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不気味なほど静かな金融市場と平穏無事な経済動向 その3 日本経済

2015年05月21日 | ニュース・コメント

   2回にわたりアメリカ経済を概観してきました。このところ発表される経済指標にスローダウンの兆しが出ています。しかし私は『こうした小さな動きは単なる経済の循環と相場のアヤに過ぎず、いちいち解説するほどのことではない』とのべました。「解説」の言葉はあまり適切でないかもしれません、解説していますので(笑い)。「反応」と変更させてください。

  そして前回の終わりでは『アメリカが他国に比べて力強く成長するであろうトレンドに変化はないと見るのが妥当だ』とも述べています。昨日アメリカでは4月の新築住宅着工の数字が発表されましたが、なんと前年対比でプラス20%と、誰も予想しなかったほどの数字が出てきました。そして地域別に見ると、北東部では3月に比べて4月の増加率は異常とも言える86%にもなっていて、1-3月期のGDPのスローダウンの原因は寒波である可能性が高いと報道されています。前回取り上げたサンフランシスコ連銀による季節調整の方法による大きな成長率の齟齬ついても、どうやら見直すらしいとの報道も耳にしました。いずれにしろ様々な毎月の統計など変動が激しいので反応し過ぎない方がよいということを、改めて示しているのだと私は思います。

 

   さて今回からは欧州の順番のはずでしたが、昨日丁度日本のGDPの1-3月期の数字が発表されましたので、順序を替えて日本にフォーカスすることにします。あしからず。

  ではまずGDPの報道から見てみます。ロイターニュースを要約して引用します。

「2015年1─3月期国民所得統計1次速報によると、 実質国内総生産(GDP)は前期比プラス0.6%、年率換算でプラス2.4%だった。輸出の伸びや設備投資がプラスに転じて景気改善が確認できたが、民間在庫投資が実力以上に成長率を押し上げた面がある。個人消費に加速感が出ず、原油安や雇用・賃金増加の効果は、事前の期待ほど寄与していないようだ。

民間最終消費は前期比プラス0.4%。3期連続でプラスとなり、10─12月期と同じ伸び率を維持したが、力強さには欠ける。雇用、賃金の持ち直しや原油安による実質購買力の増加により消費の伸びが高まることが想定されていたが、やや期待外れの結果となった。

輸出は前期比プラス2.4%。10─12月期からは鈍化したものの、しっかりとした伸びになった。一方、輸入も前期比プラス2.9%と高い伸び。原油や天然ガスが増加した。このため、外需寄与度でみれば前期比マイナスで、成長率を押し下げる要因になった。外需寄与度がマイナスとなったのは4期ぶり。」

引用終わり

  さらに簡単に要約すれば、「個人消費はだめだったが在庫投資が全体を押し上げ、輸出はプラスだが輸入も大きくて外需の寄与はマイナスだった」となります。

  では14年度として見た3月末までの1年はどうだったか、ロイターをそのまま引用します。

「同時に発表された2014年度の成長率は、消費税引き上げの影響もあり消費、設備投資など内需がさえず、実質マイナス1.0%となった。リーマンショック以来、2009年度(マイナス2.0%)以来、5年ぶりのマイナス成長となった。名目GDPはプラス1.4%だった。」

   なんと一年の実質成長率はマイナスに終わっています。14年12月までの暦年の1年でもマイナス成長でしたが、1-3月期のプラス2.4%を追加してもまだなお実質では1%のマイナスなのです。

   GDPの速報値に関して長々と引用しましたが、その理由はこのところの様々な経済指標や株価、新卒採用状況や賃金上昇の報道などを見ていると、いかにも日本経済が順風満帆になりつつあるように思える報道が多いので、そうたことを総合的に表すGDPの数値は決して芳しいものではないということをみなさんに認識してもらうためです。

  ではどうして報道に現われる経済実態とGDPは乖離しているのでしょうか。一番の原因は株価の上昇による景況感の好転、二番目の原因は報道は大企業と大都市を中心としていてGDPが日本全国ベースの状況を表しているのとは乖離があるからだと思われます。このブログでも時々地方にお住まいの方から、「ちょっと違うんじゃない」というようなコメントをいただきますが、それが数字ではっきりと表れるのがGDPの数字だと思います。

  GDP報道そのものでも今朝の日経新聞朝刊の3ページのトップで解説記事があり、見出しは「消費浮上、景気押し上げ」とあります。でもこれは単なるウソですよね。何故ならGDP全体が2.4%増加しているのに6割を占める消費はたった0.4%の増加で、全体の足を引っ張っているからです。名目では消費はなんとマイナス0.1%です。こうした日経など政府のちょうちん持ちの記事が、実態の見方を誤らせるのです。その点、冒頭のロイター記事では「個人消費に加速感が出ず、原油安や雇用・賃金増加の効果は、事前の期待ほど寄与していないようだ。」とあり、よほど実態をあらわしています。

  それにもかかわらず、政府・日銀の思惑に沿った経済指標が多くなりつつあるのは事実だと思います。

例えば、

1. 物価指数

総務省の発表する指数は低迷が続いていますが、私がよく引用し先行性のある東大日次物価指数はマイナスの域を脱して、今月に入ってプラス領域にまで回復しました。ちなみに直近5月18日の指数は前年比プラス0.44%で、同じベースでの3月の総務省の物価指数0.41%を若干上回っています。総務省指数は月一回なので遅れていますが、それでも比較において上回るのは久々です。東大指数に先行性があるとすれば、今後消費者物価はさらに上昇する可能性があるかもしれません。

2. 経常収支

財務省が5月13日に発表した2014年度の国際収支統計速報によると経常収支は7.8兆円の黒字となり、4年ぶりに黒字が増加しました。14年度は原油安で貿易赤字が縮小したのが主な原因です。14年度の経常黒字が増えたのは貿易赤字が縮小した影響が大きく、貿易赤字額は前年の11兆円の赤字から6.6兆円へと減少しています。

3. 株価

改めて申し上げるまでもありませんが、好調な企業収益の結果を受けて2万円を再び超えています。円が120円前後で推移していることが大きいと思われます。そして昨日は東証の時価総額がバブルのピークの591兆円を超えたとの報道もありました。

4. ベースアップ

このところ定期昇給はあってもベースアップはほとんどなかったのが、4月からの新年度では経済団体の報告でも労働団体の報告でもベースアップを回答した企業が多くなっています。政府の鳴り物入りの圧力も、効いていることは確かです。

 

  では、こうした上向きの指標とGDPとのギャップ、それも個人消費とのギャップはいったいどうなっているのでしょう。次回はその辺りを詳しく解説してみます。

コメント (19)
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