●日本復活のための政策提言
菊池氏は、著書『消費税は0%にできる』にて、「日本復活5ヵ年計画」と題した政策を提言している。
これまで本稿で紹介した理論と主張に基づく政策提言であり、政府・政党・政治家・有識者に対し、一つの提言として積極的に検討することを、私は希望する。
まず「日本復活5ヵ年計画」の前置き部分を、要約にて示したい。
「日本は1990年代後半から今日まで、新自由主義・市場原理主義という国家破壊の思想を無防備のうちに受け入れてきた。これが原因で、日本はアメリカ経済の破綻の影響を他国以上に強く受けている。日本の復活の条件は、新自由主義・市場原理主義を日本から一掃することである。『小さい政府』『均衡財政』『消費税病』を全面的に払拭することだ」
「市場原理主義は悪魔の論理である。これを一掃するための新しい理念が、『新日本型資本主義』であり、日本の復活のために『輸出大国』から『社会大国』へと国家理念を転換し、新たな経済政策を樹立することである」
菊池氏は「『新日本型資本主義』とは、『よき日本の復活』『健全な保守主義』をベースとして、『建設的な福祉国家』『一億総中流の豊かな社会の復活』『社会的インフラストラクチャー(社会的共通資本)の拡充』を図ることである」と言う。そして「われわれ国民の預貯金を日本国民のために活用すれば、これは十分可能である」と述べる。
菊池氏によると、「現在の日本が置かれている状況は、市場原理主義と偽装財政危機による緊縮財政によって、あらゆる面で社会的共通資本が破壊され、崩壊の危機に瀕している。そのため、国民の心が引き裂かれ、社会システムに亀裂が生じている。これが原因で経済発展が阻害され、税収が激減しているのである」。
そこで菊池氏は「新日本型資本主義」を提唱するのだが、「新日本型資本主義を樹立するためには、人間の尊厳と歴史・伝統を尊重した『ゆたかな国』づくりの理念が必要であり、社会的共通資本という概念をしっかりと認識すべきである」と言う。
社会的共通資本とは、宇沢弘文氏の『社会的共通資本』(岩波新書)によると、「一つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置」である。社会的共通資本は、「自然環境、社会的インフラストラクチャー、制度資本」の三つにわけられる。自然環境とは大気、森林、河川、水、土壌など、社会的インフラストラクチャーとは道路、交通機関、上下水道、電力・ガスなど、制度資本とは教育、医療、司法、金融制度などである。
菊池氏は「社会的共通資本の拡充」という視点から、今後、育成すべき成長産業分野を五つ挙げる。すなわち、①医療と医療産業、②教育と研究開発、③環境(CO2削減、都市整備、地方開発、森林育成整備)、④脱石油プロジェクト、⑤農業の自給率向上である。そして、これら分野・産業を「重点指向先に指定したい」と言う。
菊池氏によると、「これらの分野は、国内の産業基盤、社会的インフラの分野であり、その整備によって資本主義の安定した地盤を構築すべきである」。そして、「この分野に属する重点投資先の選定は、『輸出大国』から『社会大国』への歴史的転換を方向づけるものであり、内需中心で経済成長が可能になるように、新しい産業を育成・強化することである」と菊池氏は述べる。
また菊池氏は「雇用を最重垂視する経営方針を貫くべき」であると主張する。氏によると、「戦後の日本経済が高度成長した過程には、株主配当よりも雇用重視の考えがあり、これが企業の技術の発展と人材育成につながり、企業利益を増加させ、再び経営者と従業員に利益を戻すという好循環があった」。「内需拡大の過程で、日本の伝統的な経営手法と雇用のあり方(終身雇用、企業が従業員のセイフティネット)を思い出し、市場原理主義の伝染病から完治することだ」と菊池氏は提唱する。
そして、「日本の伝統的な経営手法の重視(社員・従業員重視、終身雇用、家族重視等)や非正規社員の原則廃止によって、社会的安定性を取り戻す政治経済政策をとるべきである。こうした社会基盤ができれば、経済が安定的に成長し、財政再建も増税なしで達成できる」と主張する。
わが国では過去8年間、構造改革が進められてきた。この間の都道府県別名目GDPの成長率を見ると、「一部の地域を除いてほとんどの県がゼロないしマイナスであり、都市部と地方との格差は拡大する一方」であり、「とくに8年間で累計60兆円も削減された交付税と公共投資の削減」が、地方を疲弊させたと菊池氏は指摘する。
構造改革によって国内はゼロ成長であるにもかかわらず、「その事態の大きさを隠蔽してきたのは、『円安バブル』『輸出バブル』によるGDPの粉飾であった。政府は極端な低金利と金融緩和で、円ドル相場を円安に誘引し、円安と輸出バブルを演出してきた」と批判する。
この間、わが国経済は輸出への依存を強めた。「GDPに占める『純輸出』(輸出から輸入を引いたネットの輸出)の割合は、1990年代では1%程度だった。しかし、2001~02年からこの比率が上がり、2007年には5%、金額にして25兆円を超える水準まで上昇した。」。
このように「翰出への依存が高まっていた状況で、2008年度後半から、アメリカ発の世界同時不況似が起こり、各国の株価が暴落し、海外需要が激減し、日本の輸出産業も大打撃を受けた」と菊池氏は説明する。しかし、今後は「アメリカの消費ブームはすでに雲散しており、欧州やアジアでも日本からの輸入は大幅に落ち込むであろう」と予測する。
それゆえ、日本は「輸出大国」から「社会大国」へ転換すべきである、と菊池氏は提唱する。「輸出中心の経済モデルが崩壊した日本では、内需を拡大して、内需中心の成長産業(先にあげた五つの分野)を育成していく経済モデルへの転換が求められる」と言うのである。
このように主張する菊池氏が、わが国の取るべき政策として具体的に提案しているのが、「日本復活5ヵ年計画」である。
次回に続く。
菊池氏は、著書『消費税は0%にできる』にて、「日本復活5ヵ年計画」と題した政策を提言している。
これまで本稿で紹介した理論と主張に基づく政策提言であり、政府・政党・政治家・有識者に対し、一つの提言として積極的に検討することを、私は希望する。
まず「日本復活5ヵ年計画」の前置き部分を、要約にて示したい。
「日本は1990年代後半から今日まで、新自由主義・市場原理主義という国家破壊の思想を無防備のうちに受け入れてきた。これが原因で、日本はアメリカ経済の破綻の影響を他国以上に強く受けている。日本の復活の条件は、新自由主義・市場原理主義を日本から一掃することである。『小さい政府』『均衡財政』『消費税病』を全面的に払拭することだ」
「市場原理主義は悪魔の論理である。これを一掃するための新しい理念が、『新日本型資本主義』であり、日本の復活のために『輸出大国』から『社会大国』へと国家理念を転換し、新たな経済政策を樹立することである」
菊池氏は「『新日本型資本主義』とは、『よき日本の復活』『健全な保守主義』をベースとして、『建設的な福祉国家』『一億総中流の豊かな社会の復活』『社会的インフラストラクチャー(社会的共通資本)の拡充』を図ることである」と言う。そして「われわれ国民の預貯金を日本国民のために活用すれば、これは十分可能である」と述べる。
菊池氏によると、「現在の日本が置かれている状況は、市場原理主義と偽装財政危機による緊縮財政によって、あらゆる面で社会的共通資本が破壊され、崩壊の危機に瀕している。そのため、国民の心が引き裂かれ、社会システムに亀裂が生じている。これが原因で経済発展が阻害され、税収が激減しているのである」。
そこで菊池氏は「新日本型資本主義」を提唱するのだが、「新日本型資本主義を樹立するためには、人間の尊厳と歴史・伝統を尊重した『ゆたかな国』づくりの理念が必要であり、社会的共通資本という概念をしっかりと認識すべきである」と言う。
社会的共通資本とは、宇沢弘文氏の『社会的共通資本』(岩波新書)によると、「一つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置」である。社会的共通資本は、「自然環境、社会的インフラストラクチャー、制度資本」の三つにわけられる。自然環境とは大気、森林、河川、水、土壌など、社会的インフラストラクチャーとは道路、交通機関、上下水道、電力・ガスなど、制度資本とは教育、医療、司法、金融制度などである。
菊池氏は「社会的共通資本の拡充」という視点から、今後、育成すべき成長産業分野を五つ挙げる。すなわち、①医療と医療産業、②教育と研究開発、③環境(CO2削減、都市整備、地方開発、森林育成整備)、④脱石油プロジェクト、⑤農業の自給率向上である。そして、これら分野・産業を「重点指向先に指定したい」と言う。
菊池氏によると、「これらの分野は、国内の産業基盤、社会的インフラの分野であり、その整備によって資本主義の安定した地盤を構築すべきである」。そして、「この分野に属する重点投資先の選定は、『輸出大国』から『社会大国』への歴史的転換を方向づけるものであり、内需中心で経済成長が可能になるように、新しい産業を育成・強化することである」と菊池氏は述べる。
また菊池氏は「雇用を最重垂視する経営方針を貫くべき」であると主張する。氏によると、「戦後の日本経済が高度成長した過程には、株主配当よりも雇用重視の考えがあり、これが企業の技術の発展と人材育成につながり、企業利益を増加させ、再び経営者と従業員に利益を戻すという好循環があった」。「内需拡大の過程で、日本の伝統的な経営手法と雇用のあり方(終身雇用、企業が従業員のセイフティネット)を思い出し、市場原理主義の伝染病から完治することだ」と菊池氏は提唱する。
そして、「日本の伝統的な経営手法の重視(社員・従業員重視、終身雇用、家族重視等)や非正規社員の原則廃止によって、社会的安定性を取り戻す政治経済政策をとるべきである。こうした社会基盤ができれば、経済が安定的に成長し、財政再建も増税なしで達成できる」と主張する。
わが国では過去8年間、構造改革が進められてきた。この間の都道府県別名目GDPの成長率を見ると、「一部の地域を除いてほとんどの県がゼロないしマイナスであり、都市部と地方との格差は拡大する一方」であり、「とくに8年間で累計60兆円も削減された交付税と公共投資の削減」が、地方を疲弊させたと菊池氏は指摘する。
構造改革によって国内はゼロ成長であるにもかかわらず、「その事態の大きさを隠蔽してきたのは、『円安バブル』『輸出バブル』によるGDPの粉飾であった。政府は極端な低金利と金融緩和で、円ドル相場を円安に誘引し、円安と輸出バブルを演出してきた」と批判する。
この間、わが国経済は輸出への依存を強めた。「GDPに占める『純輸出』(輸出から輸入を引いたネットの輸出)の割合は、1990年代では1%程度だった。しかし、2001~02年からこの比率が上がり、2007年には5%、金額にして25兆円を超える水準まで上昇した。」。
このように「翰出への依存が高まっていた状況で、2008年度後半から、アメリカ発の世界同時不況似が起こり、各国の株価が暴落し、海外需要が激減し、日本の輸出産業も大打撃を受けた」と菊池氏は説明する。しかし、今後は「アメリカの消費ブームはすでに雲散しており、欧州やアジアでも日本からの輸入は大幅に落ち込むであろう」と予測する。
それゆえ、日本は「輸出大国」から「社会大国」へ転換すべきである、と菊池氏は提唱する。「輸出中心の経済モデルが崩壊した日本では、内需を拡大して、内需中心の成長産業(先にあげた五つの分野)を育成していく経済モデルへの転換が求められる」と言うのである。
このように主張する菊池氏が、わが国の取るべき政策として具体的に提案しているのが、「日本復活5ヵ年計画」である。
次回に続く。