標題に掲げたこの言葉、みなさんはご存知でしょうか。口汚い言葉ですが、けっこう有名な言葉なんです。
「問題はな経済なんだよ、アホ」
1992年の大統領選挙の最中に、湾岸戦争勝利などで優位に立つパパ・ブッシュに対し、劣勢に立つクリントン夫候補が選挙戦で使った言葉です。大事なことは外交や戦争での勝利なんかではなく国内経済の立て直しだという言葉を、選挙戦の相手候補である大統領に投げるとともに、全国民にアピールしたのです。そしてこの言葉がクリントンに勝利をもたらしたと言われています。
この言葉、私はアベチャンに対して使いたいと思い、標題に掲げました。今年に入ってから経済問題に手詰まったアベチャンは安全保障問題に国民の目を向かせ、マイナス成長に陥った経済から目を逸らさせようとしています。ところが彼の政治生命そのものである安保問題でも、「集団的自衛権の行使を認める立法は違憲だと言わざるを得ない」と憲法学者のほとんどから、元法制局長官から、そしてダメ押しは元最高裁長官から断言されました。その結果国会では連日防衛大臣がしどろもどろの答弁を繰り返すに至っています。そして今一つは自衛隊の重要極秘文書のリークです。これはとりもなおさず自衛隊内部にも今回の集団的自衛権には強烈な批判者がいることを示しています。
再三申し上げますが、私は決して非武装中立論者ではなく、極めて中道的な考え方の人間です。しかし憲法違反は絶対にいけない。内閣と言う「行政」を預かる機構が憲法解釈などしては絶対にいけない。それは最高裁=司法の守備範囲です。それこそ今はやりのガバナンスの基本中の基本です。アベノミクスの企業ガバナンス重視など、聞いてあきれるのみです。
私は三権分立の確立した法治国家に暮していたい。だからこそ、
アベチャン「経済だよ、経済!」
姿さえ見えない第3の矢=成長戦略、ブタ積みしかできないクロちゃんの日銀。国民はすでにアベノミクスの煙になど巻かれません。所得がまともに上がらないなかでの物価上昇は不幸の連鎖でしかないことに、やっと多くの国民が気づいたようです。
ここへきて株式市場が大きく下げています。株さえ上がっていれば、なんとかゴマカシも効いていたのですが、それも崩れ始めています。遂に買い本尊である海外投資家が本格的にアベノミクスを見限り始め、日本経済の成長期待も消えかけています。株安の言い訳として中国問題が・・・とか、FRBの利上げが・・・とか、世界同時株安だから・・・とか言われても、「日本株だけは違う」と思っていた投資家も遂に「日本株よ、おまえもか」になってしまったのです。
私の勝手な解説だけでなく、9月4日付のロイターの記事が数字を基にそのことをよくまとめて伝えていますので、それを引用します。
引用
2015年の海外勢の日本株売買が売り越しに転じた。年初から8月第1週までに現物株と先物合計で約3.4兆円買い越していたが、8月第2~4週で計3兆6850億円の売り越し。特に第4週は1兆8830億円と2008年8月からのデータで最大の売り越しとなった。
中略
米バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチによると、8月26日までの1週間に、世界の株式ファンドから02年の調査開始以来、最大となる295億ドル(約3.5兆円)が流出した。その過去最大規模の「大波」の中で、日本株のポジションも縮小されたわけだが、注目されるのは、売りの主体がヘッジファンドやCTA(商品投資顧問業者)など短期筋だけでなかったことだ。長期資金の海外投資家も、日本株を売り始めている可能性が大きい。
引用終わり
今年の日本株はNY市場や欧州市場がさほど上げていない中、先進国では突出して買われていました。もちろんその主体は海外投資家で、買い越しが積もり積もって8月第一週までに3.6兆円にも達していたのです。その買い越しがたった3週間ですべて帳消しになってしまい、株価も世界の他国並みのレベルに沈んだのです。
海外勢の売りに立ち向かったのは日本の個人投資家と年金・日銀などの公的資金です。個人投資家はいつ売り手側になるかもしれない投資家ですが、公的資金は違います。特に日銀は今年一年で3兆円買うと宣言していますし、絶対に売らない確かな投資家です。公的年金資金もしかりで、昨年後半から株式に大きくシフトしました。それをもってしても3週間で3.7兆円の海外投資家の売りには対抗不可能でした。中国株式のコメントで申し上げたように、公的資金で株式市場を動かすことなど、絶対に不可能です。
さて、この1ヶ月の世界的株式市場の動揺ですが、ここから得られる教訓は何でしょうか。それは、
「どんな優秀なエコノミストであろうが株のストラテジストであろうが、あれだけわかっていた中国経済の不調、中国株式の暴落を見ていても、世界の株式市場の暴落を予想はできなかった」
という事実です。
このブログに集まっていただいているみなさんには再三申し上げますが、世界の金融市場は実に様々な要因で動かされます。そしてわかりきっている経済事象ですら株式市場は大きく動揺を来すのです。激しさを増す異常気象や地政学上のリスクなど、経済と関係のない事象を含めすべての要因の振幅=ボラティリティが非常に高くなっているということです。みなさんも肝に銘じておきましょう。
そしてあべちゃんには最後にもう一度、
It’s the economy, stupid!
一つ質問させてください。林さんにお伺いするのは筋違いなのかもしれませんが。
よくなにかあって円が上がると「安全資産である円への逃避。」という解釈が日経紙上に出てきます。「円のどこが安全なのか?」と思っている人には、なんとも納得できかねる解釈です。要するに後講釈ですが、それが説得力を持たない。相場は別の理屈で動いているとしか思えないわけです。
では、今回の世界の様々な市場での大混乱が、中国というタームで説明されているわけですが、それは果たして後講釈として、的を得たものなのでしょうか?
>今回の世界の様々な市場での大混乱が、中国というタームで説明されているわけですが、それは果たして後講釈として、的を得たものなのでしょうか?
ご質問の意味がイマイチよくわかりません。「後講釈」ではなく、以下のように単なる「解説」であれば、私の答えは「はい、かなりの程度的を射たものです」と回答させていただきます。すべてはなく、かなりの程度と言う意味はFRBの利上げ懸念もあるからです。
「今回の世界の様々な市場での大混乱が、中国というタームで説明されているわけですが、それは果たして解説として、的を得たものなのでしょうか?」
私の個人的な解釈なのですが、安全通貨の円、
安全資産の日本国債とかいう言葉は、たぶん
数ヶ月先程度の安全性や流動性の高さを指すのではと解釈してます。
確かにその程度の長さなら安全という表現は間違いではないでしょう。
その程度の長さで安全でないなら世の中もっと騒然としています。
たぶんギリシャみたいな状態なのでは?
しかし、それが将来的な安全を意味してるわけではないと思います。
むしろ日本の安全性には財政問題や経済成長性、労働人口減少、
国力の低下が確実な要素が大きい。将来的な視点では懸念材料が相当に目立ちます。
エコノミストやアナリストなどの解説者やマスコミは
どういう視点での安全かを説明はしないから誤解が
生まれるのだと思います。
悪い言い方をすると今日明日死ぬかという観点では
心配する必要はないが、病気が治って助かる見込みは殆ど無い。
それが安全通貨の円、安全資産の日本国債という意味だと思っています。