ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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でかした、アベチャン!

2013年01月12日 | ニュース・コメント

  昨年7月から始まった「初歩の投資教室」のシリーズも30回を超え、初歩といいながら途中からかなり難しい議論が入り始めてしまったようです。

  みなさんからコメント欄を通じて質問やご意見をいただき、それに答えていくうちにどうしても専門性が高くなってしまうということもあるのですが、きっと私自身がそうした議論が好きで、みなさんとのやりとりが楽しくてしょうがないからなんでしょう(笑)。

  もう一つは、「初歩の投資教室」と並行して折に触れて書いている「ニュース・コメント」が重なり合ってしまうことも、難しい議論になりがちな原因のひとつかもしれません。

  それにもめげずに、このスタイルをもうしばらく続けようと思っています。

  初歩の投資教室では「債券投資の基礎」について今後しばらく書いていきます。そして同時に、ニュース・コメントでは経済や相場に対する私の見方を、見通しが難しい中にもかかわらず、続けていくことにします。


  さて、昨年の選挙前11月14日に発表された安部ノミクスに対して、株式市場と為替市場は非常に好ましい反応を示し、株高と円安方向に大きく動いています。それぞれの相場を発表前(11月13日)と現時点(1月11日)で比較しますと、株式は23%高、円レートは11%安となりました。

       11月13日      1月11日
日経平均  8,661円     10,801円    25%高
円レート    79円       89円      13%安


  12年末から13年の年始にかけてアメリカの「財政の崖」問題がひと山越えたという外部要因を除く意味で12月28日の大納会で比較しても、株式は20%高、為替は9%安です。

  安部ノミクス発表後、11月25日に私は「日銀の国債引受とデフレの克服」というタイトルで批判的コメントを当ブログで書いています。内容は「はしゃぎすぎ」というもので、そのうち剥げ落ちる、というものでしたが、ここまでは剥げ落ちずに私の負けです。

  選挙での勝利後、安部ノミクスは少し変化を見せています。変化の方向は、選挙向けのアドバルーンより少しマイルドな方向への変化です。例えば2-3%と言っていたインフレターゲットは2%へ、日銀の建設国債直接購入は、なかったことに、という具合です。それでも相場はものともせずに上げ続けています。

  「でかした、アベチャン!」

  ここまでの株高・円安を誰も予想できませんでした。脱帽!

  もちろん、エコノミストというエコノミスト、為替のアナリストというアナリスト、誰一人としてこの相場を予想はしていませんでしたので、枕をそろえて討ち死にです。

  ファンダメンタルズが変化しない中、単なる口先介入だけでこれほど反応した相場を私は見たことがありません。一昔前に口先介入を含め一世を風靡した「ミスター円」もびっくりでしょう。

  
  では、「この相場を目の前にして私の安部ノミクスに対する批判的スタンスは変化したか?」ともうしますと、

相変わらず「全く変化していません」とお答えします。

  ファンダメンタルズの変化を伴っていない期待相場はいずれしぼまざるをえないと見ています。

  この相場が反転せずにアベチャンの思惑通りに「期待相場が実現相場にまでつながるか」といいますと、「そうはならないでしょう」。それは、相場の早さに、実態経済のスピードがついていけないからです。

  政策の効果を早く出すため、即効性のある公共事業中心にバラマキをしても、GDPに反映されるまでにはかなりのタイムラグがあります。1-3月期に必死でバラ撒いても、撒き切れるものではなく、効果が数値に出るのはよくて4-6月期です。安部政権も消費税値上げのため、その時期のGDP上昇を目途にしています。しかし今の相場はそれを先取りしつつあり、息が続かないというのが私の解釈です。

  さらに夏の参議院選挙までの時間を勘案すると、その前に相場は必ず反転してしまいます。すると相場に対抗して再度の財政措置を取るでしょう。今回と同様、昔の方法が取られます。それは、新年度に入ると年度の前半に予算執行を前倒しして、無理やりGDPを押し上げ、年度後半にカネが尽きるとマタゾロ補正を組む。そしてひたすら借金を増加させる、いつか来た道への逆戻りです。

  その昔、そうした無駄な抵抗を続けたのを、そろそろみなさん忘れかけているのかもしれませんね。みんながそれを思い出す頃、相場は大きく反転するでしょう。

つづく



  





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垣間見たベトナム

2013年01月06日 | ニュース・コメント

  昨年末に8日間、ベトナムを旅行しました。北部のハノイに3日間と中部のホイアンに5日間滞在しました。ベトナムは国全体がとても元気でした。人口構成はピラミッド型だし、若者は夢を持っています

  旅行の最中、ガイドやホテルマンのベトナム人の若者3人と、それぞれ別々に数時間に渡り話をすることができました。ほとんどの若者は親兄弟を大事にし、20代ですでに結婚していて、子供はできるだけたくさん持ちたい。将来は日本など海外へも出たいという希望を持っていました。


  今回の旅行は観光目的でしたが、大学の友人がハノイにいる後輩の駐在員との会合をアレンジしてくれました。その方は総合商社の代表駐在員で、ベトナムでの商売の全体を見る立場にいる方です。会社のメインの仕事は貿易よりインフラや資源への投資で、日本を含む様々な国籍の企業と国際コンソーシアムを組み、投資を行っています。みなさんへの参考になるかと思い、その方との話の内容を一問一答の形で、紹介させていただきます。

1. チャイナプラスワンはワークしているか

  (中国の人件費高騰や、政治的リスクをヘッジするために中国以外の国にも進出しておく、という考え方を「チャイナプラスワン」と言います。)
  それを目的にベトナムに進出している日本企業は大変多い。最近はベトナムの人件費も高くなりつつあり、人件費だけを考えるなら、さらにミャンマーやバングラデッシュに行く企業も出てきている。アパレル企業はその典型で、縫製のみをベトナムで行い日本に輸出しているが、すでに次の展開を進めている。

2.技術力を持つ日本の製造業の現地生産はベトナムの発展に貢献しているか


  家電・バイクなどの加工業も大変多く進出している。しかし主要部品のほとんどは日本などから輸入し、完成品を組み立てるだけ。工業団地などに多くの日本企業の工場があるが、バイクや家電工場内ではラインを流れる製品をロボットが組立てをしているという風景はなく、ひたすら人が手で組み立てをしている。部品を輸入しているため、現地の部品産業の裾野が拡がらない。

3. インフラはどうか

  恒常的に電力や輸送力は不足しているため、どうしても制約を受ける。むしろ当社はインフラ作りと資源開発を商売のネタにしている。石炭と石油を産出する資源国のため、潜在力はある。本格開発はこれからだろう。

4. 対日感情はどうか

  極めて良いし、日本は尊敬されている。ODA(経済援助)は、日本が断トツで一番。かつてマレーシアがそうであった様な欧米に頼らない、ルック・イースト的なところがある。隣国中国に対しては、国も国民も反感をいだいており、中国企業の進出はあまりない。その分、日本を信頼し頼りにしている。日本ではベトナムの親日感情が十分に理解されていない。

5. 経済の潜在力はどうか


  9千万の人口は増えていて若年人口は多いし、農業人口が依然として半分いるので労働力は十分にある。一人当たりの国民所得はまだ1,300ドル程度で、本格的テイクオフはこれからだ。しかし、今後の発展モデルが見出せていない。その辺りを指導して行くのも日本の役割だと思っている。

6. 投資のリスクは

  社会主義のため、政治的リスクがないとはいえないが、今は大きなリスクは感じていない。投資の規制は様々あるが、利益は持ち帰ることも可能。賄賂を使うことなく、商売ができている。インフレは、11年は二桁だったが、12年は一桁に収まっているので、大きなリスクではなくなりつつある。国際収支の赤字が多くなり為替レートが安くなるとインフレを起こす。そのたびに金融を引き締めざるをえない。それは今後もありうると見ている。ちなみに1円は240ドン程度で、レストランで食事しても100万ドン単位で支払うことになる。

7. ASEANは順調に経済統合に向かって動いているのか

  着実に進んでいる。ASEANのおかげで隣国との武力紛争はほとんどなくなっている。15年には域内の輸出入はかなり自由化される予定だし、18年には域内の関税が撤廃される。その時には各国の経済格差が、欧州のように問題になるだろう。ベトナムはタイなどと比較すると、かなり遅れている。

8. 国民と政府の関係は


  政府を信用している人はいない。通貨も銀行も信用していない。給料が出ればすぐ銀行から引き出し、余分なお金はゴールドにするのが一般的。退蔵ゴールドは1千トンと言われている。選挙はするが、選挙結果を国民は信用していない。歴史的に常に海外から侵略を受けていたので、国民は自衛意識が強い。越僑として海外へも出るし、家族の一部を海外に置いたりして国のリスクをヘッジしている。本当の大金持ちちはほとんどいない。ベトナム戦争中にボートで逃げた。アメリカから、戻る動きも一部あるが、本格化してはいない。国有企業が経済の多くを占めているが、官僚が腐敗し私腹を肥やすことはあまりない。それが大金持ちのいない理由でもある。


  私の直感的な感想としては、ベトナムの潜在力は大きいと思いました。

  中国との関係が悪かったおかげで中国に頼ることなく、社会主義体制をとりながらも独自に経済を発展させています。それは80年代後半からの自由化政策、「ドイモイ」が奏功したからで、海外から投資を呼び込んだことが基礎となりました。そして今後の統合へ向けたASEANの動きは、メンバーであるベトナムの将来の発展を支えて行くものと思われます。
コメント (6)
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明けまして、おめでとうございます

2013年01月03日 | ニュース・コメント
  みなさん、明けまして、おめでとうございます。

  昨年このブログはみなさんのお蔭で累計のアクセス数が20万件に迫りました。goo blogのランキングでも180万件ある中で一昨年は1万位台だったものが、昨年は5千位台くらいまで順位を上げています。

  こうしたランクを私はあまり気にしていないのですが、1ケタ違うところに達するとさすがに「一層中身を濃くし、磨きをかけよう」と思うようになりました。ランキングは、努力することへのインセンティブになるのだと気付きました。

  「私のブログは私が一人で作っているものではなく、コメント欄を通じたみなさんとのやりとりが作っているのだ」と思っています。それがこのブログの生命線です。私はみなさんからコメントをいただくと、ついつい頑張ります(笑)。みなさんも是非コメントを通じたやり取りで今後もご支援をお願いいたします。


  昨年末はベトナムに旅行していました。ベトナムはとても元気でした。そのお話は次回させていただきます。

  さて、年末年始は株高・円安に加えて、アメリカの財政の崖問題がニュースを賑わせていました。すでに外債投資をされた方は、円安大歓迎。これから投資をお考えの方は「円安スイッチ、はいっちゃったのかな?」というななしさんからのコメントが本格的に気になるレベルに達していることと思います。

  米国財政の崖問題は、もつれながらも断崖に落下することなく無事にヤマを越えました。もちろん今後もすぐまた崖が迫ることになるのですが、どうぞご安心を。米国発の危機など起こりませんので。

  米国株式相場を見ると、過去の学習効果が見てとれます。11年8月のデフォルト騒ぎの時と今回の崖騒ぎを較べると、株式の変動幅は約3分の1程度に低下しました。11年8月、株式相場が暴落をくりかえしている最中に私は「議会が合意に失敗してデフォルトが起こっても、それはスリップダウンでたいしたことはない」と申し上げました。株式相場は大荒れだったのに、当の米国債市場は微動だにしませんでした。今回も同様です。米国債相場そのものも、また米国債CDS相場もピクリともしていません。

  さて、気になるのは為替です。年末の旅行前に、「米国債の金利」「円ドル為替レート」について私のレベル感をみなさんにお伝えしました。私の見方はとても長いレンジで見ているので、いまかいまかと投資タイミングを計っている方にはのんびりし過ぎに思えるかもしれません。

  例えば円ドルレートについては、「2015年プラスマイナス1・2年が大きなターニング・ポイントになる」と何度か申し上げていました。それからすると12年末のこのタイミングでの円安は、まだちょっと早い、ということになります。

「1ドルが87円に達した今でもそう考えているの?」という質問に、私は

「はい、依然そう考えています」とお答えします。

  11月14日の安部発言の前後から円安に向かい始めた原因は、安部政策と日銀政策が成功することを見越した投機的な動きです。ファンダメンタルズを見ると劇的な変化が起こっているわけではありません。

  しかし、「投機筋の円売りポジションは、この円安を利用して手仕舞に向かうだろう」と思っていた私の見通しはまだそうなっていません。そのままポジションがキープされさらなる円安に向かうか、手仕舞いで円高に戻るか、結果まだ出ないようです。

  私は、投機筋の円売りポジションをはるかに凌駕するほど日本の投資家がこぞって円安に賭ける、という事態に至らない限り、ポジションの巻き戻しにより円高に戻る、と見ています。つまりは依然として、本格的に円安のスイッチが入るまでには至らない、と見ています。

  もっともいったん87円までの円安を見た後、70円台に戻るかといいますと、チャンスをうかがう投資家が待ち受けるため、簡単ではないと見ておく必要があるかもしれません。

  為替を見通すのに一方の当事者の都合だけ見ていたのでは不足です。他方の米国もしっかり見ておく必要があります。

  みなさんもこのところのアメリカ経済に対するエコノミストやマスコミの見方が悲観から楽観へ大きく変化しつつあることに気づかれていらっしゃると思います。

私がこのブログでも著書でも繰り返し述べていたように、彼らはアメリカ経済の分析を間違えていました。

  私が著書で言っていたのは、

① リーマンショックの本質はサブプライムという限定されたバブルの崩壊にすぎない
② アメリカに失われた10年など来ない


そしてこの1年言っていたのは、

③ 住宅建設はすでに回復
④ 製造業もアメリカへ回帰しつつある
⑤ 資源大国への道を歩む


  どうやらこうした見方が正しかったことが明らかになってきています。そしてそれは長期的にはドル高への大きなサポート材料です。

今回はここまでです。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

つづく


コメント (1)
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