今週に入っても、円安が止まりませんね。不幸の連鎖に一段と拍車がかかりそうで心配です。
前回の記事「私は騙されない」をおさらいしますと、一般の人々の毎日の生活実感はGDPが上昇したと喜べるようなものでは決してなく、特に所得の低い人は物価上昇から「将来の暮らし向きは悪くなり、物価は今後さらに上昇する」ことを見込んでいるというものでした。
先週、4月の消費者物価統計が発表されました。生鮮食料品を除く総合でプラスの0.3%。3月までは消費税値上げ分の約2%のゲタを履いていましたので、3月の数字は2.3%の上昇でした。消費増税は3%でしたが、物価全体は消費税がない物もあるため影響度合いは2%と計算され、それがゲタと表現されます。4月はそのゲタがほぼなくなり消費税の影響はわずか0.3%が残っているだけですが、それを引くと上昇率は0.0%、つまり前年比で丁度ゼロとなっています。
物価上昇率という統計の数字には大きな罠が仕掛けられています。「上昇率がゼロになった」というのを喜んではいけません。ゼロとは前年比だけで、2年前と比べるとプラス2%です。ということは、この2年収入が増えていない人にとって4月の物価上昇はゼロではなく、2%なのです。来年の今頃、仮に前年比で物価が2%を達成したとします。収入が依然として増えない人にとって物価上昇率は累積の4%なのです。日本ではベースアップのある大企業に勤める人はとうてい過半数に達していません。年金生活者はベースダウンをくらっています。ベースアップのない多くの人にとって物価上昇率はアベクロ・コンビのスタートから累積で効き続けるのです。
統計というマジックに十分慣れていないと、こうした本当の現状把握や分析ができません。私の様な数字ヲタクは少数派ですから、世の大多数のマスコミの記事を書くオニイチャン・オネエチャン達の記事にごまかされず、いや、もとい。オニイチャン・オネエチャン達は自分がごまかしていることすら自覚なく、「アリノーママニー」書いているのだということをみなさんには知っておいて欲しいのです。
さてここまで日本の現状把握を、GDP・物価統計と一般人の生活実感のズレから解説してきました。何故このズレの把握が大事かといいますと、このズレは不幸の連鎖であって、こうしたことがじわりと家計を蝕み、日本経済が体力を喪失していくからです。私はそれに警鐘を鳴らしたいのです。
日本もいずれは個人消費がGDPの3分の2を超えアメリカの様に7割に近付きます。その時には高齢化の進展から年金受給者が増大し、収入が伸びる要素はほとんどなくなります。その中で医療費・介護費などのサービス消費が膨張し、人手不足から介護費も増大、その上一般物価も順調に2%を達成したりすれば、年金世代や中小企業の方々がその他の消費に回せるオカネは底を突きます。
GDPを増やすのは簡単です。多くの労働者を雇い重機を使って巨大な穴を掘り、それをまた多くの労働者と重機を使って埋め戻せば増やすことができます。もっと極端に言えば、戦争をして設備を破壊し、復興のため設備投資をすればそれでもGDPは増えます。しかしそれは決して国民みんなの幸せにはつながりません。老齢化が進展して医療費・介護費が増大することは良い意味でのサービス消費の増大などでは決してなく、一国の経済全体の将来を考えると、不幸の穴を掘ってそれを埋め戻すに等しいと私には見えるのです。それでもGDP上はサービス消費が増大し、経済は成長したとなるのです。
巨大な塊となっている団塊の世代は年金受取側、かつ預貯金取り崩し側に回りました。一部のリッチな人達は消費を楽しむでしょうが、大多数の人はそうはいきません。物価上昇、医療費・介護費の増大に苦しみ、その他の消費を減らし、預貯金を取り崩します。このことは日本にとって確実に起こる未来であって、バクチ打ちのアベクロ・コンビの大芝居で逆転などできません。
日銀の思惑は4月の物価統計発表にて完全にハズレですが、とても怖いのはクロちゃんがそれをもっていきなりバズーカ3号を発射することです。市場の見方は、「日銀は『秋になったら物価は上向く』と言っているがそうならないとバズーカ3号を発射する」というものです。その市場の読みを欺きサプライズを演出するためには、もう空砲でしかないことが分かっていても暴発したようなタイミングで発射する以外にありません。しかも既に国債が市場では底をつきかけ、株を買い上げる以外にロクな弾がありません。このところの株の連騰にも常に日銀の影がちらついています。株屋さんに言わせると引け近くで株価が安いと必ず日銀の買いが入るのだそうです。株高に沸く証券業界の思う壺に日銀がはまり、一般投資家もはまれば、行く先は見えています。
さて、ここまで日本の現状の危うさを私なりに分析してきました。この後は欧州に進むつもりですが、その前にブログの読者の方から米国債でどう自分年金を作るかについていくつかの質問をいただいていましたので、それに回答してから欧州に進むことにします。