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裂けた旅券(パスポート)

 

  本編の主人公、羅生豪介はヨーロッパを渡り歩いてかれこれ15年になるという、33歳で職業不定の日本人。現在はパリに在住。ヨーロッパを中心に外国事情に詳しく、何でも屋の如く海外旅行客のツアーガイドからジャーナリストのような硬派の仕事までこなす、ヨーロッパ各地で仕事にありつくには不自由しない生活をしていた。

  コミックス第2巻より登場する本編のヒロイン、マレッタ。本編登場時13歳で娼館を経てブローニュの森で街娼をしているという、過去の事情を持つにせよなかなかの問題児。愛くるしくも活発で度胸もあり危なっかしいが繊細で利発な女の子。主役の豪介の良き相棒であり、成長して行くマレッタと中年オッサン·豪介の間にはいつしか恋愛感情が生まれているが、マレッタが元娼婦であるにも関わらず、元少女娼婦だからこそ豪介はマレッタに対してプラトニックを貫く。

 豪介とマレッタは同じ部屋で生活し、豪介が身元保証人となって援助をし、先ではマレッタはパリの名門女子校に入学する。チンピラにも似た生き方をしていた豪介が硬派のジャーナリストとして活躍して行くスリリングな物語を、主人公の相方として、チャーミングに良い味付けで物語を支える、美少女ヒロイン·マレッタ。

 街娼時のマレッタの客として少女を買春した、フランス政権内務大臣が自分のスキャンダルが露見することを恐れて、マレッタを抹殺しようとする行為から、マレッタを守るために活動する羅生豪介の姿を描いたり、ベルギー市長選に日本の商社が絡んだ事案でスパイのような活動をする豪介、IRAテロリストと日本の違法武器輸出者を調査するために否応なく日本の外務省と共に、これまたスパイのような活動をする豪介、ペルシャ湾岸の産油国までも飛んでマレッタと共に命からがらの活動をする豪介、ヨーロッパに飛んだ過激派日本赤軍の一派を追う、国際刑事警察機構に所属する日本人警部に協力して、テロリスト集団と対峙する豪介、などなどの国際スパイ映画さながらの骨太アクションストーリーに、富豪の後妻未亡人の暗殺危機に巻き込まれるサスペンスタッチなお話もあり、美少女マレッタとの純愛ストーリーも絡ませて、異国情緒豊かなヨーロッパの街々を背景に、推理サスペンスものから、ヨーロッパの当時の、ちょっとした政治・経済の情報も含んだスパイアクション、人情ものまでバラエティーに富んだ物語でコミック読者を楽しませる国際派劇画。

 

 やっぱりこの劇画の魅力の一つは何と言っても、十代の美少女·マレッタの存在でしょうね。可愛らしくてチャーミングで活発だけど繊細で、向こう見ずなところが危なっかしいけど聡明で、多分、当時の「裂けた旅券」の愛読者だった成人してる男どもは、イイ歳のオヤジ連も含めてその魅力に参ってたでしょうね。まぁ、ある種ロリコン要素かな。冴えない中年オヤジ風な羅生豪介も、巻が進むに連れてどんどんカッコ良くなるし。

 プロの娼婦は勿論のこと、行きずりの女や女スパイとも寝ちゃうという、とても女にだらしのない中年オヤジ·豪介が、元は娼婦もやっていた十代の少女·マレッタにだけは決して手を出さないという、プラトニックな関係性も良いですね。

 イマドキの若い人たちが“萌え”って言って二次元のヒロインたち、アニメやコミックに登場する美少女ヒロインたちに恋したような気持ちを持って、何か特別な感情を抱いてるという話、よく聞きますけど、昔の男たちも似たようなことはあったんですね。まぁ、言ってみれば物語への感情移入の一面でしょうね。今の人たちは、アニメ・コミック・ゲーム上の二次元アイドルたちに擬似恋愛的な感情を抱いて、本物の実物の恋人は持たなくても二次元恋人が居れば充分、だと言う人もけっこう多いんだとかって話ですけど。

 僕が「裂けた旅券」をビッグコミック オリジナル連載リアルタイムで愛読していたのは、僕の20代前半のときで漠然と海外への憧れのような気持ちもあり、僕はこのコミックを読むことでそういう憧れ気分を少しだけ満たしていたんだと思います。御厨さと美氏の劇画の卓越した画力で描かれる、ヨーロッパの都市の中の街並みや裏通り、河畔の都市の街々の風景。異国情緒溢れる背景描写に何やらうっとりとでもするような気分を味わっていたのかも。また、知的好奇心から、例えそれがフィクションの漫画で描かれた世界でも、少しでもヨーロッパなど海外の情報を得たいという気持ちもあって、勿論ストーリーも抜群に面白かったんだけど、そういう意味でも積極的に毎号の連載を読み、またコミックスでも買って再読してたのかも。

  「裂けた旅券-パスポート-」がビッグコミック オリジナルに連載されてた期間は1980年から83年までの間だから、僕は20代前半というより20代半ばですね。

 

 小学館発行のコミック雑誌「ビッグコミック オリジナル」は、1972年に先行する「ビッグコミック」の増刊号として誕生し、74年から「ビッグコミック オリジナル」という誌名で独立定期刊行した、隔週刊(月二回刊)の青年漫画雑誌です。青年漫画誌と言っても対象読者層は高く考えられており、だいたい三十代以上がターゲット読者層のコミック誌で、読者は中年以上の年代の人たちも多いです。

 「裂けた旅券-パスポート-」はビッグコミック オリジナルの1980年から83年の三年間連載され、小学館のビッグコミックスで全7巻で刊行されました。僕はこの時代、ビッグコミック オリジナルを毎号購読してたので雑誌連載リアルタイムで全編読んでるし、全巻買って読んだかどうかはっきりしないけどコミックス単行本でも再読してると思います。

 東京-関東圏で働いてたサラリーマン時代、僕の一番の娯楽は漫画本で、だいたい75年の終わり頃か76年くらいから青年コミックに夢中になり、当時の青年漫画雑誌、週刊漫画アクション、別冊アクション、ビッグコミック オリジナル、プレイコミック、80年からはビッグコミック スピリッツを毎号欠かさず買って読んでました。ヤングコミックはときどき買ってました。また月刊アクションヒーローも買ってましたね。そしてコミックス漫画単行本もいっぱい買って来て読んでました。コミックスは雑誌で読んだ作品もまとめて再読してましたね。この時代は少年漫画はあんまり読まなかったですね(『ブラックジャック』とか『がきデカ』とか何作品かはコミックスでまとめ読みしてます)。この時代の僕個人の家計では、洋楽ポピュラーのレコードもよく買ってたけど、やっぱり漫画本購入の占める割合が一番大きかったんじゃないかな。

 東京の会社を辞めて生まれ故郷に帰って来たのが86年の10月で、ここからは収入が減ったので漫画雑誌購読はぐんと減って、週刊ビッグコミック スピリッツは毎週購読してました。この時代、ビッグコミック オリジナルはどうだったんだろう?90年代以降は漫画雑誌は購読しなくなったと思うんだけど、80年代いっぱいくらいはビッグコミック オリジナルも毎号買って読んでたのかな?85年から88年までオリジナルに連載されてた「パイナップルアーミー」を雑誌掲載で読んでた覚えがあるから。双葉社アクション系は東京在住時までですね。

 小学館のビッグコミック系雑誌、「ビッグコミック」「ビッグコミック スピリッツ」「ビッグコミック スペリオール」「ビッグコミック オリジナル」の中では「オリジナル」が一番、対象読者層の年齢を高く考えた編集方針らしいですね。

 ビッグコミック オリジナルにはギネス級とも言うべき大長編の長期連載漫画が多い。水島新司氏「あぶさん」、ジョージ秋山氏「浮浪雲」、西岸良平氏「三丁目の夕日」、やまさき十三·北見けんいちコンビの「釣りバカ日誌」。弘兼憲史氏の「黄昏流星群」も長い。「黄昏流星群」は95年連載開始で未だに続いている。同じ弘兼憲史氏作画で原作·矢島正雄氏の「人間交差点」は80年から90年までの十年間連載か。村上もとか氏の「龍-RON-」は90年から2006年までの足掛け16年の長期連載か。「龍-RON-」も前半部を雑誌連載で読んでた記憶があるから、僕は90年代もビッグコミック オリジナルを買って読んでますね。少なくとも90年代前半は。

 僕がビッグコミック オリジナルを読み始めた頃は篠原とおる氏作画の「夜光虫」とか好評連載されてましたね。原作を柿沼宏さんて方が担当してた医療サスペンス劇画。長期連載されてたんだけど何か物議を醸した事案があって問題になり、急遽連載が打ち切られたみたいでしたが。またこの当時は小池一雄·平野仁コンビの傑作SFホラー「少年の町ZF」が連載されてた。僕はこの当時「少年の町ZF」が大好きだったので毎号楽しみにしてました。

 同じく小池一雄·平野仁コンビの「サハラ-女外人部隊-」が連載されてた期間は73年から76年なので、僕は「サハラ」のオリジナル連載は雑誌では最後の方を読んでるんですね。73年~75年当時は僕は青年コミック誌はまだ読んでないですからね。多分「サハラ」は後にコミックスで読んでますね。「サハラ」が終了して同じ原作·作画コンビで「少年の町ZF」が始まったんですね。この時代、平野仁氏は同じく小池一雄氏の原作で小学館のグラビア情報誌GORO 誌上で「青春の尻尾」を好評連載してますね。

 80年から85年まで長期連載された小池一夫·叶精作コンビの「魔物語」も印象深く記憶している作品です。鮮魚運送専門のトラック運転手、明るく活発で情に脆く男勝りに気丈でイキの良い女性ドライバーが主人公の「女かじきEXP」。若い女性ドライバーが育ててる子供が居るのでバツイチ子持ちかと思ったら、あの子はお兄さんか誰かの遺児で独身なんですね。木村えいじ氏作画の「女かじきEXP」のはっきりした連載期間が解りませんが70年代後半から80年代アタマくらいまでの長期連載だったと思います。人情劇画で懐かしいですね。

 調度この時代、東映制作の娯楽映画で、菅原文太·愛川欽也主演の「トラック野郎」シリーズが大ヒットしていて、1975年から79年の間にシリーズ映画が10本も作られて大人気でした。漫画の「女かじきEXP」は言わば“女版トラック野郎”で、多分この人気劇画も映画「トラック野郎」の影響を受けて描かれたんでしょうね。物語設定は似てるけど内容はちょっと違いますけどね。

 ああ、そうそう、原作·小池一夫-作画·弘兼憲史コンビの感動名作「兎が走る」もオリジナル連載作品でしたね。この名作には泣きました。オリジナル1979年2月から12月までの約79年中いっぱいの連載だったんですね。勿論当時の連載も毎号欠かさず読んでますが、後々コミックスや文庫で何度も読み返し、その都度泣いてました。まぁここ10年ちょっとは読み返してないけど。この劇画から、本当の“愛”ってこういうものなんだな、って学んだ気がします。まぁ学んでも多分僕には身に付いてないんだろうけど。

 浦沢直樹氏作画の「マスター·キートン」を雑誌連載で読んでる覚えがあるから、「マスター·キートン」のオリジナル連載期間は88年から94年までの間だから、僕は86年以降も少なくとも90年代前半までは、ビッグコミック スピリッツとビッグコミック オリジナルを多分毎号購読してたんでしょうね。「マスター·キートン」は原作付きですが。浦沢直樹氏の「モンスター」も雑誌で読んだ覚えはあるけど「モンスター」はほとんどコミックスで読んでる。「モンスター」のオリジナル連載は94年から2001年です。90年代後半に入ると僕は漫画雑誌を買うことはあまりなく、コミックスで買って読んでますね。

 まぁ僕は青年時から全く煙草は吸わないし、元から嫌煙家なんですが、酒は好きだという訳ではなく付き合いでしか飲まなかったし、まぁでも若い頃は付き合いの酒をときには浴びるほど飲んでたけど、自分の娯楽に金を使うと言ったら先ず第一が漫画本でしたからね。雑誌もコミックスも。90年代後半からは漫画はほとんどコミックスで買って読むようになったなぁ。昔からギャンブルは競輪·競馬もパチンコも全くやらないし。青年時からギャンブルをやっても全く楽しくない性格なんですよね。まぁちっとも面白くない人間で。

 相撲部屋に嫁いだ若女将の相撲界裏方奮闘記の、一丸氏作画の相撲部屋舞台コミック「おかみさん」は雑誌で読んでて、コミックスで再読した覚えはないし、「おかみさん」はオリジナル90年から99年までの連載だから、やはり僕は90年代前半まではビッグコミック オリジナルを購読してますね。「おかみさん」も大長編みたいですが僕は途中までしか読んでないし。まぁだいたいこういう漫画作品は雑誌連載一話完結方式で、雑誌毎号のエピソードはその回で話に決着が着く、大長編連載でも短編連作形式ですからね。

 

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