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激変の兆し by ウッドワード

2018年11月20日 | ニュース・コメント

  初めに一言日産に触れます。日産問題はカルロス・ゴーンの悪事を暴く構図ですが、私に言わせれば日産も同罪です。何故なら彼に給与を払ったのは日産で、世界の各地に家を買ったのも日産。両方で100億円も出していたのを知らんとは言わせません。もちろん日産の罪状報告に書いてある有価証券報告書への記載もゴーンではなく財務部がやっています。それを10年もそのまま放置した責任を株主は会社に問うべきです。いくら彼に権力が集中しようが、企業としてのコンプライアンスやガバナンスは全く別問題です。しかし、毎年毎年数十億円単位の収入を得ながら、なんというセコイ男でしょう。あきれてものが言えません。

 

  さてアメリカです。メディア対トランプ、勝者はメディアでした。めでたしめでたし。

  今回の勝利者はCNNだけでなく、全米のメディアでした。というのも訴え出たCNNに、ほぼすべての大手メディアが結束して賛同の意を表したからです。特に驚いたのはトランプ支持を掲げてはばからないFOXニュースもCNNに支持を表明したのです。「FOXニュースよ、お前もか」とトランプは嘆いたに違いありません。

  地裁の仮処分はCNNの勝と出ましたが、それに対するトランプの捨て台詞は「もう記者会見なんかやるもんか(怒)」でした(笑)。さらにホワイトハウスは記者会見のやり方に新たにルールを打ち出しました。記者の質問を一人一つにするという制限で、実質的にはもっとひどい言論の自由への挑戦です。

  一方、18日の日経朝刊に著名なジャーナリストであるボブ・ウッドワード氏へのインタビュー記事が掲載されていました。今回はそれに関してコメントします。

  ウッドワード氏はホワイトハウスの現状を書いた本、原題“FEAR”、邦題「恐怖の男」の著者で、ニクソンを辞任に追い込んだ男としても有名です。日経のインタビューはもちろんトランプ政権についてですが、目を引いた内容を簡単にお知らせしますと、

・トランプの権力行手段は本の題名になった「恐怖」だ

一般報道ではトランプ政治の手法は「ディール」だと言っていますが、私はこのウッドワード氏の「恐怖」という言葉のほうがトランプのやり口の本質を突いていると思います。これまで彼がディールで突き付けたのは実は恐怖でした。例えば対北朝鮮では「いままで誰も見たことのないような火の海にしてやる」だったし、現在進行中のボリビア難民に対しては、「もし投石したら、銃弾を浴びせてやる」と脅しています。対中国も脅し文句で相手を痛めつけ交渉のテーブルに引きずり出されました。

  こうしたやり口は私から見るとISの支配方法と重なって見えます。まず首切り処刑を見せつけて人々に恐怖心を起こさせ、絶対服従を誓わせる。世界はこの男の「恐怖」に頼るやり口に屈してはいけないと思います。

ホワイトハウスはカジノと化した

トランプの政策判断はなんの根拠もないカジノでの賭けをやっているのと同然のことばかりだというのです。

例えば対中貿易のことをウッドワード氏は「貿易赤字で米国がお金を失うというのは明らかな間違いだ。安く品質の良いものが買えれば、他の消費にお金を回せる。それでも制裁に突き進む。貿易戦争は経済学博士の中国に幼稚園児が挑んでいる構図だ」と述べています。全くその通りです。マティス国防長官がトランプを「小学生並みの頭しかない」と言っているのと同じです。ちなみに国防長官も「いなくなるリスト」の筆頭です。

・激変への前兆あり。人々は現在と未来に不安を抱き始めた。経済は好調だが企業や富裕層の減税と言う「甘いもので子供が元気づく」たぐいだ。

このボブ・ウッドワードの言葉は中間選挙の結果も受けたもので、それも含め激変の前兆を見ています。

一方、株式相場などの様子を見ていると、私は「経済は好調だ」と言っていられなくなるのではないかと思っています。それも一番の原因は天に唾するトランプの保護主義が、自分の顔に落ちてきているからで、自業自得です。中国のスローダウンが世界経済の現在と来年のテーマとなっています。

  さらに最近のアメリカ経済にはあきらかに変調の兆しがあります。象徴的には原油価格と株式相場です。原油価格は中東イランを巡る地政学的リスクにもかかわらず、代表的指標のWTIは10月初めのピーク76ドルが昨日は56ドルと26%も急落。経済のスローダウンを予想しています。株式はダウ平均は10月のピークから7%ほどの下落ですが、アップルの株価がアイフォンの売れ行き不振により10月初めのピーク232ドルから20%も急落し昨日11月19日は186ドルになりました。それにつられて半導体などIT産業全般が売り込まれ、半導体代表銘柄のエヌビデアはなんと半値に下落しています。また製造業の先行きを占う指標に黄色信号がともっています。ISM製造業景況指数が8月に61.3でピークを打ち、9月59.8、10月57.7と落ち始めています。

  逆に強い雇用に裏付けされた消費者動向は依然として堅調で、消費者信頼感指数は9月に18年ぶりの高い値を記録しました。そして11月23日、感謝祭後の金曜日は、小売店が黒字になることでその名がつけられているブラックフライデーですが、それをスタートに年末商戦は好調が予想されています。消費者関連は景気に対して遅行指標、製造業関連や株式・商品相場は先行指標であることに注意しましょう。

  ウッドワード氏の警鐘は財政問題には直接触れていませんが、「激変の前兆あり」の中に財政問題が含まれると私は見ています。減税の甘いアメ玉に飛びついていると、必ず痛い目に遭います。経済が絶好調なのに実は今年の税収は減っているからです。トランプ減税策の目論見は、「減税による消費や投資の刺激は税収に対してプラスで跳ね返る」でしたが、これまでは全く逆になっています。その上経済全体が変調をきたすと、財政問題が大きく浮上してくるでしょう。

  そしてもう一つの懸念は世界貿易の動向です。特に世界貿易の6割を占める国々の集まりであるAPECでは共同声明が出せない異常事態が起こりましたが、一番の話題は保護主義対自由貿易の争いでした。自由の国アメリカが保護主義を主張し、不自由の国中国が自由貿易を主張するという倒錯の世界が出現しました。カジノと化したホワイトハウスに振り回される世界経済には不安の影が落ち始めました。

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11 コメント

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少し前倒しで (陽子)
2018-11-20 14:22:12
林先生

いつもありがとうございます。
具体的な数字を上げて説明して下さるので、わかりやすいです。

アメリカの経済はまだまだ大丈夫!と思っていましたが、ここへ来てなんだか不穏な空気ですね。。。

償還まで20年以上の長期債も思いきって前倒しで買っていこうと思います。
返信する
米国債への投資について (初心者A)
2018-11-23 09:24:18
林様
先日は貴重なご意見を頂き、ありがとうございました。
少額ながら、少しづつ利付債を買い始めました。ドルへの換金も定期的に進めています。

このブログを初めから読むのは大変ですが、読み漁っております。

その中で、米国債ETFの話題もありました。NISA口座を使った購入もありかな、と思っています。

ところで、米国の強さは、人口増加、新技術開発力、GDPも桁違い、軍事力とお金が集まる国、という感じは、私もやっと理解してきました。
米国債の安定性の裏付けとなる要素です。

この米国の底力の根源は何なのでしょうか?
トランプの暴走があって、一時的な変動はありそうですが、強さは変わらず維持されそうです。
今後もこのまま、世界の構図は変わらないのでしょうか。
ご意見を時間がある時にお聞きしたく、宜しくお願い致します。
返信する
陽子さんへ (林 敬一)
2018-11-26 08:44:08
いつもブログをおよみいただき、ありがとうございます。

>アメリカの経済はまだまだ大丈夫!と思っていましたが、ここへ来てなんだか不穏な空気ですね。。。

さまざまな経済指標のなかでも、いわゆる将来を指し示す先行的な指標に陰りが見え始めているで、一方的に成長継続とはいかないと思います。

ただ日本との決定的違いは、すでに何回も利上げをしているので、いざとなったら何回も利下げで景気を刺激できるところです。

長期債への投資ですが、金利が下がりつつあるので、短期的にみると最初の一歩は早めに、その後はじっくりと進めることがおすすめです。
返信する
初心者Aさんへ (林 敬一)
2018-11-26 08:50:29

>この米国の底力の根源は何なのでしょうか?
トランプの暴走があって、一時的な変動はありそうですが、強さは変わらず維持されそうです。
今後もこのまま、世界の構図は変わらないのでしょうか。

基本的に変わらないと思います。
折角ご質問をいただいたので、このあたりは機会を見つけてじっくりと解説しますね。

しばしお待ちを。

返信する
Unknown (Unknown)
2018-11-26 09:37:08
(引用)
基本的に変わらないと思います。
折角ご質問をいただいたので、このあたりは機会を見つけてじっくりと解説しますね。

ありがとうございます。
公私共に、お忙しいとはおもいますので、お時間がある時で結構なのでお願い致します。
米国の今後の優位について、構造的に裏付けがあるとすれば、とても安心できます。
相対的な比較によって、米国債権投資の有位はよくわかりました。
返信する
米国債への投資について (初心者A)
2018-11-26 10:43:17
(引用)
基本的に変わらないと思います。
折角ご質問をいただいたので、このあたりは機会を見つけてじっくりと解説しますね。

ありがとうございます。
公私共に、お忙しいとはおもいますので、お時間がある時で結構なのでお願い致します。
米国の今後の優位について、構造的に裏付けがあるとすれば、とても安心できます。
相対的な比較によって、米国債権投資の有位はよくわかりました。
返信する
初心者Aさんへ (林 敬一)
2018-11-26 11:47:56
すみません、名無しの回答者は林敬一でした。
返信する
じっくりと (陽子)
2018-11-26 19:43:46
林先生

お返事ありがとうございます。
この記事を見て、ドカンと多めに買ってしまった方がいいのかなぁと、その割合を考えておりました。

>長期債への投資ですが、金利が下がりつつあるので、短期的にみると最初の一歩は早めに、その後はじっくりと進めることがおすすめです。
とのこと。

長年債券市場を見てこられた先生の感覚、一番頼りになります!
もうそろそろだよとか、急いだ方がいいよ、など、今後も教えて下さい。
勿論、投資は自己責任で行いますので。

冷静に考えたら、こんな金利で20年物が終わってしまうとは思えないですね。

とは言っても相場は先がわからない。
第2弾として、22日に利付債を購入しておきました。’43年物が大和に最近入ったのです。クーポンが2.875%と丁度いい感じです。

買ってから、救われた投資家さんの気持ちがよくよくわかりました。
クーポン付もいいものですね。

今後も、先生が仰る通りに、どっしりと構えて時間分散して投入していきます。


皆さま

こんなサイトを見つけましたよ!

米国債利回り(2年・10年・30年)の推移
https://stock-marketdata.com/us-treasury-sevurity.html
今年の初めからの分を、グラフと表で見れます。
利回り差も表にしてあります。
参考にして下さい。
返信する
債券王ガンドラック氏、米長期金利「21年までに6%」 (早期退職希望者)
2018-11-29 22:13:08
林先生

お世話になっております。
昨日の日経に下記記事がありました。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO3828510028112018EE9000/

現在3%台で推移する米長期金利が6%に
なるのなら待とうか、という気になりますが
林先生のご見解はいかがでしょうか?
何卒よろしくお願い申し上げます。
返信する
陽子さんへ (林 敬一)
2018-12-01 10:57:34
ご報告、ありがとうございます。

着々と進んでいるようですね。

それとお役立ち情報もありがとうございました。
返信する

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