ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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2013年からの資産運用 その7、 銀行預金はどうなるか

2013年02月16日 | 2013年からの資産運用
前回まで現金預金のリスクを見てきました。
簡単におさらいしますと、

1.銀行やゆうちょなどは国債を抱えすぎていて預金には大きなリスクがある
2.しかし銀行は社会の重要インフラであり、金融システム防御のため混乱はあっても預金は返る可能性が高い
3.現金はインフレによる実質減価と円安による減価のリスクを抱える


というものでした。

「だったら銀行預金は安全なの?」

いいえ、私は全く安全とは思っていません。ちょっとみなさんに誤解を与えたかもしれませんね。

  これまでの歴史上の国家破綻は様々な様相を呈していました。例えば極端な例では国家が資金調達に困ると、金持ちからオカネを取り上げるために預金封鎖をしたり、インフレを起こし挙句の果てにデノミをして実質的に銀行預金もタンス預金も価値を切り下げてしまう。これは通貨価値を切り下げることで国家の債務も実質的に減ってしまう、というようなやり方です。

  またペイオフのやり方も、様々でした。例えば1千万円を超える分を切り捨て、外貨預金はすべて切り捨てる。決済性預金つまり当座預金はすべて保護するなどです。

  日本の今後の財政破綻の様相を、的確に予想するのは難しいのですが、このところの先進国の金融危機の乗り越え方からヒントを得ると、アメリカ型になる可能性が高いと思われるのです。それは銀行を中心とする金融システムの崩壊をとにかく防ぐ、という形をとります。その場合、預金はどれほど取り付け騒ぎになっても、資金を無限に供給して収まるのを待つことになります。

  ただし、リーマンショック時のアメリカの場合、政府は資金調達に困ってはいませんでした。それどころか米国債の金利は超低下し、いわゆる「フライト・トゥー・クオリティ」・・・安全資産への逃避が起こっていました。金融システムは危機に瀕していても、国家は信頼を失っていなかったのです。

 日本の場合むしろスタートは国家が信頼を失うことからの可能性が強いため、預金救済シナリオが崩れる心配もあるのです。

  そしてその帰結もハイパーインフレとなれば通貨が価値を失うので、銀行預金にしろタンス預金にしろ、円においておく限りリスクはまぬがれないと思われるのです。

  次回からは、保険それも特に生保の年金保険に焦点をあててお話を進めます。


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2013年からの資産運用 その6、 銀行預金はどうなるか

2013年02月14日 | 2013年からの資産運用
 「銀行預金は銀行がつぶれなければ大丈夫なのか」それが今回のテーマです。

 それを考えるために、日本が財政破綻したらどのような状況が想定されるかを見ておく必要があります。特に金融市場の様子を中心に見ましょう。

 国債の暴落により銀行が破綻の危機に瀕し取り付け騒ぎになると、日銀がどこまでも銀行に資金を出し続けて救済する、と申し上げました。

 日銀はそれと同時に、国債の暴落を少しでもくい止めるため既発債を市場から買いまくります。また政府が必要資金を調達するために新規に発行する国債を引き受けることになります。暴落する国債に投資する投資家がいなくなるためです。

 国債発行額を確認しますと、今年度も来年度も国債発行は170兆円にもなります。繰り返しますが、予算上の発行額44兆円だとか40兆円以内だとかは、新規の積み増し分だけで、発行額全体の規模を覆い隠す目くらましの数字です。

そして、当然海外のヘッジファンドがここぞとばかりに国債の先物を売るので、それに対しても日銀は買い向かう必要があります。

日銀の大活躍をまとめますと、

1.預金引出(取り付け)に対応するため、銀行に無限の資金供給をする
2.国債市場の暴落をくい止めるため、市場で既発国債を無限に買い続ける
3.ヘッジファンドに対抗し、国債の先物市場で買いまくる
4.政府の資金ニーズに応えるため、年に170兆円もの国債発行をすべて引き受ける


 こんなこと、ほんとにできんの?

私もできるとは思えないのですが、やる以外に手立てはありません。

 IMFやアメリカは助けてくれないの?

ではIMFや国際社会がどう日本を支援するのか見てみましょう。

 まずIMFですが、彼らは国内資金のニーズに応える機能は持っていません。日本は幸い今のところ対外債務はないので、IMFの救済対象とならないのです。こういうのを「幸い中の不幸」って言うのかな?IMFが韓国などを救済したのは、対外債務のデフォルトを避けることと、ウォンの暴落を食い止めるため外貨資金の供給を行ったのです。

 ヨーロッパは人のことなどかまっていられません。この先数年で欧州問題が解決し、人助けができるようになる目途は全くありません。まあできて通貨のスワップ協定を結んで、見せかけの支援をすることくらいでしょう。

 アメリカは?
日本を見捨てるわけにいかないので、IMFやもしかすると世銀まで巻き込んで、支援の音頭を取ってくれるかもしれません。しかしアメリカ政府も単年度の赤字が続いているようだと、議会が簡単に巨額の支援など許可しないでしょう。

 じゃ、IMFを含む国際社会は日本の財政破綻を手をこまねいて見ているかというと、日本発の世界恐慌の危険性を取り除くため、できる範囲の措置は取るものと思われます。

 しかしギリシャやスペイン、イタリアなどとは債務規模が1ケタ違うことと円の資金供給はほとんどできないので、救済措置は限られたものとならざるをえないでしょう。

 となると頼りは日銀だけです。しかし日銀が3つ大活躍をすると、円安とインフレがもれなく付いてきます。

 ここまでが、ざっくりと財政破綻で金融市場に何が起こるかの想定です。

 日銀による円の膨大な供給により対内的にはインフレを起こり、同時に円安となるので対外価値を失います。つまり結論としては、

「銀行が破綻しなくても、預金や現金で持っている円自体が対内的にも対外的にも価値を失う」

というのが私の見立てです。
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2013年からの資産運用 その5、 個人資産の見直しをしよう

2013年02月11日 | 2013年からの資産運用
 前回は、みなさんの資産の一つ一つがアベノミクスによってどういうリスクを抱えることになるのかを見るために、まず銀行のリスクについて見ることから始めました。

 銀行の一番大きなリスクは、国債をシコタマ抱えていることです。ゆうちょは総資産の8割程度、その他の銀行は2割程度が資産に占める国債の割合です。
  もちろん株式も保有していますが、昔と違い持ち合いなどもかなり解消され、簿価も低いレベルに落ちているので、株価が下落しても国債ほど深刻ではありません。もっとも国債がもし暴落を始めたら、その大激震は株式相場にも波及するのは間違いありません。

  問題はそうした大激震が走った時、果たして銀行預金はどうなるのか、ということです。預金保険機構が金融機関の破綻に対して預金を1千万円まで保護することになっていますが、その基金には1兆円程度しかありません。まあ、新銀行東京は信金信組、地銀の下位行程度であれば保護できるでしょうが、大手行となるととてもその額で保護はできません。

  国債は日本中の銀行という銀行が保有していて、すべての銀行が一時に影響を受けます。先日の<重要な注>のシミュレーションにもあったように、 。つまり数10兆円が吹き飛ぶので、とても足りません。

  でも実は私はこのような事態に立ち至っても、ペイオフの発動、つまり一千万円以上の預金カットの可能性は少ないと見ています。それが次々と発動されたら、取り付けパニックで収拾がつかなくなるからです。

  アメリカの例を思い出してください。リーマンショックの時、預金の引き出しが次々と銀行を襲いましたが、自由放任のはずのアメリカ政府ですらそれらを見捨てることはせず、ほとんどを救済したのです。リーマン・ブラザーズは一般預金者との取引はない投資銀行なのでつぶしましたが、一般の預金者を抱える銀行には無制限に資金供給をして、実はつぶさなかったのです。

 多くの金融機関が連鎖的に倒れるようなリスクを、システミックリスクと呼びます。連銀はそれを避ける措置をとりました。日本でも日銀から無限の資金供給を行うことを宣言し、そうしたリスクは何としても避けるでしょう。

 そうした日本中を巻き込む大激震が起こる前に、小さな崩壊で小ぶりな銀行がつぶれ、預金が全額は保護されないことはあり得ます。この銀行は影響が小さいのでペイオフ対象にする、というようなことが起こらないとは限りません。

  また大激震が起こった時、私は全銀行に救済措置を取ると信じますが、アメリカと同じ様にすべて救済する政策が日本でも採用される保証もないので、一応一千万円の限度を超える預金を一行に預けるのは避けるべきです。

(注)リーマンブラザーズは何で救済されなかったか?
リーマンはいわゆる投資銀行で、一般の人から預金を集める銀行ではありません。リスクを取る機関投資家に投資対象を提供したり、企業の資金調達を請け負うのがかれらの機能です。つぶれても株主の株はゼロになりますが、個人株主以外の一般人を巻き込むことはないのです。

  ここまで銀行の倒産リスクを見てきました。

  銀行はつぶすことはできないだろうというのが私の見立てです。だから預金はそのままでよいのか。私はそうは思っていません。次回はその辺りのお話を差し上げます。

つづく
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アベノミクスの債券相場

2013年02月08日 | ニュース・コメント


  株式相場は上昇を続け、円安も継続する中、ひたすら動かない相場があります。そう、日本国債の相場です。

  上場株式の時価総額350兆円。それに対して国債がメインの債券市場の大きさは1,000兆円を超え、約3倍の大きさです。株が高くなったとは言え、実は債券のほうがかなり大きいのです。世界規模でみてもその比率は同様です。このブログや著書でもそのことを指摘していますが、多くの方には意外なことかもしれません。

  「債券がわかれば、世界がわかる」

  昨年から日本経営合理化協会さんで販売されているCD講話のタイトルです。金融市場の3分の2を占める債券市場の動きがわからなければ、実は世界の金融市場は見えたことにはなりません。
  
  ではこの株高・円安局面で動きの止まっている債券相場は、一体何を物語っているのでしょうか。
  
  アベチャンの政策目標はなんといってもデフレの克服です。それに反応したのが株式市場と為替市場。いずれも外人が主導し、日本の機関投資家がフォロー、さらに日本の個人投資家が後を追って行く展開になっています。

  一方債券市場の参加者は誰か。圧倒的に日本の機関投資家です。債券相場が動いていないのは、プロである日本の機関投資家がアベチャンの政策に反応していないからです。シロウトは債券市場に参加していません。

  アベノミクスによりもし本当に景気が回復すれば物価も上昇し、デフレ解消に至るハズですが、債券の投資家はそう見ていないのです。超長期債は、若干金利高に振れてはいますが、最も取引高の多い10年債はほとんど動いていません。

アベチャンの相場時計で見てみましょう。

             10年物  30年物
2012年11月13日   0.75     1.90
2013年2月8日     0.77     2.00


  ほとんど動いていないのがわかります。日本の機関投資家は、「アベチャンの政策はけっこうだけど、デフレは克服なんかできないよ」という反応なのです。

  債券市場は動きが鈍くて相場についていけてない、なんてことはありません。債券相場も動くときは非常に大きく動きます。2003年の6月に0.4%台だった10年物金利が3カ月後の9月には1.5%を超えるほどまで大きく動いたことがあるのです。価格でいいますと、10%の暴落です。債券価格が3カ月で10%下がるのは大暴落と言えます。

  日本の政治家はもとより、マスコミ、エコノミスト、評論家の先生方は大半が債券オンチですので、債券の動きをほとんど見ていません。このブログの読者のみなさんは、金融資産の大半が債券だということを理解して、冷静な債券相場が何を語っているか、意味合いをしっかりとかみしめてください。

  今後も株式・為替とともに、債券市場の状況をしっかりとフォローするつもりです。
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2013年からの資産運用 その4、 個人資産の見直しをしよう

2013年02月06日 | 2013年からの資産運用

前回のお話はRさんの資産の想定でした。おさらいしますと、

金融資産;現預金1千万円、株式1千万円、投信1千万円の合計3千万円
不動産、持家あり; 時価3千万円
借金; なし。ローンは払い済みです
収入; 厚生年金年間240万円・・・25年とみて合計6千万円
払い済み年金保険収入予定、65歳から;毎年100万円・・・20年とみて合計2千万円

合計 いわゆる金融資産3千万円+不動産3千万円+予定年金8千万円
   総合計 1億4千万円

  年金を資産とカウントすると、大変な額になりますよね。みなさんも是非ご自分の年金額を計算してみてください。
このうち厚生年金は、国のリスクを取っているのと同じなので「擬似国債」と呼び、アベチャン・リスクを大いに抱えることになります。

  ではその他の資産のリスクがいったアベチャン・リスクをどの程度抱えているのか見てみましょう。

  まずはタンスにある現金は除いて、銀行預金です。

  銀行預金は1千万円までペイオフリスクから守られているハズです。しかしこの「ハズ」に「ハズレ」はないのか、チェックを要します。

  銀行やゆうちょは日本国債をしこたま抱えているので、実はアベチャン・リスクがかなりあるのです。

  このところアベチャンの国債増発をリスクととらえた動きが出ています。どういうことかと申しますと、銀行と限らず金融機関が長期国債の保有リスクに目覚め、保有債券の平均残存年数の短期化を図っている、という動きです。専門用語では、「デュレーションの短期化」と言います。

  債券は償還までの残存年数が長いと、ちょっとした金利の上昇にも敏感に反応し、価格が下がります。簡単な例で見てみます。同じ金利クーポンのついた2つの国債を想定しましょう。かたや7年、かたや2年です。

7年物国債 クーポン金利1.3%
2年物国債 クーポン金利1.3%


  市場の7年物金利が1.3%であれば、この7年物国債の価格は100です。価格が100というのは、実は100%ということで、発行時に払ったり、償還時にもらえる「額面」と同じだということを意味します。

  ところが7年の市場金利がインフレ政策の奏功により3%に上昇したとしますとこの国債の価格は約90%に、つまり10%下落するのです。計算方法は債券計算でかなり複雑のため省略しますが、おおよその考え方は前著に示してあります。

<重要な注!>
みなさんの参考のために、実は日本の普通国債の24年3月末の平均残存年数は7年、クーポンの平均利率は1.24%です。上記の例に近い数値です。アベチャン・インフレによる市場金利の上昇がたった3%への上昇でも、日本国債全体の平均価格は10%も下落し、ほとんどの金融機関の資本を吹き飛ばす威力を発揮します。

 では2年物はどうか。2年物金利が3%に上昇しても価格の下落はわずか3.3%ほどに留まります。

  このシミュレーションはどの銀行もしています。もちろん生保もゆうちょもしています。

  国債の増発に最も懸念を抱いて保有国債などの短期化を早々と進めたのは三菱東京UFJです。アベチャンよりずっと前、一昨年くらいから保有国債の短期化を進め平均年数は2年を切っています。

  他の都銀なども徐々に短期化を進めているのですが、遅れている銀行もあります。そして問題なのは、彼らが売っているということは一方で長期債を買っている投資家もいる、という事実です。

  最近保有を増やした外人は、そんな危ない長期債は買っていません。

つづく
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