アメリカの中間選挙が終わったとたん、ドナルドダック・トランプがメディアに吠え、噛みつきました。独裁者の定義でたびたび申し上げている言論統制を地で行っています。それに対しCNNが大統領による記者証の取り上げは報道の自由の侵害だとして、大統領とサンダース報道官らを地裁に提訴しました。どう決着するかみものです。
一方、ドナルド・ダック劇場が始まるというのに、「そして誰もいなくなった」劇場も続いています。先週の選挙後すぐにセッションズ司法長官を更迭し、すでに次にはケリー大統領首席補佐官を更迭すると報道され、さらに夫人のメラニアが国家安全保障副補佐官と衝突し、更迭しろと言っているとも報道されています。CNNなどはそれを「ロイヤルファミリーによる前代未聞の異常事態だ」と言っています。
すでにトランプはほとんどの閣僚・補佐官を一度は首にしていて、ケリーは2人目の首席補佐官ですので、誰もいなくなったは2周目に突入するようです。
さて、前回私は選挙後のコメントとして、「世論調査は正しかった」と指摘しました。中間選挙はいまだ僅差の選挙区があって最終結果が出ていないのですが、注目すべき選挙総括が意外な人から出てきましたので、それを紹介します。
その人とは、日本のテレビではお笑い系タレントとして大活躍している「パックン」こと、パトリック・ハーラン氏です。さすがハーバード大卒だけあって、最近は真面目なニュース番組のコメンテーターを私が知る限り2つ務めています。
今回はそのうちの一つ、テレビ東京の朝のニュース、モーニングサテライトでのコメントです。中間選挙中にアメリカを取材して回り、今週はその総括をしていました。彼は民主党支持者なので、それを頭に入れてお読みください。
彼の総括のポイントは主に3つ、
1. 上院は共和党が勝ったとされているが、実はそうでもない
その理由は、上院選挙の得票率は民主党が共和党を8ポイントも上回っている。そして共和党対民主党の獲得票数は1,300万票も民主党が上回った。
上院議席数の負けは、州により1票の格差があまりにもひどいためで、それは選挙制度の欠陥である。最大の格差は人口の少ないワイオミング州と人口の多いカリフォルニア州で、なんと1票の格差は60倍もあるが、共和党がワイオミングで勝っても、カリフォルニアで60倍の票数で勝った民主党と同じ1議席を得ることができた。
2.下院選挙では、選挙民をデモグラフィー別に見た場合、白人男性以外のすべてのカテゴリーで民主党が勝っている
女性・黒人・ヒスパニック・LGBTなどのすべてのカテゴリーで民主党の得票率が勝った。大統領選とは違い、こうした人々が立ち上がり、いつもの中間選挙と違い投票率向上につながった。
3. 次の大統領選挙に向けて大事なヒントは州知事選の結果で得られるが、民主党有利を示している
州知事選は大統領選と同じように州別の戦いが結果に反映する。このため大事なスイング州、つまり民主と共和で支持が行ったり来たりする州が大事になるが、そうした州で今回は民主党のほうが多く勝っている。たとえば、イリノイ・ミシガン・ウィスコンシン・カンザスなど、ラストベルトも含む州だ。
従って、「統計的に冷静に見ると、上下両院とも得票数で上回る民主党に軍配が上がり、それが次の大統領選挙を占うヒントになる」。
以上、パックンの選挙結果分析は統計数字をきちんと把握した実に説得力のある分析でした。
ここからは別の側面から、私のコメントを入れることにします。今回の選挙で見えた今後の世界を見る上で重要ポイントは、
1.「分断」の世界同時多発的発生
今回の選挙は「アメリカの分断を煽った」と言われ、その張本人が大統領であることをメディアは指摘しています。分断くらいならいつでもどこでもあるのですが、私はそれがアメリカだけでなく、世界同時多発的に広がっていることがより深刻な問題だと思うのです。ドイツしかり、イギリスしかり、イタリアしかり。これについては、また別途書きたいと思っています。
2. 反メディア行動が及ぼす負の影響
大統領がトランプになってもう一つの大きな変化は、トランプの反メディア行動だと思っています。
反メディア行動とは単に既存のメディアをフェイクニュースだと非難したり、CNNの記者を出入り禁止にしたりするだけでなく、「メディアのスキップ現象」を起こし、それが負の影響を起こしていることです。
一般的にネット社会は中間業者をスキップします。例えば旅行業界では旅行者が直接航空会社やホテル・旅館に直接アクセスして予約を取るため、昔ながらの旅行代理店がスキップされ商売が成り立たなくなっています。
トランプは世界の指導者に先駆けてツイッターを駆使し、支持者だけでなく全世界に直接呼びかけをしています。日本では彼のツイートをフォローする人はメディア関連を除けば非常に少数でしょうが、世界は違います。英語を理解する人は誰でも彼の機関銃のようなツイートを毎日・毎時フォローすることができます。それが1.で述べた分断の世界的拡散に大きく貢献していると思うのです。
中間業者の存在は、実は情報に対するスクリーニングですので、ウソや単なるウワサをかなりの程度排除できるのですが、トランプのツイッター発言はメディアによるスクリーニングを受けないため、半分以上がウソであっても盲目的支持者はすべてを信じます。
例えば2・3日前の演説でトランプは、日本が自動車の輸入で不正を働いていると非難しました。「日本はアメリカ車の輸入を制限し、高い関税を掛けている」と言いましたが、日本はアメリカ車の輸入制限もしていないし、関税もかけていません。売れないのはあの反地球的サイズの車など、日本では「無用の長物」だからです。
これをメディアが報道するときには、「この大統領発言は間違っている」と注釈が付くでしょうが、直接ツイッターで放言すれば誰も阻止できないし、そのさらなる拡散も防げません。あとでいくらウソだとメディアが指摘したところで支持者はそれを見ようともしないのです。
こうしたメディアを排除したトランプの放言は今後も続くでしょうし、受け手のリテラシーが上がらない限り、「分断」という大きな負の影響を世界にもたらします。
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