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戦後70年、第2の敗戦に向かう日本  その4 バブル時代の不動産投資

2015年01月20日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

  前回はアベノミクスで政府・日銀のやっていることを、これまでよく見かける分析とは違った視点から検証してみました。親の日本株式会社の発行する債券を子会社の日銀が天井知らずに買い上げるということは、バブル時代の事業会社が自社株を自分のファンドや子会社で買い上げていくことと同じで、落語で笑い飛ばされるほどアホなことだとお伝えしました。

   「特金・ファントラ・エクイティファイナンス・損失補てん」と言うバブル用語を並べると、当時財テクに励んだ財務部長さんや、それに乗って株式投資に励んだ個人投資家のみなさんにはさぞかし頭の痛い言葉だと思います。しかしあの時代のバブルは、株式市場のバブルだけではありません。不動産バブルというもっと巨大なバブルも膨れ上がっていました。これも内容を知っておくことは「投資でもっとも注意すべきバブル形成の仕組み」を理解することになります。

  アベノミクスが成功するには資産バブルが必要、あるいは成功すれば資産バブルが訪れるということが言われます。そレに向けてバブル形成の仕組みを理解しておくことはとても良い勉強になりますし、バブルに乗らない知恵を身につけるヒントにもなると思います。

  株式相場が花見酒相場として形成されたのと同様、不動産相場も同じように花見酒相場でした。そこには銀行が深く関わり、株式のバブルと同規模の巨大バブルが形成され、その処理が90年代からの10数年間、日本を苦しめ続けたのです。

   日本の不動産投資は株式相場よりよほど堅固な「土地の神話」に支えられていました。それは日本のような狭い国土の国では不動産は絶対的に供給不足であるから永遠に値下がりはしないという神話です。戦後40年間、一貫して値上がりが続いていたことが安心感を生んでいました。この堅固な需給関係があるため銀行は土地を担保にしさえすれば貸出は絶対に安全で損失はあり得ないと考えていました。

   しかしそれだけでは簡単にはバブルは起きません。株式バブル同様に、自己増殖のメカニズムが組み込まれたからバブルになったのです。

       

  日本の不動産投資の最大の問題点は、キャッシュフローを無視したことでした。

  著書でも書いていますが、日本の投資=株式投資=キャピタルゲインでした。不動産投資も同じ構図で、邪魔な建物など取り壊して簡単な更地の売買だけでキャピタルゲインを得ることでした。

   値上がりが続くという神話にのっかり、土地を担保に銀行から借り入れて別の土地を買い、それを担保に次の土地を買う。これが典型的なバブル形成のメカニズム、つまり自己増殖です。平常時は土地を買うために銀行から借り入れをするには、ある程度自己資金による頭金が必要です。それは住宅ローンを考えればわかりますが、現在一部でそれを無視しはじめていますので、要注意です。

  ところがバブル時は買ったとたんに値上がりするため頭金なし、しかも買った土地の担保評価は100%ではなく、120%あるいはそれ以上に評価して余分に貸して次の投資を促すのが当たり前でした。これを繰り返したため、バブルは一気に膨らんだのです。

   ですので株式相場の逆転と同じ様に価格が下落を始めると担保価値が下がり、銀行は危険を感じて貸出を引きはがす。すると担保を売却して銀行に返済しようとするためさらに価格の下げに拍車がかかり、いままで巻き上げてきた相場が一気に巻き戻しに入るのです。

   しかも不動産投資をしたのは不動産会社だけではありませんでした。建設会社、製造業などの事業会社、そして個人もはたまた非営利団体や学校から地方公共団体まで、一億総不動産屋と言われるほどの加熱ぶりで、ゴルフ会員権投資も同じ線上に乗っていました。そこに一番貸し込んだのが興銀・長銀・不動産銀行、そして信託銀行など長期資金の出し手でした。

  バブルを経験しなかった方々のために、そのすさまじさを数字で理解しておくのもよいかと思い、ちょっと数字を見ておきましょう。かつて民間金融界の頂点に立った興銀ともあろうものが尾上縫(おのうえぬい)という料亭のおかみに貸し込んで痛い目に遭ったエピソードです。ウィキペディアの尾上縫氏の項によれば、

 引用

89年の延べ累計額では借入が1兆1975億円、返済が6821億円で、270億円の利息を支払った。90年末には、2650億円の金融資産を保有していたが、負債も7271億円に膨み、借入金の金利負担は1日あたり1億7173万円にも上った

引用終わり

   この記事の数字の信憑性は保証できませんが、そのころの新聞や雑誌にはこうした数字が本当に飛び交っていましたので当たらずしも遠からずでしょう。まあ、千昌夫氏も一ケタ少ないですが同様で、ウィキペディアによれば

 引用

1991年のバブル崩壊とともに借金が膨れ上がり、2000年2月4日に個人事務所「アベインターナショナル」は経営破綻した(東京地裁に特別清算を申請、負債総額は1,034億円)

引用終わり

 個人に1千億はおろか1兆円を貸し込むという日本のバブルのすさまじさがわかる数字ですよね。

   日本の投資家と日本の金融機関が本当の投資の基礎を知っていたら、土地と言うそのままではキャッシュフローをもたらさない投資対象や、建物を建てても利回りの低い投資に血道を上げるなどというバカなことはしなかっただろうとおもいます。日本の投資=株式投資=キャピタルゲイン⇒土地転がし、となります。これもよく考えれば花見酒のくまさんはっつぁんのしたことと同じなのです。

 では、今の政府・日銀が果たして資産バブルを作り出すことができるか。私は無理だと思います。それは何故か?

 次回はそのあたりを解説します。

コメント (9)
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