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不気味なほど静かだった金融市場と平穏無事な経済動向 その5 日本経済③

2015年05月27日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

サブタイトル;一般人の暮らし向き、私は騙されない!

  円が7年ぶりの安値をつけていますね。今回は「不気味なほど静かな金融市場と・・・」というタイトルで解説を始めましたが、ひととおり書き終わらないうちに為替が動き始めてしまいました。「不気味なほど静かだった・・・」に要訂正ですね(笑)

  もちろん今回のシリーズの私の意図は「中央銀行による異常な緩和に支えられた市場も経済も、このままハッピーな状態が続くわけはない」ということで書き始めています。そして何が均衡を破ることになるのか、相場か実態経済か、予想をしてみようと思っていました。このまま円がどんどん安値を昂進し続けると、予想の必要がなくなってしまいますね(笑)。それにもめげずに私のストーリーを続けます。

  前回は物価の中で一番実感しやすい食料品、それも朝食用品に限った価格を、私の買い物カゴの中身からみなさんにお示ししましたが、それに賛同するご意見をいただきました。値上がり率は2年で消費税込約3割という恐ろしい数字になっていました。

 

  ではこうしたことが全国の消費者にはどのようなインパクトを与え消費行動に影響をしているのでしょうか。今回は「生活実感」という数字にしにくい難物を数字で捉えることにします。

   「消費動向調査」という調査があります。政府中枢の内閣府が公式に発表している調査報告です。この統計はじっくりと見る人が少なく報道もあまりされない調査で、むしろ内閣府も報道機関も意図的に無視しているとしか思えないほど可哀想な扱いを受けています。何故か?

   もちろんアベチャンにとって「不都合な真実」に満ち溢れているからです。

 以下ではまず私が尊敬するエコノミストの一人である東短リサーチ代表の加藤出氏の先週のコラムからこの統計に絡んだ記事の概要を引用します。

 引用

  黒田日銀総裁のバズーカ1号が発射される前と現在では、消費者が将来を見る見方が大きく変化し、特に所得階層の違いでその意識の差が鮮明になっている。それをバズーカ発射前の13年4月と直近15年3月の調査結果を比較し見てみる。

 1.      将来の暮らし向き ・・・ 「良くなる」と思う人の数から「悪くなる」と思う人の数を引いて差を%で表したもの。

(林の注)数字がプラスなら将来良くなると思っている人が多く、マイナスはその逆。マイナス幅が大きいほど将来を悲観的に見ている人が多いことになります

年収     950~1200万   550万~750万   300万未満

13年4月    マイナス12.6%  マイナス17.5%  マイナス34.5%

15年3月    マイナス17.0%  マイナス28.7%  マイナス48.3%

悪化度       4.4p       11.2p               13.8p

 

  13年と15年を比較すると、年収にかかわらず将来の暮らし向きが良くなると思っている人より悪くなると思っている人の方が多くなっていて、すべての階層でマイナスの結果が出ています。年収が多い人より少ない人のほうがより悪くなると思っている人が多いことが、悪化度の欄を見ると明らかです。つまりバズーカを2回も発射しても、アベノミクスに対しては懐疑的な人の方がより多くなってきているのが調査結果に出ている。


2.    将来のインフレ予想

将来のインフレが5%以上になると思っている人の比率

 年収     950~1200万    300万未満

13年4月        16.5%             20.5%  

15年3月        17.5%             32.2%  

悪化度       1.0p       11.7p 

      13年では5%以上のインフレを予想する人はさほど多くはなかったが、15年時点では300万円以下の層で2割から3割へと大きく増加している。これは毎日の食料品の値上がりにかなり強く反応し、低所得者層では将来のインフレを脅威と思っている人が多くなったということだ。

引用終わり

 

  さて、みなさんはこの調査をどう思われますか。

    この数字を見れば、内閣府の消費動向調査が実に的確に一般人の暮らし向きを捉えていることがわかります。所得が300万未満の層では将来の暮らし向きがよくなると思っている人の数は半分程度しかいませんし、このところの食料品物価の高騰で将来インフレ率が5%を超えると思っている人が大きく増えています。

   では一般勤労者の賃金の動向はどうでしょうか。最近3月の賃金の確報が発表されましたので、引用します。

   「2014年度の毎月勤労統計調査の確報によると、実質賃金指数は前年度比3.0%減と4年連続減少し、1990年度の統計開始以来、最大の下げ幅を記録。現金給与総額は同0.5%増の31万5,984円と、4年ぶりに増加した。」

   解説しますと、14年度の賃金そのものは4年ぶりに0.5%上昇したが、物価の値上がり分を差し引いた実質賃金は3%減少し、統計開始以来最大の下げとなったということです。なんとも悲しい結果が示されています。

   年金受給者など所得の上昇がない方は、3+0.5=3.5%くらい実質収入が減ったと読みとれます。これではとてもとても将来に明るい見通しを持つことはできません。

   さて、加藤出氏のコラムの数字は3月調査の数字で、その後に定期昇給やベースアップの数字が決まり、4月になると消費者態度指数などは改善するはずと思われていました。しかし5月中旬に発表された4月調査の数字は悪化していました。消費動向調査の中でもっともよく引用される消費者態度指数などの概要を内閣府のHPから引用してみます。

 

引用

(1)消費者態度指数

平成27年(2015年)4月の一般世帯の消費者態度指数は、前月差0.2ポイント低下し41.5であった。

(2)消費者意識指標

消費者態度指数を構成する各消費者意識指標(一般世帯)について、平成27年(2015年)4月の動向を前月差でみると、「耐久消費財の買い時判 断」が0.9ポイント低下し39.7、「暮らし向き」が0.4ポイント低下し38.4、「収入の増え方」が0.1ポイント低下し39.3となった。一方、 「雇用環境」は0.8ポイント上昇し48.6となった。また、「資産価値」に関する意識指標は、前月差0.3ポイント上昇し43.4となった。

引用終わり

 

  大事な消費者態度指数は改善していません。明るい未来を描こうとする政府・日銀、それにちょうちん記事を書く報道がどう言おうと、内閣府の消費動向調査は4月になってもさらに低下しています。

  今回みなさんにお示しした二つの統計、内閣府の消費動向調査と厚労省の毎月勤労統計に、庶民の実感は比較的正しく反映されています。 つまり実質賃金が増えない中で物価だけだ上昇し不幸の連鎖となっていることが説明されているのです。なのに内閣は自ら調査している統計を無視し、日銀もそれに乗じて不幸の連鎖などどこ吹く風と強弁を続けています。

   消費者は将来の物価上昇や消費税値上げに対して実はかなり不安を感じていて、この先ますます自己防衛的にならざるを得ません。ここに来ての円安でさらに物価の一段の値上がりが見込まれると、エンゲル係数は上がるばかりになり、その他の消費を落とさざるをえなくなります。

  政府が笛吹いて踊るのは一部の高収入消費者だけで、大多数の一般庶民は決して騙されることはなく、消費に踊るなどということはないと私は思っています。

  以上、「一般人の暮らし向き、私は騙されない!」 でした。

コメント (24)
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