ほそかわ・かずひこの BLOG

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救国の経済学17~丹羽春喜氏

2011-06-14 08:48:45 | 経済
●承知の上で「牽強付会の詭弁」を使う

 丹羽氏は、変動相場制には「信賞必罰」の性質が内包されていると言う。「ある国の政策当局が、国内的に総需要の確保を怠り(あるいは、それに失敗し)、不況を発生させ、デフレ・ギャップを生じさせてしまうと、その国の産業による輸出ドライブが激化し、他方では輸入が減るため、国際通貨市場においてその国の通貨の交換価値(為替レート)が高騰──日本の場合であれば円高が進行──して輸出も苦しくなり、結局、不況の永続化という『罰』を受けることになるということである」と丹羽氏は説明している。(「安倍政権の政策担当マシーン諸氏へ」)
 フリードマンも、変動相場制の「信賞必罰」の特徴を「十分に知っていたはず」であり、「当然、フロート制がうまく機能するためには「ケインズ的政策」が不可欠であるということも、彼はよく知っていたはずである」と丹羽氏は言う。「そうであるにもかかわらず、フリードマンたちが、一方でフロート制への移行を強く唱導していながら、他方で、きわめて大規模かつアグレッシブに反ケインズ主義のイデオロギー的なキャンペーンをグローバルに繰り広げてきたということは、きわめて矛盾していることであった。
 フリードマンほどの巨匠が、『うっかりミス』でそのような矛盾をおかしたなどとは、とうてい考えられない。だとすれば、彼は、有害な矛盾を承知のうえで、あえて、そのように思想攻勢的な活動を陣頭に立って繰り広げてきたのだということになる。
 すなわち、フリードマンら新古典派のスタンスからは、人類文明の現行の経済体制にあえて甚大なダメージを与えようと意図しているとしか思われないような破壊主義ニヒリズムを看取せざるをえないのである」と丹羽氏は述べている。
 そして、「実は、このような左翼思想と底流を同じくしていると思われるようなニヒリズムを、われわれは、マンデルのスタンスからも読み取らざるをえない」と丹羽氏は言う。(「安倍政権の政策担当マシーン諸氏へ」)
 マンデルについては、丹羽氏は次のように見ている。マンデルは、「とくに国際経済論の視点から、ケインズ的な財政政策の効果についてネガティブな判断を下していることで知られている。すなわち、彼の見るところでは、景気を良くするためにケインズ的な積極的財政政策が実施されても、その結果としてクラウディング・アウト現象が起こり、国内金利が高騰し、外国からの資金の純流入が増えて、国際通貨市場ではその国の通貨の対外為替レートが上昇する(日本の場合であれば円高が進行する)ので、輸出が困難になり、結局、そのようなケインズ的財政政策の景気振興の効果は失われてしまうことになるにちがいないと、されているのである。マンデルのこの議論の場合においても、あたかも、金融政策によってクラウディング・アウト現象の発現が防止されるようなことは無いものであるかのごとく、前提されてしまっているのである」と。(「新古典派は市場原理否認:新古典派「反ケインズ主義」は市場原理を尊重していない」) マンデルに対しても、丹羽氏は、フリードマンにおけると同様、理論的な問題点を指摘しているわけである。
 丹羽氏によると、「為替レートのハンディキャップ供与機能に支えられたリカード的『比較優位の原理』に基づく国際分業の利益を各国が十分に享受しうるということこそが人類文明の基礎であって、まさしく、それに基づく共存共栄の『右肩上がり』の世界経済状況を確立する効果をケインズ的な政策体系が持っている」。ところが、フリードマン、マンデル、ルーカスらの新古典派による反ケインズ主義の思想攻勢は、「そのような共存共栄の国際分業システムを破壊し去ってしまおうとする危険な意味合いを内含している」と丹羽氏は指弾してぎる。(「安倍政権の政策担当マシーン諸氏へ」)
 丹羽氏はフリードマンら新古典派の指導者たちは、彼らの理論が「いずれも、きわめて非現実的かつ妥当性を欠いた不自然なトリック的前提や仮定に基づいた牽強付会の詭弁にすぎないということを、よく知っているはずである」と言う。
 「日本経済が、(略)不況 → 円高 → 不況 の悪循環に捉えられ、為替レートという『ハンディキャップ』を大きく奪われて、産業空洞化と経済の衰退に苦しむことになるということも、かれらは、理論的に予測しえていたはずである。しかも、とりわけ日本経済の場合には、1970年代末から1980年代初頭のころに反ケインズ主義によって高度成長への復帰を急に阻止されてしまったのであるから、いわば激しいタックルを受けたのと同様な大衝撃であった。そして、このような日本経済の失速とその不況・不振の永続化は、早晩、アジア諸国の経済にとっても、大きな災厄──たとえば1997~98年のアジア金融恐慌──とならざるをえないということも不可避であった。フリードマンたち新古典派反ケインズ主義陣営は、このことも、はっきりと予見していたはずなのである」と丹羽氏は言う。
 では、どうして「きわめて非現実的かつ妥当性を欠いた不自然なトリック的前提や仮定に基づいた牽強付会の詭弁」と分かっていながら、彼ら新古典派の指導者たちは、反ケインズ主義の経済理論を展開したのか。また、日本経済やアジア経済に対する影響を予測・予見しながら、彼らは「牽強付会の詭弁」を弄したのか。そこには、政治的な目的があったと見るのが自然だろう。
 丹羽氏は、彼らに「破壊主義ニヒリズム」を見る。私はそうではなく、アメリカの世界戦略が、こうした欺瞞的な経済理論を利用したと考える。この点は、一通り新古典派への丹羽氏の所論を見てから、私見を具体的に述べたいと思う。

 次回に続く。

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