前回の記事では3月の全人代で政府が理財商品や社債など金融商品のデフォルトを認める政策変更を行い、実際にデフォルトが発生したことをお伝えしました。
すでにみなさんもご存知のとおり中国内では膨張した理財商品などの金融商品を巡り、昨年後半からいろいろな情報が飛び交ってきました。投資先は不動産関連や銀行融資の返済に行き詰まった企業が多いと言われています。政府はこれまでデフォルト・リスクの火消しにやっきになっていたのですが、遂に消しきれない所まで来た、というのが私の見方です。
政府は政策変更のコメントで「個別のデフォルトは起こるかもしれないが金融システム全体への波及は阻止する」と述べています。これまではすべてデフォルト寸前に救済していたのを突然救済しなくなりました。本当に金融システム全体を守りきれるのかについても黄色信号が点滅し始めています。
このバブル崩壊が世界経済全体に与えるインパクトを考えるにあたっては、日本との対比がわかりやすいと思いますので、それをこれから試みることにします。
中国の金融商品バブルの破綻インパクトを日本と比較しやすくするため、まず大きさをGDPとの対比でつかまえておきましょう。絶対的大きさの比較でなく、GDPとの対比で比べるのは、GDPが大きければ破綻の吸収余力が高いので、そのほうが有効だからです。
中国政府は意外にもこうした債務の実態に関して、かなり詳細な調査を行い、公表しています。その信憑性についてはこれまた意外にも日本、アメリカのリサーチレポートなどで数多く引用され、信用できないとのコメントはあまりありません。私はその中で、大和総研の14年1月28日のレポートが最新なのでそれを使いますが、内容中の数字は他社でも同じ物を使っています。
それによれば今後問題となりそうな金融商品はおおまかに二通りあり、それぞれ個人の富裕層から機関投資家までが投資しています。規模は以下の通りかなり巨額で、その中からデフォルトが発生し始めています。 1元=16.7円で換算
① 銀行の理財商品; 165兆円 平均利回り5% GDP比17%
② 信託銀行の信託商品; 168兆円 平均利回り8.8% GDP比18%
合計333兆円 対GDP比率;35%
このうち不良資産がどれくらいかは、公表数値はありません。大和証券も不良資産の推定を行っていませんが、それぞれの商品の投資先と金利によって不良化する可能性がより強いのは②の信託商品で、平均利回りがとても高い8.8%に達しており、地方の企業やインフラ、不動産に多くを投資しています。
この場合の利回りとは、投資家が受け取る利回りです。信託銀行が投資家に8.8%も金利を払うためには、投資先の企業や不動産からはそれをはるかに上回る収益を上げる必要があるということで、かなりの高利貸しと言えます。
また①の理財商品の利回りは5%と低いのですが、理財商品の投資先のなんと30%は②の信託商品に投資されています。つまり銀行は8.8%と5%の差を収益にしているということです。どうやらこの信託商品がハイリスク・ハイリターンの商品であることは確かなようです。サブプライムでも結局高利の商品が不良債権化したのと同じ構図です。
中国では地方政府が「陰の銀行(シャドウバンキング)」や「融資平台」と呼ばれる機関を通じて資金調達をしていて、それが不動産に投資され不良債権化しつつあるという問題が指摘されています。中国では地方政府は債券発行が禁じられていますので、それらの債券は実質的に違法債券です。それらに資金を供給しているのが、上記の2つの商品です。
フィナンシャルタイムスは大胆にも米系投資銀行の不良債権推定方法を利用して計算し、不良債権の規模はGDPの2割程度と推定しています。上記の高利の信託商品全体がGDP比18 %程度で、それにある程度銀行の理財商品も加えると、およそ2割という数値は当たらずしも遠からずといえるかもしれません。そこで不良債権化する可能性のある数値としてはとりあえずこのGDP対比2割程度という数値を採用してみます。
では日本のバブル崩壊に伴う不良債権の規模はどの程度だったでしょう。日本経済の分析で定評のある一橋大学名誉教授野口悠紀夫氏の詳細な集計では90年代の終わりのピーク時で日本の銀行に溜まった不良債権は48兆円程度、対GDPでは10%程度でした。
つづく
すでにみなさんもご存知のとおり中国内では膨張した理財商品などの金融商品を巡り、昨年後半からいろいろな情報が飛び交ってきました。投資先は不動産関連や銀行融資の返済に行き詰まった企業が多いと言われています。政府はこれまでデフォルト・リスクの火消しにやっきになっていたのですが、遂に消しきれない所まで来た、というのが私の見方です。
政府は政策変更のコメントで「個別のデフォルトは起こるかもしれないが金融システム全体への波及は阻止する」と述べています。これまではすべてデフォルト寸前に救済していたのを突然救済しなくなりました。本当に金融システム全体を守りきれるのかについても黄色信号が点滅し始めています。
このバブル崩壊が世界経済全体に与えるインパクトを考えるにあたっては、日本との対比がわかりやすいと思いますので、それをこれから試みることにします。
中国の金融商品バブルの破綻インパクトを日本と比較しやすくするため、まず大きさをGDPとの対比でつかまえておきましょう。絶対的大きさの比較でなく、GDPとの対比で比べるのは、GDPが大きければ破綻の吸収余力が高いので、そのほうが有効だからです。
中国政府は意外にもこうした債務の実態に関して、かなり詳細な調査を行い、公表しています。その信憑性についてはこれまた意外にも日本、アメリカのリサーチレポートなどで数多く引用され、信用できないとのコメントはあまりありません。私はその中で、大和総研の14年1月28日のレポートが最新なのでそれを使いますが、内容中の数字は他社でも同じ物を使っています。
それによれば今後問題となりそうな金融商品はおおまかに二通りあり、それぞれ個人の富裕層から機関投資家までが投資しています。規模は以下の通りかなり巨額で、その中からデフォルトが発生し始めています。 1元=16.7円で換算
① 銀行の理財商品; 165兆円 平均利回り5% GDP比17%
② 信託銀行の信託商品; 168兆円 平均利回り8.8% GDP比18%
合計333兆円 対GDP比率;35%
このうち不良資産がどれくらいかは、公表数値はありません。大和証券も不良資産の推定を行っていませんが、それぞれの商品の投資先と金利によって不良化する可能性がより強いのは②の信託商品で、平均利回りがとても高い8.8%に達しており、地方の企業やインフラ、不動産に多くを投資しています。
この場合の利回りとは、投資家が受け取る利回りです。信託銀行が投資家に8.8%も金利を払うためには、投資先の企業や不動産からはそれをはるかに上回る収益を上げる必要があるということで、かなりの高利貸しと言えます。
また①の理財商品の利回りは5%と低いのですが、理財商品の投資先のなんと30%は②の信託商品に投資されています。つまり銀行は8.8%と5%の差を収益にしているということです。どうやらこの信託商品がハイリスク・ハイリターンの商品であることは確かなようです。サブプライムでも結局高利の商品が不良債権化したのと同じ構図です。
中国では地方政府が「陰の銀行(シャドウバンキング)」や「融資平台」と呼ばれる機関を通じて資金調達をしていて、それが不動産に投資され不良債権化しつつあるという問題が指摘されています。中国では地方政府は債券発行が禁じられていますので、それらの債券は実質的に違法債券です。それらに資金を供給しているのが、上記の2つの商品です。
フィナンシャルタイムスは大胆にも米系投資銀行の不良債権推定方法を利用して計算し、不良債権の規模はGDPの2割程度と推定しています。上記の高利の信託商品全体がGDP比18 %程度で、それにある程度銀行の理財商品も加えると、およそ2割という数値は当たらずしも遠からずといえるかもしれません。そこで不良債権化する可能性のある数値としてはとりあえずこのGDP対比2割程度という数値を採用してみます。
では日本のバブル崩壊に伴う不良債権の規模はどの程度だったでしょう。日本経済の分析で定評のある一橋大学名誉教授野口悠紀夫氏の詳細な集計では90年代の終わりのピーク時で日本の銀行に溜まった不良債権は48兆円程度、対GDPでは10%程度でした。
つづく