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戦後70年、第2の敗戦に向かう日本  その4 金利低下のインパクト

2015年01月23日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

  日銀が15年度の「物価見通し」を引き下げました。たった3カ月前には1.7%だと言っていたのを0.7%引き下げて1.0%にしました。それに伴いクロちゃんの大事な大事な「物価目標」の達成時期も引き延ばしにかかっています。クロちゃんは一昨日の会見でもともと「15年中と言っていない、はみでることもある」と言ったそうです。

   そう、あの13年4月のバズーカ1号の発射時にたしかに15年中などとは一言も言っていません。「2年」とだけ言ったのです。「2年、2倍、2%」と大きく書いた紙を自信満々に示しました!

  2年とは正確に15年の4月のことですよクロちゃん。ごまかしちゃいけませんぜ(笑)。

   彼の最近の記者会見での物言いはすでに支離滅裂になってきていますが、かわいそうなので今日のところはこの辺にしておきましょう(笑)。


   さて、欧州中銀が量的緩和に踏み切り、世界的な中央銀行の緩和策と金利低下が大きな話題になっています。日本もその先頭を切っていて、日銀が金利を恐ろしいほど低下させています。それを私は債券の専門家としての視点から、日銀による債券バブルだと指摘しました。前回説明したように、バブルはいつも自己増殖のメカニズムを有していて、後から見ればなんてバカなことをしたんだ、となります。政府・日銀は自分の発行する債券を自分で買い入れることによる自己増殖で、まさに典型的バブルを大膨張させています。ではこの金利低下が日本に何をもたらしつつあるか、しっかりと検証してみましょう。

   そもそも金利低下というのは教科書的に言いますと景気を刺激するはずでした。ゼロ金利は実質的には2000年代の初めからスタートを切っていて、途中で一時停止はあったものの、現在にいたるまで10年以上継続しています。それにもかかわらず一般的評価として「景気はよくない」、あるいは「デフレが継続」しています。効果がないのは周知の事実です。

   2013年に入り日銀総裁がクロちゃんになるとさらに日銀が国債を爆食し、長期金利を低下させ、遂にマイナスの域に達してしまいました。おとといは短期の国債だけでなく、なんと中期と分類される5年物国債までマイナス金利を付けています。いくら物価上昇が思ったとおりいかないからといって、なんという無茶をするのでしょう。

   無茶なことをすると、市場や実体経済には必ず歪みが生じます。そのゆがみを並べてみましょう。

・財政規律の崩壊

・金融機関の収益機会の喪失

・年金の崩壊

・国民から金利所得獲得の機会を奪う

  今回はこの中で深刻になりつつあると私が考えている金融機関の収益機会の喪失について見ることにします。

   一番深刻なのは生保です。ついにほとんどの大手生保は最近になって年金型保険の新規募集停止に追い込まれました。予定利率を掲げることすらできないからです。その上この状態が続くと、きっと過去に約束していた予定利率も、ゴメンチャイして引き下げにかかる可能性もあるでしょう。もちろん年金型だけの問題でなく、生保・損保全体が金利低下で収益の低下に悩んでいます。これが保険料の値上がりにつながりつつあります。

   次に大きな影響を受けるのは地銀・信金です。もともと景気拡大がスローというよりむしろ経済規模が縮小しつつある地方に基盤を置いているため、融資より債券投資に重点を置かざるを得ないのですが、この金利低下でさらに収益があがらなくなっています。地銀の合併ニュースが最近よく見られますが、それもやはり収益低下が原因なのでしょう。こうした状態が続くと、おきまりのヤバいハイイールド物などに手を出すことになります。

   金利の低下は債券運用だけの影響にとどまりません。貸出金利にも当然波及します。すると地銀・信金だけでなく都銀やノンバンクにまで影響します。

  そして本当の危機はどこにあるかと申しますと金利の上昇時にあります。金融機関がローンの出し手であればその金融機関が影響を受け、住宅ローンをモーゲージ債券として投資家に売り払っていれば、投資家が影響を受けます。なにせ個人が借り手の超長期固定ローンを1%台の低金利で提供しているため、少しでも金融機関の調達金利が上昇すればすぐに逆ザヤになります。

   そもそも金融機関の利益の源泉は、短期の低い変動金利で資金を調達し、長期の高い金利で貸し出すことで得ています。短期調達と長期運用のミスマッチは金融機関のリスクですが、このリスクを取ることこそ収益の源泉なのです。住宅ローンは企業貸し出しが伸びない中、貸出の柱になりつつあります。企業向けと違い住宅ローンは金融機関にとって超長期のコミットです。金利が上昇を始めると当然短期の調達金利が跳ね上がるのですが、貸出は長期の固定なので逆ザヤになります。これは金融危機が起こりかねないほどのインパクト持っています。

   日本は日銀が模範となって出口は考えなくていい国ですので、銀行も出口など気にせず、いざとなればまた国に泣きつけば済むくらいに思っているのかもしれません。

コメント (4)
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