●日本はそれほどの財政危機ではなかった
財政危機説に基づいて財政健全化をめざし、緊縮財政を行ったのが、橋本政権だった。橋本氏は、1996年1月に自社さ連立政権の首相となり、11月からの自民単独政権でも首相を続けた。山家氏が『偽りの危機 本物の危機』を出したのは97年10月であり、橋本財政改革が行われている真っ最中だった。
橋本氏は、大蔵省の示す先進国最悪の財政危機という認識に立って、緊縮財政を行った。これに対し、山家氏は、日本の財政について異なる見方を提示した。
山家氏は、次のように書く。
「国債と地方債、それに特別会計の資金繰りのために発行される短期国債等をも含めた一般政府の負債残高は1995年末で435兆円である。95年の国内総生産(GDP)は461兆円であったから、日本の政府部門はGDPの94%に当たる負債を抱えていることになる」
大蔵省や多くの経済学者は、こうしたとらえ方から、わが国の財政危機を強調する。しかし、山家氏は、これに反論する。
「国も地方も、一方で預金、貸出金、出資金といった金融資産を保有している。外貨準備だけでも20兆円近くの資産がある。また社会保障基金が保有し、運用に回している金融資産残高は1995年末で211兆円に達している。これら政府部門全体の金融資産の残高の合計は、95年末で378兆円である。政府部門の負債残高から金融資産残高を差し引いた数字が日本の政府部門の抱えている純財務残高であり、その額は95年末で57兆円である」と。
政府には負債だけでなく、金融資産がある。債務と債権の差し引きで見ないと、財政の実態はつかめない。政府の負債のみを言うときの債務は、粗債務という。それに対し、債務と債権の差し引き結果を、純債務という。山家氏の上げる数字でいうと、わが国の政府は、粗債務では435兆円の負債残高を抱えているが、純債務では57兆円に縮小する。粗債務はGDPの94%に上るが、純債務は12%にすぎない。
財政危機説を説く論者は、「日本の財政赤字は先進国中最悪の状況にある」という表現をしばしば使う。山家氏は、この見方の誤りを明らかにするため、より具体的に述べる。
「財政赤字を政府部門の赤字として捉えると、その政府部門には社会保障費も含まれる。(略)日本の社会保障基金の収支(フロー)は年間13兆円を超える黒字を出している。その残高(ストック)は200兆円に達している。これを加えたものを財政赤字として捉え、その対GDP比を国際比較してみるとどうか」と問う。
まずフローの財政赤字の対GDP比である。「社会保障基金について日本と同様の方式を取っている国はアメリカのみである。(略)日本とアメリカの比率を社会保障基金を含んだものに代えてみると、1995年の日本は3.3%となる」。この数字はアメリカの2%以下よりは大きいが、ドイツとほぼ同じくらいの数字である。フランスは4%以上、イギリスは5%以上ゆえ、日本よりも大きい。日本の財政赤字は先進国中最大、とは言えなくなる。
山家氏は、フローだけでなく、ストックも見る。
ストックの財政赤字の対GDP比について、社会保障基金の残高その他、一般政府の保有する金融資産残高をその負債残高から差し引いて、政府の純債務残高、いわば純財政赤字残高を算出し、その対GDP比を国際比較する。「1995年の日本は10%である。フランスは35%、イギリスは42%、ドイツは44%、アメリカは50%等々であり、日本の純財政赤字残高は先進国の中で最小ということになる」と山家氏は言う。
フローの財政赤字は、アメリカに次いで少なく、ストックの純債務は、主要先進国で飛び抜けて少ない。ということは、山家氏の見方によれば、日本の財政は1995年の時点では、非常に健全な状況だったのである。
次回に続く。
財政危機説に基づいて財政健全化をめざし、緊縮財政を行ったのが、橋本政権だった。橋本氏は、1996年1月に自社さ連立政権の首相となり、11月からの自民単独政権でも首相を続けた。山家氏が『偽りの危機 本物の危機』を出したのは97年10月であり、橋本財政改革が行われている真っ最中だった。
橋本氏は、大蔵省の示す先進国最悪の財政危機という認識に立って、緊縮財政を行った。これに対し、山家氏は、日本の財政について異なる見方を提示した。
山家氏は、次のように書く。
「国債と地方債、それに特別会計の資金繰りのために発行される短期国債等をも含めた一般政府の負債残高は1995年末で435兆円である。95年の国内総生産(GDP)は461兆円であったから、日本の政府部門はGDPの94%に当たる負債を抱えていることになる」
大蔵省や多くの経済学者は、こうしたとらえ方から、わが国の財政危機を強調する。しかし、山家氏は、これに反論する。
「国も地方も、一方で預金、貸出金、出資金といった金融資産を保有している。外貨準備だけでも20兆円近くの資産がある。また社会保障基金が保有し、運用に回している金融資産残高は1995年末で211兆円に達している。これら政府部門全体の金融資産の残高の合計は、95年末で378兆円である。政府部門の負債残高から金融資産残高を差し引いた数字が日本の政府部門の抱えている純財務残高であり、その額は95年末で57兆円である」と。
政府には負債だけでなく、金融資産がある。債務と債権の差し引きで見ないと、財政の実態はつかめない。政府の負債のみを言うときの債務は、粗債務という。それに対し、債務と債権の差し引き結果を、純債務という。山家氏の上げる数字でいうと、わが国の政府は、粗債務では435兆円の負債残高を抱えているが、純債務では57兆円に縮小する。粗債務はGDPの94%に上るが、純債務は12%にすぎない。
財政危機説を説く論者は、「日本の財政赤字は先進国中最悪の状況にある」という表現をしばしば使う。山家氏は、この見方の誤りを明らかにするため、より具体的に述べる。
「財政赤字を政府部門の赤字として捉えると、その政府部門には社会保障費も含まれる。(略)日本の社会保障基金の収支(フロー)は年間13兆円を超える黒字を出している。その残高(ストック)は200兆円に達している。これを加えたものを財政赤字として捉え、その対GDP比を国際比較してみるとどうか」と問う。
まずフローの財政赤字の対GDP比である。「社会保障基金について日本と同様の方式を取っている国はアメリカのみである。(略)日本とアメリカの比率を社会保障基金を含んだものに代えてみると、1995年の日本は3.3%となる」。この数字はアメリカの2%以下よりは大きいが、ドイツとほぼ同じくらいの数字である。フランスは4%以上、イギリスは5%以上ゆえ、日本よりも大きい。日本の財政赤字は先進国中最大、とは言えなくなる。
山家氏は、フローだけでなく、ストックも見る。
ストックの財政赤字の対GDP比について、社会保障基金の残高その他、一般政府の保有する金融資産残高をその負債残高から差し引いて、政府の純債務残高、いわば純財政赤字残高を算出し、その対GDP比を国際比較する。「1995年の日本は10%である。フランスは35%、イギリスは42%、ドイツは44%、アメリカは50%等々であり、日本の純財政赤字残高は先進国の中で最小ということになる」と山家氏は言う。
フローの財政赤字は、アメリカに次いで少なく、ストックの純債務は、主要先進国で飛び抜けて少ない。ということは、山家氏の見方によれば、日本の財政は1995年の時点では、非常に健全な状況だったのである。
次回に続く。
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