ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

人権81~国家と人権

2014-02-01 10:26:49 | 人権
●国家における集団の権利と個人の権利

 人権は、近代西欧国家において、主に国民の権利として発達した。人々が専制君主に対する反抗によって権利を確保・拡大し、政治権力に参加することによって、政府が国民の権利を人権の観念のもとに保障するものとなった。「国民の権利」の保障と発展のみが、「人間の権利」の保障と発展をもたらす。しかし、国民は政府に対して無条件に権利の保障を求めることはできない。
 国家の統治機関は、社会全体の利益の実現、秩序の維持等のために、法に定められた決まりごとに反する行為をした者に対して、制裁を行う。生命・自由・財産の権利はしばしば人権と呼ばれる。だが、その国の法に反する行為をした者に対して、政府は主権を行使し、生命・自由・財産の権利を制限したり、場合によってはその権利を剥奪したりする。拘束・逮捕・罰金・差押等の処罰を行う。無期懲役は一生涯にわたる行動の自由の剥奪である。極刑としての死刑は、最も基本的な権利である生きる権利の剥奪である。個人の権利を絶対化すれば、これらは人権の侵害とみることもできる。だが、政府が法に基づく刑罰を行うことによって、多数の個人の権利が守られ、社会秩序が維持される。法に従う人々の権利を保障するために、法に反する者の権利を制限・剥奪する。これを執行する権限を持つものが、政府である。
 この事実が示しているのは、第一に個人の自由と権利は絶対的なものではないことである。集団の権利が上位であり、それに反しない限りで個人の権利が保障される。第二に、いわゆる人権とは、ほとんどの場合、国民の権利であり、政府が国民に保障するものである反面、また制限・剥奪を行うものでもあることである。人権を論じるには、これらの点をよく理解することが必要である。

●主権と人権は国家間でとらえるべき

 集団の権利としての主権と、集団の成員である個人の人権は相関関係にある。歴史的に国民の自由と権利が発達してきた国家においては、国家の主権が国民の人権を守り、国民の人権が国家の主権を支えるという相互依存の関係にある。いわば国家の主権と国民の人権は、対になっている。ただしこの関係は、一国における政府と個人の関係だけで考えると、正しくとらえられない。一国内という枠組みでのみ考えると、とらえ方を誤る。国際社会における主権と人権の関係において考える必要がある。
 国際社会は、主権国家つまり独自の統治権を持つ国家が、並存・競合している社会である。人権は、この現実の国際社会における権力関係抜きには考えることのできないものである。
 初めに2国間で考えると、A国の政府はA国民である個人に、自由と権利を保障し、B国の政府はB国民である個人に自由と権利を保障する。ここでA国が主権によって国民に自由と権利を保障しているのは、B国の侵攻・支配に対して自衛し、安全が保たれているからである。もしA国がB国の侵攻・支配を受け、主権を失ったならば、A国の国民の自由と権利は保障されなくなる。B国の権力によって、生命・財産等が危険にさらされ、殺戮、虐待、略奪、強姦等が横行するおそれさえある。A国とB国を逆にしても同じことが言える。国家間の主権と主権による権力関係が、それぞれの国民の自由と権利を左右するのである。
 実際の国際社会は、多数の国家が相互に関係している社会である。A、B、C、D、E・・・等の国々の間で、それぞれ権力関係が展開されている。人権は、多国間の権力関係の中で、各国の政府が自国民に自由と権利を保障する。それが人権の主な内容となっているのである。
 主権・民権・人権の歴史については、次の章で詳しく述べるので、この項目における例を簡単に挙げておくと、18~19世紀前半、フランスとイギリスは、ともに植民地帝国として、数度にわたって戦争を行った。戦費がかさんで財政危機に陥ったフランスでは、市民革命が起こった。その中で人権宣言が発せられた。革命が急進化するフランスに対して、イギリスを中心とする周辺諸国は干渉戦争を行った。フランスでは、祖国と革命を防衛する戦争を通じて、主権と独立、自由と権利が確保された。宣言を発したから人権が実現したのではなく、国民参加の戦争によって、国家の主権と独立を守り得たので、国民の自由と権利が確保されたのである。もしフランスが敗れていたら、国家の主権も国民の権利も失っただろう。
 19世紀後半~20世紀前半、フランスはドイツと三度戦った。フランスは普仏戦争でドイツに敗れ、第1次世界大戦では勝ったが、第2次大戦では敗れた。ナチス・ドイツに圧倒されたフランスは、国土をファシストの軍靴で踏みにじられた。国家の主権は奪われ、国民の権利は制約された。フランス革命後、人権の先進国だったフランスが、ヒトラーの支配・統制下に置かれた。いくら自国内で人権を宣言し、憲法に定め、法律を整えても、外国の侵攻・支配を受けたら、絵に描いた餅となってしまう。人権を守るためには、主権を守らねばならないのである。フランスでは、レジスタンスが組織され、ナチスへの抵抗運動が行われた。それに加えて、英米の大規模な反攻が実施されたことによって、ナチスを駆逐することができ、主権と独立、自由と権利を回復することができた。
 一国内という枠組みでのみ、主権と人権の関係を考えると、こうした歴史的事例を見落とし得しまう。国民の自由と権利を保障するのは、その国の政府である。政府は、他国の侵攻・支配から、主権と独立を守ることが第一の役割である。それを果たしてこそ、国民の生命と財産、自由と権利を保護し得る。国民の自由と権利は、国家の主権と独立あってのものである。国民の生命と財産、自由と権利を守るためには、政府は主権と独立を確保しなければならない。他の国との力のぶつかり合いで、国家としての権力を維持し得て、初めて政府は、国民に自由と権利を保障し、また守ることができる。主権と人権は、国際関係の中でとらえる必要があるのである。

 次回に続く。