ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

不気味なほど静かな金融市場と平穏無事な経済動向

2015年05月17日 | ニュース・コメント

   このところ世界の金融市場は株式にしろ為替にしろ、そして商品相場ですらとても落ち着いた動きを見せています。株のアナリスト風に言えば「方向感のない動きだ」ということなのでしょうが、私には一時の悲観的トーンが少し後退し、欧米とも少し楽観論が強くなってきたように見えます。

  各国の経済と金融市場をアメリカ、欧州、日本の順で概観してみたいと思います。


  アメリカの株式市場を見ると今年の春に付けた高値には及ばないもののそこそこの高値が続いています。経済は若干悲観的見方が多くなった春先よりも、現在の方がしっかりとしているという見方が多くなりました。原油価格が底を打って反転し始めたことが安心感を誘っている一つの要因のようです。5月の雇用統計も無難な結果に終わったため、「今年中の利上げはないかも」という意見より、「9月にありそうだ」という意見が再び多くなってきました。そのせいか長期金利もいつの間にか2%を超えて推移しています。

  いま一つは強いドルに対する見方の変化が株式に影響しているのかもしれません。エコノミストでも株式市場に近いエコノミストは強いドルを警戒し、製造業の輸出を阻害していると主張しています。しかし私のように市場から遠く純粋に経済を分析している人間から見れば、アメリカ経済が貿易で成り立っているのではなく、GDPの7割を占める消費で成り立っていて、強いドルは物価を抑制し、実質消費を増加させる要因と見ています。それを数字で確認してみましょう。

  アメリカ経済を見るのに重要なのは言うまでもなく構成比で約7割近くを占める個人消費です。構成比で言うと次は政府消費で2割弱、設備投資が15%程度、そこまでで100%をちょっと越え、さらに住宅投資が3%程度です。なんかへんですよね???

  じゃ、ドル高で鈍っていると言われる輸出はどこにいったのかと言いますと、実はご存知の通りいつもいつも輸入を引くと赤字なので、構成比上はマイナスにしかならないのです。GDPの計算は輸出から輸入を引いてプラスだとGDPに貢献しますが、マイナスだと貢献どころかマイナスの影響しか与えません。ちなみにアメリカはだいたい3-5%程度のマイナスであることがほとんどです。なので上記の100%を越えた数字が、輸出入を合わせるとつじつまが合うのです。でもそれだと輸出入の規模がどの程度だかわからないので、輸出だけを取り上げてGDPと比較するとだいた15%弱と、設備投資に匹敵します。ただ輸入がいつもそれより多く、結局GDPに対しては若干のマイナス貢献なのです。

  アメリカ経済の構造をご理解いただけましたでしょうか。

  こうして数字で見てみれば、ドル高になったからと言って輸出数量が多少減少しても、GDP全体への影響は実は大したことがないことも理解できると思います。市場に近いアナリスト達がドル高で騒ぐのは、輸出比率の大きな企業の業績が悪くなることを懸念しているだけなのです。

  ところで、最近アメリカで評判になっている統計にアトランタ連銀の発表するGDPNowという統計があるのをみなさんはご存知でしょうか。この統計は現在のGDPを予測するというもので、つまり4-6月期の統計を刻一刻と予想していきます。刻一刻という意味は、GDPに関わる主要指標が発表されるごとに数値が更新されるもので、イメージ的には東大が毎日発表している物価統計のようなイメージです。

  現時点では4-6月期のGDPの5月13日時点予測が出されています。アトランタ連銀のHPで見ることができます。

https://www.frbatlanta.org/cqer/researchcq/gdpnow.cfm

  それを引用しますと、現時点は以下のとおりです

The GDPNow model forecast for real GDP growth (seasonally adjusted annual rate) in the second quarter of 2015 was 0.7 percent on May 13, down slightly from 0.8 percent on May 5. The nowcast for second-quarter real consumer spending growth ticked down 0.1 percentage point to 2.6 percent following this morning's retail sales report from the U.S. Census Bureau.

  要約しますと、「第2四半期のGDPのナウキャストは0.8%から0.7%に0.1%下方修正となった。本日朝発表された小売統計を受けて、ナウキャストの実質消費支出を0.1%下げ、2.6%とした」

  このGDPナウキャストは様々な統計数値の発表を受け、決められた方式(予測モデル)で計算されるだけで、恣意性は排除しています。統計数字に一気一憂するアメリカ人の気質を逆にしっかりとつかんでいるようです。何故ここに来て注目されるようになったかと申しますと、1-3月期のとても弱かったGDPを的確に言い当てたからです。いわゆるエコノミストの「コンセンサス予想」が大きくはずれたため、一気に注目が集まりました。そして現時点では今期も弱そうな数字になっているため、より注目を集めているようです。

  こうした統計はアトランタ連銀だけでなく、各地域の連銀がそれぞれの方法で発表しているものがあり、どれが一番有効だと結論付けられてはいません。それでもアトランタ連銀のサイトでは、「改善を重ねることで精度が上がってきている」と若干自画自賛しています。しかし一方で「この数字はしょせん予測値で誤ることもあるし、アトランタ連銀の公式予測でもない」と釘も刺してあります。

  面白いものでこうした統計はいったん影響力を持つと民間のエコノミストも利用するようになるため、予測が収れんしやすくなることが往々にしてあるようです。

つづく

コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする