナヒドスギシャッキン」なんて言いながら覚えた(語呂だけ記憶があって、どのカナがどの元素を指すかはほぼ記憶がない・・)ものだが、今はカリウムの前にリチウムを入れて覚えるそうだ。後半は似たような語呂だが、最初は「リッチニカソウカナ・・」と覚えるらしい。
現代はリチウムイオン電池で脚光を浴びている金属だが、多分当時は何の役にも立たない金属だから取り上げられることもなかったのだろう。(カリウムも何の役にたっているのか知らないが・・。確か、人間の体にもカリウムが入っていて欠乏すると厄介というのは聞いたことがある。)これも時代の流れを感じるのだ。


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