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ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

改憲論4~9条1項の戦争・国際紛争・武力行使、軍隊

2018-05-04 19:21:30 | 憲法
(4)9条1項の戦争・国際紛争・武力行使

 平成14年(2000年)2月5日、政府は「戦争」、「紛争」、「武力の行使」等の違いに関する答弁書を閣議決定した。この答弁書は、9条1項における「戦争」とは、「伝統的な国際法上の意味での戦争、すなわち、国家の間で武力を行使し合うという国家の行為」とした。また、「国際紛争」とは「国家又は国家に準ずる組織の間で特定の問題について意見を異にし、互いに自己の意見を主張して譲らず、対立しているという状態」とした。また、「武力行使」とは「基本的には国家の物的・人的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為」であり、「同項の『国権の発動たる戦争』に当たるものは除かれる」とした。
 答弁書の主要な部分は、次の通り。
 「憲法第九条第一項の『国権の発動たる』とは『国家の行為としての』という意味であり、同項の『戦争』とは伝統的な国際法上の意味での戦争を指すものと考える。したがって、同項の『国権の発動たる戦争』とは『国家の行為としての国際法上の戦争』というような意味であると考える。もっとも、伝統的な国際法上の意味での戦争とは、国家の間で国家の行為として行われるものであるから、『国権の発動たる戦争』とは単に『戦争』というのとその意味は変わらないものであり、国権の発動ではない戦争というものがあるわけではないと考える。」
 「憲法第九条第一項の『戦争』とは、伝統的な国際法上の意味での戦争、すなわち、国家の間で武力を行使し合うという国家の行為をいうのに対して、同項の『国際紛争』とは、国家又は国家に準ずる組織の間で特定の問題について意見を異にし、互いに自己の意見を主張して譲らず、対立しているという状態をいうと考える。」
 「憲法第九条第一項の『武力の行使』とは、基本的には国家の物的・人的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為をいうと考えるが、同項の『国権の発動たる戦争』に当たるものは除かれる。」
 ここに国際法への言及があるが、国際法は主に、条約法、慣習法、法の一般原則によって成り立つ。条約法は、国と国が条約によって相互に拘束されるものである。慣習法は、国際社会で法律として受け入れられている一般慣行である。法の一般原則は、各国の法律に共通する法の原則を適用することである。国際法は戦争について詳細な決まりごとを定めている。その決まりごとには、条約法によるもの、慣習法によって定まったものがある。それらを総称して、戦時国際法という。先の政府の答弁書は、戦時国際法を踏まえたものとなっている。

(5)軍隊

 広辞苑は、軍隊を「一定の組織で編制されている軍人の集団」と定義する。また軍人を「①いくさびと。軍士。兵士」と定義する。兵士は兵器を用いて戦闘を行う人間である。
 国家が保有する軍隊は、主に外国の軍隊への対応を目的とする実力組織である。外敵の侵攻からの防衛または外国への侵攻を行う能力を持ち、警察では対処できないほど治安が悪化した時には、武力を以て治安の維持・回復に当たる。
 軍隊は、広義では広辞苑のように定義され得るが、狭義では戦時国際法に定められた組織である。平成27年(2015年)4月3日に閣議決定された政府の答弁書は、「国際法上、軍隊とは、一般的に、武力紛争に際して武力を行使することを任務とする国家の組織を指すものと考えられている」としている。
 戦時国際法の一部を構成するジュネーブ条約は、軍隊について、1949年8月12日の追加議定書〔議定書Ⅰ〕)に、次のように規定している。
 「第四十三条 軍隊
1 紛争当事者の軍隊は、部下の行動について当該紛争当事者に対して責任を負う司令部の下にある組織され及び武装したすべての兵力、集団及び部隊から成る (当該紛争当事者を代表する政府又は当局が敵対する紛争当事者によって承認されているか否かを問わない。)。このような軍隊は、内部規律に関する制度、特 に武力紛争の際に適用される国際法の諸規則を遵守させる内部規律に関する制度に従う。」
 ここで軍隊は、国家が保有する組織に限らない。民兵隊、義勇隊を含むことに注意しなければならない。
 同じく戦時国際法を構成するハーグ陸戦条約の附属書「陸戦の法規慣例に関する規則」は、交戦者の資格につき、4つの条件を定めている。
「第一条 戦争の法規および権利義務は、単にこれを軍に適用するのみならず、左の条件を具備する民兵および義勇兵団にもまたこれを適用す。
 一 部下の為に責任を負う者その頭に在ること
 二 遠方より認識し得へき固著の特殊徽章を有すること
 三 公然兵器を携帯すること
 四 その動作につき戦争の法規慣例を遵守すること
民兵または義勇兵団をもって軍の全部または一部を組織する国にあっては、これを軍の名称中に包含す。」
 4つの条件の項目を現代語で言い換えると、大意次のようになる。
 「一 部下に対して責任を負う指揮官がいること
 二 遠くからでもわかりやすい特殊徽章をつけること
 三 武器を隠さずに携帯すること
 四 戦争の法規と慣例を遵守して行動していること」
 国家が有する軍隊が闘争する主たる対象は、別の国家が有する軍隊である。しかし、ジュネーブ条約やハーグ陸戦条約に定めるように、国際法にいう軍隊は、国家が保有する軍隊だけでなく、民兵及び義勇兵団を含む。国家が保有する軍隊は、非国家的な政治集団が保有する軍隊と戦闘を行うことがある。特に現代の世界では、過激武装集団やゲリラとの戦いが重要な任務の一つとなっている。

 次回に続く。

改憲論3~国家、戦争、紛争、内戦

2018-04-30 12:02:03 | 憲法
2.第9条改正の検討のための基本概念

 今日、わが国は、中国・北朝鮮による軍事的危機の増大に直面している。戦後、これほどの危機は、初めてである。そうしたなかで、日本の独立と主権、国民の生命と財産を守るため、憲法第9条の改正が、いよいよ急務となっている。
 平成30年3月24日自民党は、9条1項、2項をそのままとして、9条の2を新設し、次のような条文を加える案を公表した。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
第9条の2 前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
2 自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 この改正案は、現行の第9条の規定は「必要な自衛の措置」を取ることを妨げないとし、現状の自衛隊を「必要な自衛の措置」を取るための「実力組織」として盛り込み、文民統制(シビリアン・コントロール)を定めるものである。今後、国会ではこの案をたたき台にして、各党間での議論が行われることになるだろう。
 この改正案を検討するには、まずそもそも国家とは何か、戦争とは何か、戦力、実力、武力とは何か、自衛権とは何かなど基本的な概念の整理が必要である。国民の常識の指針となるのは、憲法や安全保障の専門家による専門書ではなく、身近で調べることのできる辞典・事典である。そこで、代表的な辞事典の説明を手引きにして整理してみたい。

(1)国家

 国家は、一般に一定の領域に定住する多数の人民で構成される集団にして、排他的な統治権を持つものをいう。広辞苑は「一定の領土とその住民を治める排他的な権力組織と統治権とをもつ政治社会。近代以降では通常、領土・人民・主権がその概念の3要素とされる」と説明している。
 欧米語では、国家に当たる言葉が複数ある。例えば、英語では、 nationは、政治的・文化的・歴史的な共同体、stateはその共同体が持つ統治機関を意味する。nationは「国民・民族・国家・共同体」等と訳され、stateは「政府・国府・国家・国政」等と訳される。わが国では、これらをともに「国家」と訳すことが多いため、少なからぬ混乱を生じている。国際連合の場合は、the United Nations であり、nation が政治的統一体としての国家の意味で使われている。米国では、stateは州の意味で使われ、合衆国全体を表す時は、nationが使われる。

関連掲示
・国家については、拙稿「人権――その起源と目標」第1部第4章(1)をご参照下さい。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion03i.htm

(2)戦争
 
 広辞苑は、戦争を「①たたかい。いくさ、合戦 ②武力による国家間の闘争」と定義している。①は広義であり、②は狭義である。同書は、武力を「軍隊の力。兵力」と定義する。この定義は、デジタル大辞泉、大辞林も同様である。
 広辞苑は、軍隊を「一定の組織で編制されている軍人の集団」と定義する。武力の定義において武力を発揮する主体は軍隊とされているから、戦争の定義における②の「武力による国家間の闘争」は「軍隊の力を用いた国家間の闘争」と言い換えることができる。(1)の国家の定義と合わせるならば、領土・人民・主権を有する国家が、軍隊の力を用いて他国と闘争する行為または闘争している状態が戦争である。
 次に、ブリタニカ国際大百科事件小項目辞典は、戦争を「広くは、民族、国家あるいは政治団体間などの武力による闘争をいう」と定義し、「国家が自己の目的を達成するために行う兵力による闘争がその典型である」と説明している。この定義は、武力は国家が有するものに限らないことを前提している。また、国家以外も武力を持ち得るのであり、その武力による闘争を広く戦争としている。この定義においては、武力を発揮するものは、軍隊とは限らないことになる。実際、武力の発揮を目的として組織された集団であれば、それを軍隊と見なすかどうかに関わらず、戦争を行う主体となり得る。ブリタニカの定義は、広辞苑の定義よりも整ったものになっている。
 ところで、人間の集団が闘争を行う時、単に身体的な力だけでなく、道具を使うことによってその力をより大きなものとすることができる。道具は身体の延長であり、それによって人間の力は物理的に何倍にも増幅される。そこに生じるのが、武力である。武力は闘争用に作られた道具を通じて発揮されるものである。この道具を、武器または兵器という。
 デジタル大辞泉は、この点を踏まえて、戦争を「軍隊と軍隊とが兵器を用いて争うこと」と定義している。同書は兵器を「戦闘に用いる器材の総称。武器」と定義する。兵器または武器は、戦闘の際に攻撃及び防御に用いる道具であり、器具や材料である。この要素を加えるならば、戦争は、人間が戦闘を目的とした集団を組織し、闘争のための道具を用いて行う行為である。
 また同書は、戦争について先のように定義した上で、「特に、国家が他国に対し、自己の目的を達するために武力を行使する闘争状態」と説明している。ここで軍隊の語は、国家が有する軍事的な集団に限らず、国家以外が有する集団についても使われている。そのうち特に国家が軍隊を用いて、その武力を行使して闘争する状態を、戦争の典型として定義しているものである。
戦争については、これと関連する概念――紛争、内戦、武力行使、軍隊等――を整理したうえで、再度考察する。

(3)紛争と内戦

 戦争に関連する概念に、紛争と内戦がある。
 紛争について、広辞苑は「もつれて争うこと。もめごと」と定義している。対立する者同士が争う状態を広く意味する言葉で、武力が関わっていなくとも使う。それゆえ、紛争は戦争より上位の概念であり、紛争のうち、武力を用いた紛争、特に国家間の武力による紛争を戦争という。一方、内戦は、国家間の争いではなく、同一国内での争いをいう。
 ただし、紛争は、戦争よりも比較的小規模な武力衝突について使われることがある。国家間の対立であっても、フォークランド紛争のように、規模や程度が比較的小さかったり、一時的・突発的なものを紛争というものである。また、一国内の争いについても、内戦まで至らない小規模・短期間のものを紛争ということがある。一方、一国内の争いであっても、アメリカの南北戦争のように暫定的に国家と見なされる者同士の争いを戦争と呼ぶことがある。また、ベトナム戦争のように内戦の性格を持ちながらも、他国が介入し、国家間の争いにもなっている場合を、戦争と呼ぶこともある。シリア内戦のように、内戦と呼ばれるが、諸外国が介入している実質的な国際紛争も多い。
 憲法第9条の条文のおいては、1項の後半は「国権の発動たる戦争」と「武力による威嚇又は武力の行使」は「国際紛争」を解決する手段としては、永久にこれを放棄すると規定している。ここでは、まず上位の概念に「国際紛争」があり、その紛争には、戦争と、戦争には至らない「武力による威嚇又は武力の行使」があるという分類がされていると理解できる。

 次回に続く。

改憲論2~戦力不保持、交戦権否認

2018-04-28 18:36:31 | 憲法
(3)戦力不保持

 9条2項の前半は戦力不保持を定めている。戦力不保持は、人口500万人以上の独立国では、世界唯一の規定である。しかし、起草に当たったGHQのケーディス中佐は後年、これは自衛権の放棄を規定したものではない、と述べている。もし自衛力を含めてまったく戦力を持たないとすれば、独立主権国家として成り立たない。そこで、芦田均元首相が発案し、2項の冒頭に「前項の目的を達するため、」という文言を入れた。芦田修正という。この修正をマッカーサーが承認した。本来は自衛のための戦力は持てるという主旨だった。
 ところが、左翼・日教組等は、日本は自衛権をも放棄した、自衛隊は違憲であると主張し、自衛力の整備に強く反対した。国防の目的は、国家の主権と独立、国民の生命と財産を守ることである。その目的のためには、自らを守る力を保有することが必要である。これを否定したとすれば、独立主権国家とはいえない。他国から侵攻されても正当防衛による抵抗さえしないのは、自滅行為である。
 そこでわが国の政府は、自衛のために「最小限度の実力組織」は持てる、自衛隊は戦力ではないという理屈を立てて、自衛隊を保持してきた。しかし、戦力も実力も英語ではforceである。自衛隊は、英語名をJapan Self-Defense Forces という。海外のメディアは、陸上自衛隊を Japanese Army、海上自衛隊を Japanese Navy、航空自衛隊を Japanese Air Forceと呼ぶことがある。それぞれ、陸軍・海軍・空軍に相当する呼称である。そうした自衛隊を戦力ではないというのは、国内的にも国外的にも欺瞞である。しかし、自衛隊に対する反対意見や自衛隊を違憲だとする主張があるなかで自衛隊を保持するために、このような漢字によるレトリックを使ってきたものである。
 ところで、日本国憲法は、第66条2項に「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」と定めている。この条項は、文民統制すなわちシビリアン・コントロールを定めたものである。GHQが極東委員会の強い要求としてこの条項を入れるように強硬に要求した。civilian は軍人ではない者を意味する。これを「文民」と訳したために、混乱を招いている。公務員には、文官と武官がいる。武官は軍人である。文官は官吏であり、非軍人である。文官には、官僚ではない民間人は、含まれない。だが、civilian を「文民」と訳したため、文官と民間人を合わせた概念とも考えられる。だが、「文官」と訳すと、憲法の発布時に「武官」の存在を前提にしていることになる。日本が非武装化され、軍も自衛隊もない占領下で、憲法に武官という用語を使うわけにはいかない。こういう事情が、おかしな訳語を生み出したのだろう。逆に言うと、憲法に「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」と定めたということは、この憲法は日本国が将来、軍隊を持つことになることを前提としており、軍人は内閣総理大臣その他の国務大臣にはなれないと定めていることになるのである。
 この第66条2項の規定から見ても、9条2項は自衛のための戦力は持てるという主旨であり、日本が自衛のための軍隊を持つことができることを前提としたものと理解すべきである。

(4)交戦権否認

 9条2項の後半は「国の交戦権はこれを認めない」と規定している。交戦権とは、国家が交戦国として国際法上有する権利であり、戦争の際に行使し得る権利である。武力による戦闘の権利だけでなく、敵国との通商の禁止、敵国の居留民と外交使節の行動の制限、自国内の敵国民財産の管理、敵国との条約の破棄またはその履行の停止が、合法的な権利として含まれている。
 9条1項は侵攻戦争のみを放棄したものとし、2項の「前項の目的を達するため」という文言は侵攻戦争の放棄という目的を意味し、自衛のための戦力は保持できるという解釈に立てば、9条2項の後半は自衛戦争に関する交戦権までを否認したものではない。だが、わが国の政府は、自衛のために持てるのは戦力ではなく「最小限度の実力組織」であるという立場を取っている。その場合、わが国はこの「最小限度の実力」の行使を含む交戦権を行使し得るのかが問題となる。一方、左翼勢力は交戦権を国家が戦争をなし得る権利と解釈し、自衛戦争も含めて交戦権を否認したのだと主張する。ここにも解釈上の対立や混乱がある。

 私は、このように問題の多い第9条は全面的に改正すべきだという意見である。詳しくは下記をご参照願いたい。

・拙稿「国防を考えるなら憲法改正は必須」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion08d.htm
・拙稿「憲法第9条は改正すべし」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion08m.htm
・拙稿「日本再建のための新憲法――ほそかわ私案」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion08h.htm

 次に、第9条の改正を検討するために、同9条に関わる基本概念について述べる。

 次回に続く。

いまこそ憲法を改正し、日本に平和と繁栄を1

2018-04-26 09:28:34 | 憲法
 憲法改正論議が高まっている。最大の焦点は、第9条である。私は、これまで憲法・国防等についてネット上に見解を書いたり、各地で講演を行うなどしてきた。この3月から4月にかけても、フェイスブック、ブログ等に私見を書く傍ら、静岡・札幌・東京での各種集会で講話をしてきた。
 本稿は、最近の動向を踏まえ、第9条の問題点、関連する基本概念、自衛隊の実態、改正論議の経過と現状、国民の課題について短期連載するものである。20回超を予定している。

1.第9条の問題点

 日本国憲法は、前文において、「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」と書いている。そして、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しよう」という決意のもとに、第9条に次のように定めている。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 この条文に関して、戦争放棄とは侵略戦争についてのみなのか、自衛戦争まで含むのか。戦力不保持とは自衛のための戦力を含むのか、自衛隊は戦力に当たるのか、交戦権の否認は自衛戦争の場合も含むのか等について、憲法施行後70年以上もの間、議論が続いている。そして、現在,第9条の改正が憲法改正における最大の課題となっている。

(1)前文との関係

 第9条は、前文と深い関係がある。前文で注目すべきは、日本国民は「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持することを決意した」と書いてあることである。「平和を愛する諸国民」というが、それは戦勝国のことであり、自分たちは平和を愛する国、日本は戦争を起こした悪い国として一方的に断罪して、日本の安全と生存を戦勝国に委ねさせるという内容となっている。そして、日本国民自身が戦勝国の「公正と信義に信頼して」、「安全と生存」をゆだねたかのように英文の憲法草案に記して押し付けたのである。こうした前文の文章との関係のもとに、第9条が定められている。

(2)戦争放棄

 9条1項は戦争放棄を規定する。戦争放棄条項は日本だけではなく、他の多数の国々の憲法にも存在する。例えば、イタリアやフランスの憲法がそうであり、ドイツ基本法もそうである。これらの規定は、1928年の不戦条約をもとにしたものである。不戦条約は現在も約60ヶ国が当事者国である。戦争放棄は日本独自のものではない。
 戦争には侵攻戦争と自衛戦争があり、9条1項で放棄したものが戦争一般であるのか、侵攻戦争のみであるのかという議論が生じる。国家にとって自衛権は自然権である。自衛権は主権の一部である。国際連合(連合国、the United Nations)は、国連憲章にて、国家の自然権として自衛権を認めている。もし9条1項が自衛権の発動としての戦争も放棄したとするならば、日本は主権の一部を放棄したに等しい。
 大東亜戦争で、日本は政府間の講和によって条件付き降伏を行った。連合国軍総司令部によって占領されたが、占領によって主権を一時的に停止されたのであって、主権を喪失したのではない。まして主権を放棄したのではない。占領下とはいえ、日本国は国家として存立しており、政府があり、国会があり、主権の発動として日本国憲法を制定したのである。
 それゆえ、私は日本国憲法の9条1項は侵攻戦争を放棄したものであって、自衛戦争までも放棄したものではないと考える。ただし、条文の主旨が不鮮明なので、放棄したのは侵攻戦争のみであることを明確にするための条文の改正を行うべきと考える。
 これに対し、9条1項で放棄したのは自衛戦争を含むすべての戦争だと解釈する立場もある。この解釈に立てば、日本は自衛権を否定したのであり、主権の一部を永久に放棄したことになる。また2項の戦力不保持・交戦権否認は、自衛権否定に基づいて、自衛のための戦力の保持と行使までを禁じたものとなる。左翼だけでなく、保守派の一部の学者にもこの解釈を取る者がいる。
 左翼勢力にはそれを良しとし、この状態を維持すべきという意見がある。占領下であれば、米国による占領を固定し永続化するような考え方である。また、日本は非武装主義を取るべきだとの意見もある。これは、国家の自己否定であり、旧ソ連や中国等の他国の侵攻・支配を許す極めて危険な思想である。一方、保守派には、9条1項を改正して侵攻戦争のみを蜂起したことを明確にすべきとの意見や、自衛隊は違憲ゆえ憲法を改正して合憲にすべきとの意見がある。

 次回に続く。

自民党が9条を含む改憲4項目の草案を提示

2018-03-26 12:42:41 | 憲法
 自民党は3月25日党大会を開催。安倍晋三首相兼総裁は、演説で憲法改正について、大意次のように述べたと報じられます。

 「私は防衛大学校の卒業式に出席した。陸海空の真新しい制服に身を包んで、任官したばかりの若い自衛官たちから『ことに臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託に応える』と重い宣誓を最高指揮官、首相として受けた。
 彼らは国民を守るために命を懸ける。しかし、残念ながらいまだに多くの憲法学者は彼らを憲法違反だと言う。ほとんどの教科書にはその記述があり、自衛官の子供たちもこの教科書で学ばなければならない。
 このままでいいのか。憲法にしっかりとわが国の独立を守り、平和を守り、国と国民を守る。そして自衛隊を明記し、違憲論争に終止符を打とうではないか。これこそが今を生きる政治家、自民党の責務だ」と。

 続いて、二階俊博幹事長は、党憲法改正推進本部が9条を含む「改憲4項目」の「条文イメージ・たたき台素案」をまとめたことを説明。「衆参の憲法審査会で議論を深め、各党の意見も踏まえ、憲法改正原案を策定し、憲法改正の発議を目指す」と明言しました。
 同党は、本大会で平成30年度運動方針案を採択。運動方針は、最初の項目に改憲を掲げて「改憲の実現を目指す」とうたい、「憲法審査会での幅広い合意形成を図るとともに、改正賛同者の拡大運動を推進する」と記したとのことです。

●「改憲4項目」条文素案

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【9条改正】
第9条
 ※現行のまま

第9条の2
 前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
2 自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。

【緊急事態条項】
第73条の2
 大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる。
2 内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない。
(※内閣の事務を定める第73条の次に追加)

第64条の2
 大地震その他の異常かつ大規模な災害により、衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の適正な実施が困難であると認めるときは、国会は、法律で定めるところにより、各議院の出席議員の3分の2以上の多数で、その任期の特例を定めることができる。
(※国会の章の末尾に特例規定として追加)

【参院選「合区」解消】
第47条
 両議院の議員の選挙について、選挙区を設けるときは、人口を基本とし、行政区画、地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案して、選挙区及び各選挙区において選挙すべき議員の数を定めるものとする。参議院議員の全部又は一部の選挙について、広域の地方公共団体のそれぞれの区域を選挙区とする場合には、改選ごとに各選挙区において少なくとも1人を選挙すべきものとすることができる。
2 前項に定めるもののほか、選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。

第92条
 地方公共団体は、基礎的な地方公共団体及びこれを包括する広域の地方公共団体とすることを基本とし、その種類並びに組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める。

【教育の充実】
第26条
(1、2は現行のまま)
3 国は、教育が国民一人一人の人格の完成を目指し、その幸福の追求に欠くことのできないものであり、かつ、国の未来を切り拓く上で極めて重要な役割を担うものであることに鑑み、各個人の経済的理由にかかわらず教育を受ける機会を確保することを含め、教育環境の整備に努めなければならない。

第89条
 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の監督が及ばない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
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 与党の公明党をはじめ、保守系の野党である日本維新の会、希望の党の一部等の国会議員は、自民党の提案を真摯に受け止め、国家国民のために積極的かつ建設的な議論をしてほしいものです。

自衛隊明記の場合の9条改正案~西修氏

2018-02-24 10:08:42 | 憲法
 昨年5月3日、安倍首相が自民党総裁の立場で、2020年に新憲法施行というスケジュール案を示し、憲法改正論議を活発化することを求めた。また、9条の1項、2項を維持し、3項に自衛隊を明記する案を提示した。以後、憲法改正に関する議論が活発化し、早期に改正を実現しようとする勢力と、改正に絶対反対するという勢力が対立している。
 安倍首相の提案は、それまで自民党が作り上げた憲法改正案とは異なる提案である。平成24年版の自民党憲法改正原案は、9条を本格的に改正するものだった。9条1項の言葉を整え、2項は削除して、「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」という条文を入れる。9条の二を設けて、自衛隊ではなく「国防軍」について規定し、最高指揮官、任務、組織、軍人等の裁判等について定める。9条の三を設けて領土の保全等についても定めるものだった。
 しかし、安倍首相は、9条の大幅な改正は連立与党の公明党の理解を得られにくく、発議後の国民投票で過半数の賛成を得られるかどうかも難しいと考え、現実的に改正が可能な案として提出されたものだろう。 
 安倍氏の案は、24年版の条文案を止めて、9条の1項、2項を維持し、3項に自衛隊を明記するというシンプルなもので、条文案は示されていない。また、9条の二、三を設ける考えは見られない。自衛隊の明記に目的をしぼっている。
 安倍首相は「自衛隊員に『君たちは憲法違反かもしれないが、何かあれば命を張ってくれ』というのはあまりにも無責任だ。そうした議論が行われる余地をなくしていくことが私たちの世代の責任だ」と述べている。最低、これは実現したいという考えと見られる。
 この提案に対し、自衛隊は国民の大多数が認めており、今更憲法に書き込む必要はないという反対意見がある。しかし、国民が自衛隊を認めているということと、自衛隊が合憲かどうかは別の事柄である。裁判所の判断は曖昧であり、高裁判決を含め多くは「統治行為論」を採用し、正面からの判断を避けている。統治行為論とは、国家の基本にかかわる高度に政治的な問題については、国会や内閣の判断に委ねるという理論である。下級審判決の中には、長沼事件1審判決のように自衛隊を違憲としたものもある。それゆえ、最終的な憲法判断を行う最高裁が合憲判断が下せるよう、自衛隊を憲法に明記し、その法的地位を確立するという狙いがあると見られる。
 ただし、仮に自衛隊を明記する改憲案が国民投票で承認されなくとも、国民投票は自衛隊の合憲か違憲かを決めるものではない。あくまでその判断をするのは、裁判所である。
 安倍首相は、3項の具体的な条文案を示していないので、自衛隊の役割と目的をどのようなものとしたいと考えているかは、わからない。自衛隊を自衛のための最小限度の実力組織という従来の性格のままとするのか、自衛のための戦力とか国防のための軍隊と位置づけ直すのか。二つの方向性がある。どちらの方向性にも、2項を削除または改正する必要があるという考え方、詳細を定めるため9条の二を追加するという考え方等がある。

 私は、目指すべき憲法には、安全保障の章を設け、以下のような要素を盛り込む必要があると考える。
 国際平和の希求/侵攻戦争の否定/平和的解決への努力/個別的・集団的を含む自衛権の保有と行使/国民の国防の義務と権利の一時的制限/国軍の保持/国際平和維持のための協力/最高指揮権の所在/軍の活動への国会の承認/軍人の政治への不介入/軍人の権利の制限/軍事裁判所等である。これらを盛り込んだ私案をネット上に掲載している。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion08h.htm
 平成18年(2006年)に発表したものだが、その6年後に出された自民党の平成24年版の案より徹底したものとなっている。独立主権国家と国防のあるべき姿を追求したものである。
 しかし、国会と国民の現状から見て、私は、まず現実的に可能な改正をし、段階的に整備していくという方法論も検討されるべきと考える。

 ここでは、自衛隊を明記する案の一つとして、駒澤大学名誉教授の西修氏の提案を紹介する。氏の提案は、次の通り。

 「現行の第9条をそのまま残し、新たに第9条の2を加える。

第9条の2
 (1)日本国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、自衛隊を保持する。
 (2)自衛隊の最高の指揮監督権は、内閣総理大臣に属し、自衛隊の行動については、文民統制の原則が確保されなければならない。
 (3)自衛隊の編成及び行動は、法律でこれを定める。」
 
 提案の主旨は、下記の記事に述べられている。自衛隊明記の案としては、優れたものと思う。弱点は、現状の9条と新設の9条の2との関係が明記されていない点である。氏の案を発展させるとすれば、現状の9条に3項を設け、「前2項の規定は、自衛権の発動を妨げない」と加え、そのもとに9条の2を設ける必要があるだろう。
 以下は、西氏の記事。

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●産経新聞 平成30年2月22日

http://www.sankei.com/politics/news/180222/plt1802220006-n1.html
2018.2.22 11:00更新
【正論】
私の憲法9条改正案を提示する 駒沢大学名誉教授・西修

(略)

≪2項と自衛隊明記は矛盾せず≫
 いうまでもなく、現行憲法の最大の問題点は、わが国の平和を維持するための安全保障条項を欠いていることと、自衛隊の合・違憲性をめぐり、果てしのない神学論争が続いてきたことである。
 この問題点を解決すべく、いくつかの改正案が提起されている。自民党では、自衛隊を憲法に明記することで案のとりまとめが進められているが、「戦力の不保持」を定めている9条2項を維持するのか、あるいは同項を削除するのかで、意見の対立がみられる。
 後者は「戦力の不保持」規定を残したまま自衛隊を明記することは、つじつまが合わないと主張する。しかし、この主張は正しくない。
政府は、自衛戦力を含む一切の「戦力」の保持を禁止するとしつつ、「自衛権の行使を裏付ける自衛のための必要最小限度の実力を保持することまでも禁止されておらず、わが国を防衛するための必要最小限度の実力組織としての自衛隊は、憲法に違反しない」との解釈をとっている。それゆえ、「戦力にいたらない自衛隊」を2項とは別に規定することに、矛盾は生じない。
 なお、私はいわゆる芦田修正後に展開された極東委員会の熱論を経て、66条2項の文民条項が導入されたいきさつを精査すると、本来、9条2項は「自衛戦力」の保持まで禁じられていないと解釈すべきであると考えるが、ここでは控える(本欄平成29年11月27日付)。

≪独立国家に国防条項は不可欠≫
 私案について、いくつかの面から説明しておきたい。
 第1に、平和を維持するための安全保障条項を設定することは、独立国家として、憲法上、不可欠である。近年、多くの国の憲法に平和条項が導入されているが、それと同時に、その平和を担保するための国防条項が設けられているのが通常だ。少なくとも、人口500万人以上の独立国家で、国防条項を欠いている憲法を日本以外に私は知らない。
第2に、憲法を改正するには、多くの国民の支持を得なければならない。内閣府が27年1月に実施した世論調査によると、自衛隊に「良い印象を持っている」人たちが92・2%にのぼり、「悪い印象を持っている」人たちは、わずか4・8%にすぎない。また、自衛隊を憲法に明記することに関する最近の世論調査では、産経・FNNの合同調査で「賛成」58%、「反対」33%(産経新聞30年1月23日付)、テレビ朝日系のANN調査で「賛成」52%、「反対」34%(1月22日発表)という数値が示されている。
 これに対して、「戦力」としての軍隊あるいは国防軍の設置については、いまだ多くの国民のあいだにアレルギー現象が払拭されていない。

≪立憲主義に従い国民の意思問え≫
第3に、憲法に自衛隊を明記するとすれば、シンプルでかつこれまでの政府解釈の範囲内に収まるものであることが望まれる。私案「第9条の2」の1項は、現在の自衛隊法第3条1項「自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする」のうち、主任務を設定したものであり、現状となんら齟齬(そご)はない。
私案2項は、おなじく自衛隊法第7条「内閣総理大臣は、内閣を代表して自衛隊の最高の指揮監督権を有する」を援用したものであって、新たな権限を内閣総理大臣に付与しない。
 自衛隊の行動をシビリアンコントロールのもとにおくようにすることは、必置の憲法事項である。私案では「文民統制」の語を使用した。先述したように、憲法に「文民」の語があり、新奇な用語ではない。
 第4に、私案にあって、「自衛のため必要最小限度の実力組織」としての自衛隊が存続されるわけであるから、「自衛のため必要最小限度の実力」の中身が問われ続けられることになる。国の平和、独立、安全、そして国民の生命、自由および幸福追求の権利を確保するためにいかなる措置を講ずるべきか、従来の法律レベルではなく、憲法レベルで、国民全体が考究していくことが求められる。
 憲法改正は、憲法自身が定めている国民主権の最大の発露の場である。延々と議論を重ねているだけでは、なんら得るものがない。立憲主義にのっとり、国民の意思を問うてみようではないか。(駒沢大学名誉教授・西修 にしおさむ)
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憲法改正は「自衛隊の明記」を最優先に~百地章氏

2017-11-14 08:53:04 | 憲法
 衆議院選挙では、初めて憲法改正を公約に掲げた自民党が圧勝し、衆院で絶対多数を得た。また、自民、公明、維新、希望を改憲勢力とすれば、改憲勢力が衆院の8割を超えた。こうした状況を踏まえて、国士舘大学特任教授兼日本大学名誉教授の百地章氏は、10月27日の産経新聞の記事で次のような見解を述べた。
 「総選挙の結果、衆議院では改憲に前向きの勢力が全体の8割を占めることになった。自民党は公約の中に『憲法改正』を大きく掲げて戦い、大勝したわけである。これは戦後政治史上初めての快挙であり、安倍晋三首相の下、自民党は自信をもって憲法改正を願う国民の期待に応え、速やかに改憲に着手すべきだ」
 どこから改正に着手すべきかについては、「(1)国の根幹に関わる課題で、(2)国家的な緊急性を有すること、しかも(3)国会で3分の2以上、国民投票で過半数の賛成が得られそうなテーマ、が優先されるべきである」とし、「真っ先にあげられるのは『自衛隊の明記』や『緊急事態条項』であろう」という見解を示している。
 百地氏は、各種世論調査の結果を踏まえて次のように言う。「残念ながら国民の多くは戦力不保持の9条2項の改正まで望まず、自衛隊明記支持に留まっているというのが現状であろう。それ故、憲法施行後70年間、一字一句改正できなかった厳しい現実を踏まえるならば、憲法改正の第一歩は、国会の3分の2以上および国民の過半数の賛成が得られそうな『自衛隊明記』から進めるしかないと思われる」と。
 仮に自衛隊明記を優先課題とする場合、問題は与党の一角をなす公明党である。百地氏は言う。「同党は、前回(平成26年12月)の総選挙では、公約で『9条を堅持した上で、自衛隊の存在の明記や国際貢献のあり方を、加憲の対象として慎重に検討』と明記していた。そのため安倍首相は公明党に配慮し、苦渋の決断の結果、9条1、2項には手を加えず、『自衛隊の保持を明記』する案を提示したわけである。後退したとはいえ、同党は今回の公約でも『自衛隊の存在を明記する提案の意図は理解できないわけではない』『不備があれば新たな条文を加える』としており、納得のいく説明さえできれば、自衛隊明記賛成に回る可能性は十分あると期待している」と。
 自民党は、公明党を含む多くの政党の同意を得られような9条3項の具体的な条文案を準備し、かつその案の場合、9条2項をどのように解釈するかの解釈案を示し、国民多数の賛同を得られるように、この課題に取り組んでほしいものである。
 以下は、百地氏の記事の全文。

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●産経新聞 平成29年10月27日

2017.10.27 09:00更新
【正論】
主権者に改憲の機会を与えよ 「自衛隊の明記」最優先 発議のサボタージュ許されない 国士舘大学特任教授 日本大学名誉教授・百地章
http://www.sankei.com/column/news/171027/clm1710270005-n1.html

 総選挙の結果、衆議院では改憲に前向きの勢力が全体の8割を占めることになった。自民党は公約の中に「憲法改正」を大きく掲げて戦い、大勝したわけである。これは戦後政治史上初めての快挙であり、安倍晋三首相の下、自民党は自信をもって憲法改正を願う国民の期待に応え、速やかに改憲に着手すべきだ。

≪防衛・安全保障問題こそ喫緊の課題≫
 憲法改正の最終決定権は主権者国民にあり、その是非を問う国民投票は、主権者国民に与えられた極めて重い権利である。にもかかわらず、これまで国会が一度も憲法改正の発議をしなかったため、国民はこの権利を行使したくても行使することができなかった。国の将来が問われている今、国会には主権行使の機会を国民に保障する責務があり、これ以上改憲の発議をサボタージュし続けることは許されない。
 問題はどこから改正に着手すべきかである。自民党の公約では「自衛隊の明記」「緊急事態条項」「教育の無償化」そして「参議院の合区解消」が挙げられていたが、(1)国の根幹に関わる課題で、(2)国家的な緊急性を有すること、しかも(3)国会で3分の2以上、国民投票で過半数の賛成が得られそうなテーマ、が優先されるべきである。となれば、真っ先にあげられるのは「自衛隊の明記」や「緊急事態条項」であろう。
「自衛隊の明記」については、自民党の当選者の75%が賛成しており(毎日、10月24日)、優先課題にふさわしいと思われる。
 北朝鮮による核や弾道ミサイルの脅威は、日を追って増大しており、年末から来年初めにかけては、アメリカが軍事行動に出る可能性さえ指摘されている。また、中国は尖閣諸島を狙い、連日、政府公船が接続水域や領海を侵犯している。
 その意味でも、わが国の存亡にかかわる防衛・安全保障問題こそ、喫緊の課題といえよう。

≪国民の多数は自衛隊明記支持≫
 国民世論の反応は一概に言えないが、各種世論調査をみる限り、国民の多数は自衛隊明記を支持する傾向にあると言ってよかろう。
 安倍首相(自民党総裁)が自衛隊明記案を提唱した直後の世論調査では、毎日(5月20、21日調査)と朝日(同13、14日)で反対の方が数ポイント上回っていただけで、それ以外の読売(同12~14日)、産経・FNN(同13、14日)、共同(同20、21日)それにNHK(同12~14日)では賛成の方が多く、読売、産経・FNNおよび共同では、反対を約20ポイント上回っていた。
また10月の調査でも、読売(12日)と朝日(19日)では反対の方が数ポイント多かったものの、時事(13日)、NHK(16日)、産経・FNN(17日)では、賛成の方が多く、その差も時事で14ポイント、産経・FNNでは18ポイントと開いている。
 残念ながら国民の多くは戦力不保持の9条2項の改正まで望まず、自衛隊明記支持に留(とど)まっているというのが現状であろう。それ故、憲法施行後70年間、一字一句改正できなかった厳しい現実を踏まえるならば、憲法改正の第一歩は、国会の3分の2以上および国民の過半数の賛成が得られそうな「自衛隊明記」から進めるしかないと思われる。
 その際、「戦争に突き進む」という反対派のデマに惑わされないために、なぜ「自衛隊の明記」が必要かを分かりやすく説明し、さまざまな疑問に丁寧に答えていく必要がある。筆者は先に自衛隊の明記は違憲の疑いを払拭するだけでなく、自衛隊及び隊員の地位を高め、栄誉と誇りを与えるためであると述べたが(正論「改憲草案作りを粛々と進めよ」8月9日)、今後もさらに必要性を論じていきたいと思う。

≪与野党連携進め賛同の獲得を≫
 また、国民投票を考えれば、与野党を超えて連携し、より多くの国民の賛同を獲得していく必要がある。この点、野党では日本維新の会が公約に「9条改正」を掲げ、松井一郎代表は「自民党案が固まってくれば、まじめに正面から議論したい」と述べている。
 希望の党の小池百合子代表は9条改正論者であり、自衛隊明記には否定的だが、公約では「〔自衛隊を〕憲法に位置づけることは、国民の理解が得られるかどうか見極めた上で判断」としており賛同に含みを持たせている。
 問題は公明党だ。同党は、前回(平成26年12月)の総選挙では、公約で「9条を堅持した上で、自衛隊の存在の明記や国際貢献のあり方を、加憲の対象として慎重に検討」と明記していた。そのため安倍首相は公明党に配慮し、苦渋の決断の結果、9条1、2項には手を加えず、「自衛隊の保持を明記」する案を提示したわけである。
 後退したとはいえ、同党は今回の公約でも「自衛隊の存在を明記する提案の意図は理解できないわけではない」「不備があれば新たな条文を加える」としており、納得のいく説明さえできれば、自衛隊明記賛成に回る可能性は十分あると期待している。(国士舘大学特任教授 日本大学名誉教授・百地章 ももちあきら)
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憲法改正は安倍首相の最重要使命~櫻井よしこ氏

2017-11-07 09:27:40 | 憲法
 衆議院総選挙後、櫻井よしこ氏は、10月24日付の産経新聞に見解を掲載した。25日に行われた「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の集会でも、その記事と同じ主旨の講話がされた。
 産経の記事の大要を示す。
 衆院選の結果について、櫻井氏は次のように言う。「自民党の勝利は野党分裂ゆえだとする分析がある。だが、迫り来る北朝鮮の危機に対処できるのは、世界の現実を厳しく見つめてきた安倍首相だという有権者の判断がより大きな要因だろう。国民は眼前にある難題、国難の深刻さを理解し、日本の愁眉を開くことを安倍政権に期待したのである」。
 安倍首相の課題については、次のように言う。「北朝鮮危機に対処し、憲法改正を含む重要課題に丁寧に、しかしあくまでも、積極果敢に取り組むことだ。足元の北朝鮮情勢の見通しは非常に厳しい。歴史をたどれば、白村江の戦い、元寇、日清、日露の両戦争など、日本の戦争はおよそ全て朝鮮半島情勢が原因だった。その時々の戦いで被った犠牲の深刻さを考えれば、今、目の前にある北朝鮮危機への対処は万全にしなければならない」。
 対北朝鮮を主とした国防については、次のように言う。「まず北朝鮮暴発への備えを強化する。専守防衛を見直し、敵基地攻撃能力を確立し、自衛隊の人員および装備を拡充して防衛予算を増額することが北朝鮮のみならず、中国をも含めた国々を踏みとどまらせる力となる」
 櫻井氏は、「日本にとってより深刻な脅威は北朝鮮の背後に控える中国である」と的確に指摘する。そして、10月18日から行われた第19回中国共産党大会で習近平総書記(国家主席)が行った演説の重要性を強調する。
 習氏の演説は、「軍事強国と専制政治に走る姿を明らかにした。3時間余の演説で習氏は世界一流の軍事大国化を掲げ、中国共産党の絶対的支配に党員も国民も従うことを求めた。宗教にさえも『中国化』と『社会主義社会』への適応を要求した。チベット人がチベット仏教の学びを禁止され、毛沢東語録の学習を強いられている現状を、さらに広げるというのか。
 習氏は『偉大なる中華民族の復興』を謳い、『中華民族は世界の諸民族のなかにそびえ立つだろう』とし、『人類運命共同体』の構築を提唱した。これからの中国を読み解く上での重要な言葉となるであろう人類運命共同体構想は『世界制覇宣言』と同義語かと思う。人類は皆、中国の下で中国主導の運命共同体の一員として生きることを要求されるのか」と問いかけている。
 このように述べた後に、櫻井氏再び衆院選の結果と安倍首相の課題について述べる。
 「今回の選挙結果は、民主主義や自由、法治など普遍的価値観に基づく国際社会の構築に日本がもっと力を発揮せよという、安倍外交への信任である。首相は、中国とは異なる日本の価値観を、日米を軸に豪印を加えて太平洋・インド地域に打ち立てる道を気概をもって進むのがよい」「改憲に前向きの勢力が初めて4分の3を超えた。その4分の3を形成する多くの人々は危機に気づき始めた人々だろう。首相が『愚直に』語りかけ続け、憲法改正を成し遂げるときが巡ってきたのだ。安倍首相の背中を今や、時代と国民が押している。世界に取り残されないためにも、時代と国民への責任を果たすのが、首相の最重要の使命である」と。
http://www.sankei.com/column/news/171024/clm1710240007-n1.html

 大局観、状況論、具体的課題とも、的確で説得力のある見解と思う。

 櫻井氏が共同代表を務める「美しい日本の憲法をつくる国民の会」は、10月25日都内で行われた集会で、次のような決議文を採択した。

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■決議文

 今こそ、各党は憲法改正原案の国会提出を!
 今般実施された衆議院総選挙では、昨年七月の参議院選挙に引き続き、再び、戦後史を画する重大な政治選択がなされた。すなわち憲法改正に前向きな与野党が衆議院の議席の八割を占めるに至った。
 今回は、複数の政党が憲法改正を重点公約に掲げて戦う、戦後初めての総選挙となった。しかもその結果、憲法改正に前向きな勢力が八割に及んだのである。ここに、憲法見直しを求める広範な民意が示されたと見るべきであろう。
 現在、わが国を取り巻く内外の情勢は大きく変貌している。北朝鮮による重なる弾道ミサイルの発射は、核開発と相まって、わが国のみならず世界の平和にとって深刻な脅威となりつつある。
 わが国の平和と安全にとって不可欠な自衛隊を、憲法上、いつまでも曖昧な存在にしておくわけにはいかない。憲法施行から七十年、自衛隊が創設されて以来六十三年が経過した今こそ、憲法九条を改正し、自衛隊の存在を明記することが、何よりも求められている。
 首都直下地震や南海トラフ巨大地震の発生が予測されている中で、現行憲法には、大規模自然災害等の事態に対処するための緊急事態条項が存在していない。世界各国で常識となっている緊急事態条項が現行憲法にないのは、憲法の根本的欠陥以外の何物でもない。
 この度の総選挙において示された民意を踏まえ、今度こそ、各党は、国民の命と暮らしを守る国家としての責任を果たすため、憲法改正原案を国会に提出し、党派を超えた合意形成に全力を尽くすべきである。この旨、各党及び国会議員に強く要望する。
 右、決議する。
 
平成29年10月25日
美しい日本の憲法をつくる国民の会
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 採択された決議文は、集会に参加した自民党及び日本維新の会の代表者に手交された。憲法改正を求める1千万人署名運動は、署名数989万人を超えた。多数の国民の要望に応えて、国会議員が国会で真摯な取り組みをすることが期待される。

衆院議員の84%が改憲に賛成

2017-10-31 09:27:08 | 憲法
 10月25日、私は、友人たちとともに東京・永田町海運クラブで行われた「美しい日本の憲法をつくる国民の会」に参加しました。衆院選では憲法改正を公約に掲げた自民党が圧勝し、改憲派が8割を占めました。戦後初めてのことです。
 そうした状況を踏まえ、本集会では「今こそ憲法9条を改正し、自衛隊の存在を明記することが何よりも求められている」などとする決議を満場一致で採択しました。決議文は、参加した自民党及び日本維新の会の代表者に手交されました。

 各氏の発言から~
 桜井よしこ氏(共同代表)「本当に深刻に憲法改正を考えている人々がどれだけいるのか。とりわけ一番大事なことは9条2項だ。自衛隊を国軍としてきちんと位置づけることができるかどうかだ」
 ケント・ギルバート氏(米カリフォルニア州弁護士)「9条2項は国際的に見て異常。病気だ」「憲法第9条を改正してようやく占領が終わる」
 織田邦男氏(元空将)「自衛隊を違憲と言ってる憲法学者は卑怯。違憲なら解散か改憲しないといけないのに両方とも言わない。国民が自衛隊を認めてるから『解散!』と言う勇気もない。『改憲!』と言うとこれまでの主張と矛盾する。だから卑劣だと思う」
 山田宏氏(自民党参議院議員)「強盗が入ってきた時に70年前の家訓で抵抗できないから隣のおじさんを呼んでくると言ったら終わりなんですよ!その家庭は終わりですよ!」

 参加できなかった方は、産経新聞が詳細を報じていますので、お読みになるようお勧めします。
http://www.sankei.com/politi…/…/171026/plt1710260002-n1.html
http://www.sankei.com/politi…/…/171026/plt1710260001-n1.html
http://www.sankei.com/politi…/…/171026/plt1710260004-n1.html

 ところで、読売新聞は、衆院選後、当選者にアンケートを行いました。10月27日の記事によると、当選した議員全体の93%となる431人が回答し、84%が改憲に賛成でした。改憲賛成者が挙げた改憲項目で最も多かったのは、「緊急事態条項の創設」の69%。続いて、「環境権」(50%)、「自衛のための軍隊保持」「参院選の合区解消」がともに49%でした。「国と地方の役割」は48%、「教育無償化」は47%でした。
 記事のうしろ3分の1ほどは有料サービスの会員でないと読めませんが、その部分も含めて全文を英訳した記事が、読売の英字紙 The Japan News に載っています。
http://www.yomiuri.co.jp/election/…/20171025-OYT1T50196.html
http://the-japan-news.com/news/article/0004027678
 上記の記事において、現時点で3分の2以上が賛成するのは、「緊急事態条項の創設」だけです。私は、緊急事態条項の新設は不可欠とし、10年以上前から新設を訴えています。しかし、9条の改正をしなければ、日本は独立主権国家としての本来の姿を取り戻すことはできないと考えます。9条の改正なくして、真の憲法改正とは言えません。国会議員の3分の2以上が「自衛のための軍隊保持」を改憲項目に挙げ、国民の過半数がそれに賛成する状態になることを目指して、啓発活動を続けましょう。そして、安倍政権において、憲法改正を必ず実現すべく頑張りましょう。

「改憲つぶし」にひるまず、改憲を進めよう~百地章氏

2017-08-18 10:03:57 | 憲法
 森友・加計・PKO日報問題等で、安倍内閣の支持率が急落するなか、8月3日に内閣改造が行われ、第3次安倍第3次改造内閣がスタートした。安倍首相兼自民党総裁は4日、憲法改正に関し自身が表明した2020年の新憲法施行について「私の考えは申し上げた。あとは党に任せる。議論が熟していくことを期待している」と述べ、自民党内の議論に委ねる意向を示しました。「スケジュールありきではない」と重ねて強調した。
 この発言によって、安倍氏は憲法改正の目標時期を取り下げたという見方があるが、自民党は、本年秋の臨時国会に憲法改正草案を提出する方針を変えておらず、8月15日高村正彦副総裁は、「臨時国会に改正草案を提出して野党との協議もスタートさせる」と述べた。
 本件について、国士舘大学特任教授の百地章氏は、8月9日付産経新聞「正論」で、次のような意見を述べている。
 「改憲勢力が衆参両院で3分の2以上を占めている今をおいて憲法改正など考えられない以上、目標に向けて粛々と改憲草案の作成に取り組むべきだ。支持率低下には、内閣自身にも原因がある。しかし憲法改正の機運に危機感を抱いた共産党や民進党、左翼マスメディアなどが『改憲つぶし』のために、なりふり構わず連日、“安倍叩き”を行ってきたことが最大の原因であろう。それ故、内閣の支持率低下を理由に改憲を躊躇すれば、反対派の『思う壺』であり、逡巡してはならない。」
 「反対派は、今後もあらゆる手段を用いて改憲を阻止しようとするだろう。しかしこの戦いに勝利できなければ、日本の将来はない。」と。
 同感である。

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●産経新聞 平成29年8月9日

http://www.sankei.com/column/news/170809/clm1708090006-n1.html
2017.8.9 10:00更新
【正論】
支持率低下は「改憲つぶし」を画策した共産、民進、左翼メディアが最大の原因だ 改憲を躊躇すれば、反対派の「思う壺」 国士舘大学特任教授・百地章

≪躊躇すれば反対派の「思う壺」だ≫
 内閣支持率が急落し、自民党内から改憲慎重論が出始めた。
 安倍晋三首相は「スケジュールありきではない」と述べ、今後は党内に任せる意向だ。高村正彦副総裁も「自民党の改正案は、目標として秋の臨時国会で出せればいい」としている。ただ高村氏は「目標を立てた以上はやめることはない」とも述べ(産経新聞8月4日)、改憲に積極的だ。
 もちろん、国民投票となれば高い支持率は不可欠だが、現在は発議に向け党内で改正案を作成している段階である。改憲勢力が衆参両院で3分の2以上を占めている今をおいて憲法改正など考えられない以上、目標に向けて粛々と改憲草案の作成に取り組むべきだ。
 支持率低下には、内閣自身にも原因がある。しかし憲法改正の機運に危機感を抱いた共産党や民進党、左翼マスメディアなどが「改憲つぶし」のために、なりふり構わず連日、“安倍叩(たた)き”を行ってきたことが最大の原因であろう。
 それ故、内閣の支持率低下を理由に改憲を躊躇(ちゅうちょ)すれば、反対派の「思う壺(つぼ)」であり、逡巡(しゅんじゅん)してはならない。
 5月3日の安倍発言をきっかけに浮上したのが、9条1、2項には手を付けず、憲法に自衛隊の保持を明記する考え方である。具体的には9条に3項を加える方法と、新たに「9条の2」という条文を書き加える方法がある。
 もちろん、本来なら9条2項を改正して、自衛隊を軍隊と位置付けるべきである。しかしこれでは公明党の賛成が得られず、憲法改正の発議さえおぼつかない。したがって一歩でも二歩でも前進するためには、できるところから憲法改正に着手するしかなかろう。

≪憲法明記で自衛隊の地位向上を≫
 現在、筆者は以下のような改正案を考えている。
 9条の2「前条〔9条〕の下に、わが国の平和と独立を守り、国際平和活動に協力するため、自衛隊を保持する。その組織及び権限等は、法律で定める」
 これは自衛隊法の条文を参考にしており、国民投票に備えてできるだけ簡潔で分かりやすくした。
 その狙いは、第1に「自衛隊の保持」を憲法に明記することで違憲論の余地を無くすことにある。
 確かに国民の9割は自衛隊を支持しているが、共産党は違憲と主張、憲法学者の6割も同様である。また国会の多数と内閣は合憲論だが、裁判所は正面からの「合憲」判断を避けており、地裁レベルでは違憲判決さえみられる。
 こうした現状に鑑みれば、自衛隊の憲法明記で違憲論の余地を無くすことには、十分理由がある。
 第2に「自衛隊の保持」と「国を守る」という「目的」を憲法に明記することにより、自衛隊に栄誉を、そして自衛官に自信と誇りを与え、社会的地位を高めることだ。また自衛隊に関する教科書の曖昧な記述を改め「合憲」と明記できるようにする。
第3の狙いは、1項の冒頭に「前条の下に」という文言を加えることで、本条が「9条の例外」ではなく、あくまで「9条および9条解釈の枠内」での改正であることを明らかにすることにある。というのは、現在でも自衛隊は「憲法9条の下に」設置されているからだ。また、それを憲法上の存在に格上げするだけだから、もちろん9条とは矛盾しない。
 次に、改正によって期待される「効果」だが、この改正案では、残念ながら、自衛隊の「権限」は現在と変わらない。しかし、その「地位」は大きく向上する。
 すなわち、まず、統合幕僚長をはじめ陸上・海上・航空幕僚長等を、天皇によって認証される「認証官」に格上げすることが期待できる。また、自衛官の「栄典」「賞恤金(しょうじゅつきん)」(犠牲者への功労金)等の待遇改善および向上、外国駐在武官の地位の向上など、多くの場面でプラスの効果をもたらし、自衛官の士気を高めるであろう。
 とりわけ、わが国を取り巻く厳しい環境の下、国家国民を守るために昼夜を問わず命懸けで任務遂行に当たっている自衛隊および自衛官に誇りを与え、その地位や待遇を改善・向上させることは、喫緊の課題である。

≪国の将来かけた戦いに勝利せよ≫
 党内には「3分の2からまず入るってやり方は、私の趣味じゃない」といった意見もある(石破茂元防衛相。朝日新聞6月7日)。しかし、憲法改正を明言し、現実に衆参両院で3分の2以上の発議可能な改憲勢力を実現したのは安倍首相であった。
 つまり、平成24年12月の衆議院選挙で大勝し、翌25年7月の参院選でも圧勝、安倍首相は戦後、誰も実現できなかった両院で3分の2以上の改憲勢力を確保することに成功した。26年には宿題とされていた国民投票法の改正も成し遂げ、その後の衆参2回の国政選挙でも大勝して改憲勢力を維持し、今や念願久しき憲法改正の秋(とき)を迎えようとしているわけだ。
 反対派は、今後もあらゆる手段を用いて改憲を阻止しようとするだろう。しかしこの戦いに勝利できなければ、日本の将来はない。(国士舘大特任教授 百地章 ももち あきら)
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