ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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インド32~インドラ・ヴァルナ・ミトラ等の神々

2019-12-22 09:40:06 | 心と宗教
◆インドラ神
 『リグ・ヴェーダ』の神々の中で中心的な存在は、インドラである。『リグ・ヴェーダ』の讃歌の4分の1が、インドラに捧げられている。インドラはインド・イラン人の時代に遡る古い神である。天空神の一つであり、雷電を神格化したものと言われる。
 インドラは仏教に採り入れられ、シナでは仏教を守る護法神の一つ、帝釈天となった。帝釈天の「天」は神のことであり、帝釈という名の神を意味する。
 『リグ・ヴェーダ』では、インドラは軍神として描かれている。インドラは、肌が黒く鼻の低い先住民族を退治する。先住民族は悪魔・魔族とされ、悪魔退治をするインドラには、アーリヤ人の英雄の理想像が投影されている。インドラの活躍は、蛇の姿をした悪魔ヴリトラを退治し、水と光明を人間界に放出する武勲に極まる。ヴリトラは、次の項目に書くヴァルナと同定され、悪魔(アスラ)の一族に数えられる。
 絶大な人気を誇っていたインドラは、その後、次第に地位を低下させていった。ヒンドゥー教の時代になると、ヴィシュヌやシヴァの隆盛の影で、ほとんど存在感を失っている。

◆ヴァルナ神
 ヴェーダの神々のうち、インドラに次ぐのは、ヴァルナである。ヴァルナも天空神の一つであり、シナの仏教では「水天」と呼ばれ、水や龍と結び付けられている。だが、その本質は、天則(リタ)の保護者として、宇宙一切の秩序を保持する神である。ヴァルナは、天則に背く者を厳しく罰する。だが、悔い改める者には慈しみを与えるという両面を持つ。
 ヴァルナが保護する天則(リタ)とは、自然界の秩序・理法であり、これに沿って天体は正しく運行し、昼夜・歳月は時に従って循環する。リタは人間界に発現して倫理・道徳の法則となり、真理・規律・正義を意味する。シナのタオやギリシャのノモスに通じる観念である。リタは、次第にダルマという観念に取って代わられた。インド文明のダルマには、リタという原型があったともいえる。
 ヴァルナは、宇宙一切の秩序を保持するという重要な枠割を担う神であるにもかかわらず、やがて悪魔の一族の代表格となってしまった。そして、インドラと同様にヒンドゥー教においては、影が薄くなっている。

#デーヴァとアスラ
 ここで神々の系譜に関することを差し挟みたい。インド文明では、神を意味する語がデーヴァ(deva)であるのに対し、悪魔を意味する語には、しばしばアスラ(asura)が用いられる。アスラは、ゾロアスター教の最高神アフラ・マズダのアフラ(ahura)と語源が同じである。原義は「生気」「活力」と見られる。アスラは、シナで阿修羅と訳されて、仏教に採り入れられている。
 『リグ・ヴェーダ』の主要な神格の中で、インドラはデーヴァを代表し、ヴァルナはアスラの典型である。イランでは、紀元前6世紀にゾロアスター(ザラスシュトラ)が宗教改革を行った結果、デーヴァに当たるダイヴァ(daiva)は地位が下がり、悪魔を意味するものになった。一方、アスラに当たるアフラは地位が上がり、最高神アフラ・マズダに変わった。イランでは、インドラに当たる神も悪魔の一族に組み入れられた。神が悪魔へ、悪魔が神へと逆転したわけである。このような逆転が起ったのは、インド・イラン人が分裂して対立・闘争するようになったため、イラン人は敵対する集団の神々を敵視し、邪悪なものとしたのだろう。

◆ミトラ神
 『リグ・ヴェーダ』の主要な神の第三位は、ミトラである。ミトラは、友情や契約を司る神である。もともと「契約」を意味する語が「盟友」「同盟者」の意味となり、そこから神格化されたものである。古い神格だが、『リグ・ヴェーダ』では、何ら重要な役割をしていなかった。その後、契約神・軍神・太陽神とされた。
 一方、イランでは、歴代のペルシャ王朝で国家の守護神として崇拝された。ゾロアスターの宗教改革でミトラ信仰は一時下火になったが、ゾロアスターの死後、彼の後継者たちは民衆のミトラ信仰に抗えず、ミトラ神をゾロアスター教に取り込んだ。当初ミトラ神は最高神アフラ・マズダより下だったが、やがて同格となり、最後はアフラ=ミトラとして融合一体化した。
 イランにミトラを太陽神・光明神にして万物の豊穣を司る神と仰ぐミトラ教が現れ、インド・イランで民衆の信仰を集めた。紀元前1世紀にローマ帝国のポンペイウスが小アジアを征服したことを機にローマに伝えられ、紀元3世紀頃から4世紀頃にかけて大人気を誇った。だが、キリスト教が国教化されると急速に退潮となった。

◆その他の神々
 ヴェーダには、他に太陽神スーリヤやヴィシュヌ、火の神アグニ、川の神シンドゥ暴風の神ルドラなど、様々な神々が登場する。その中で特に注目すべきものが、ルドラとヴィシュヌである。
 ルドラは暴風神であり、激しい破壊をもたらす。モンスーンの持つ破壊力と、それが去った後の爽快感に基づく神と考えられている。『リグ・ヴェーダ』では、独立した讃歌は三篇しかなく、小さな存在だった。しかし、先住民族のリンガ崇拝と結びついて、頭角を現し、ヒンドゥー教の最高神シヴァの前身となった。
 ヴィシュヌは、太陽が光り照らす働きを神格化したもので、ヴェーダでは多数の太陽神の一つにすぎず、これもその存在は小さかった。だが、アーリヤ人が定住して農耕を行うようになると、太陽への信仰が強まり、先住民族の太陽信仰を吸収して地位が次第に上がり、ヒンドゥー教ではシヴァと並ぶ最高神となった。
 ブラーフマナ文献において、それまであまり重視されなかったルドラとヴィシュヌの地位が高まった。それによって、ヒンドゥー教の二大神格の基礎が出来た。

◆神々の性格
 ユダヤ民族のヤーウェは、強靭な意思を示し、ユダヤ民族を選別して戒律を与えた。ヤーウェは、民衆が戒律に背けば、厳しく罰する神であり、畏怖と服従の対象である。これに比し、ヴェーダの神々は、民衆に恩恵を与え、人間の現世的欲望に応えてくれる依存と祈願の対象だった。それらの神々は、先住民族が信仰していた神々と融合・同化して、ヒンドゥー教の主神の座に祀られていった。ヴィシュヌと、ルドラが変じたシヴァである。ヴェーダの神々は、これらの新興の神々に比べると、衰退している。
 インド文明では、神々の興亡盛衰が繰り返し起こっている。アーリヤ人がインドに侵入した時代にはディアウスなどの天空神が主役だったが、インドに定住するとそれらの神々が没落し、インドラ・ヴァルナ・ミトラの時代になる。ヴェーダの宗教からヒンドゥー教に替わると、またそれまでの神々が没落し、今度はヴィシュヌとシヴァの時代になった。こうした神々の交代が起ってきたことが、インド文明の宗教の一つの特徴である。

 次回に続く。

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