昨年末に8日間、ベトナムを旅行しました。北部のハノイに3日間と中部のホイアンに5日間滞在しました。ベトナムは国全体がとても元気でした。人口構成はピラミッド型だし、若者は夢を持っています。
旅行の最中、ガイドやホテルマンのベトナム人の若者3人と、それぞれ別々に数時間に渡り話をすることができました。ほとんどの若者は親兄弟を大事にし、20代ですでに結婚していて、子供はできるだけたくさん持ちたい。将来は日本など海外へも出たいという希望を持っていました。
今回の旅行は観光目的でしたが、大学の友人がハノイにいる後輩の駐在員との会合をアレンジしてくれました。その方は総合商社の代表駐在員で、ベトナムでの商売の全体を見る立場にいる方です。会社のメインの仕事は貿易よりインフラや資源への投資で、日本を含む様々な国籍の企業と国際コンソーシアムを組み、投資を行っています。みなさんへの参考になるかと思い、その方との話の内容を一問一答の形で、紹介させていただきます。
1. チャイナプラスワンはワークしているか
(中国の人件費高騰や、政治的リスクをヘッジするために中国以外の国にも進出しておく、という考え方を「チャイナプラスワン」と言います。)
それを目的にベトナムに進出している日本企業は大変多い。最近はベトナムの人件費も高くなりつつあり、人件費だけを考えるなら、さらにミャンマーやバングラデッシュに行く企業も出てきている。アパレル企業はその典型で、縫製のみをベトナムで行い日本に輸出しているが、すでに次の展開を進めている。
2.技術力を持つ日本の製造業の現地生産はベトナムの発展に貢献しているか
家電・バイクなどの加工業も大変多く進出している。しかし主要部品のほとんどは日本などから輸入し、完成品を組み立てるだけ。工業団地などに多くの日本企業の工場があるが、バイクや家電工場内ではラインを流れる製品をロボットが組立てをしているという風景はなく、ひたすら人が手で組み立てをしている。部品を輸入しているため、現地の部品産業の裾野が拡がらない。
3. インフラはどうか
恒常的に電力や輸送力は不足しているため、どうしても制約を受ける。むしろ当社はインフラ作りと資源開発を商売のネタにしている。石炭と石油を産出する資源国のため、潜在力はある。本格開発はこれからだろう。
4. 対日感情はどうか
極めて良いし、日本は尊敬されている。ODA(経済援助)は、日本が断トツで一番。かつてマレーシアがそうであった様な欧米に頼らない、ルック・イースト的なところがある。隣国中国に対しては、国も国民も反感をいだいており、中国企業の進出はあまりない。その分、日本を信頼し頼りにしている。日本ではベトナムの親日感情が十分に理解されていない。
5. 経済の潜在力はどうか
9千万の人口は増えていて若年人口は多いし、農業人口が依然として半分いるので労働力は十分にある。一人当たりの国民所得はまだ1,300ドル程度で、本格的テイクオフはこれからだ。しかし、今後の発展モデルが見出せていない。その辺りを指導して行くのも日本の役割だと思っている。
6. 投資のリスクは
社会主義のため、政治的リスクがないとはいえないが、今は大きなリスクは感じていない。投資の規制は様々あるが、利益は持ち帰ることも可能。賄賂を使うことなく、商売ができている。インフレは、11年は二桁だったが、12年は一桁に収まっているので、大きなリスクではなくなりつつある。国際収支の赤字が多くなり為替レートが安くなるとインフレを起こす。そのたびに金融を引き締めざるをえない。それは今後もありうると見ている。ちなみに1円は240ドン程度で、レストランで食事しても100万ドン単位で支払うことになる。
7. ASEANは順調に経済統合に向かって動いているのか
着実に進んでいる。ASEANのおかげで隣国との武力紛争はほとんどなくなっている。15年には域内の輸出入はかなり自由化される予定だし、18年には域内の関税が撤廃される。その時には各国の経済格差が、欧州のように問題になるだろう。ベトナムはタイなどと比較すると、かなり遅れている。
8. 国民と政府の関係は
政府を信用している人はいない。通貨も銀行も信用していない。給料が出ればすぐ銀行から引き出し、余分なお金はゴールドにするのが一般的。退蔵ゴールドは1千トンと言われている。選挙はするが、選挙結果を国民は信用していない。歴史的に常に海外から侵略を受けていたので、国民は自衛意識が強い。越僑として海外へも出るし、家族の一部を海外に置いたりして国のリスクをヘッジしている。本当の大金持ちちはほとんどいない。ベトナム戦争中にボートで逃げた。アメリカから、戻る動きも一部あるが、本格化してはいない。国有企業が経済の多くを占めているが、官僚が腐敗し私腹を肥やすことはあまりない。それが大金持ちのいない理由でもある。
私の直感的な感想としては、ベトナムの潜在力は大きいと思いました。
中国との関係が悪かったおかげで中国に頼ることなく、社会主義体制をとりながらも独自に経済を発展させています。それは80年代後半からの自由化政策、「ドイモイ」が奏功したからで、海外から投資を呼び込んだことが基礎となりました。そして今後の統合へ向けたASEANの動きは、メンバーであるベトナムの将来の発展を支えて行くものと思われます。