ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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アベちゃんの潮目は変わったか、3

2014年08月02日 | 2014年の資産運用
 ただの投資家さん、Owlsさん、山ちゃん、たかさん、多くのコメントをいただき、ありがとうございます。

 たかさんのおっしゃるように、「なんだか暗い」ですよね。

 そしてたかさんの最新のコメントにある「消費税を今さらに増税すべきではない」、に関してですが、3つの理由を私もそのとおりだと思います。異存は全くありません。しかしそれでも増税しなければならないほど財政状態が悪いのが今の日本だと思っています。
 例えば株価はどう反応するか。増税=再建は国際公約でもあるため、海外投資家はそれを織り込んで日本株を買っています。ですので増税回避は財政悪化と同義語のため、売り材料になってしなうのです。IMFも消費税は10%なんかでは不足だと言っていますし、株価のためにも増税は回避できないと思います。

 さて、今週は週末までに大きなニュース、イベントがたくさんありました。中でも市場が大きく反応したのは意外にもアルゼンチンのテクニカル・デフォルトでした。
 最近市場が下落するニュースのほとんどは、世界の誰も全く予想していないか、イベント予定は知っていても予想を上回るインパクトが出て市場が強く反応しまうことばかりです。春先からのウクライナ問題、イラク国内の内戦、イスラエルとハマス、アルゼンチンのテクニカル・デフォルトなど年初の予想などには全くカウントされていませんでした。私がいつもみなさんに申し上げているように、「将来の出来事など誰も予想はできない。突発事故に対して十分に備えるべし。その手段は米国債しかない」のです。

 再確認のためみなさんにしつこく申し上げたいのは、最近の異常気象や天変地異は50年に一度の異変が2-3年に一度の頻度で起こっています。その状況は、世界の政治経済にも同じことが言えます。我々には予想すらできないことがすごい頻度で起こり、それが金融市場を通じてあっという間に世界に伝播します。

 日本の財政問題も国内的な要因ではなく、とんでもない外部要因によって突如コントロール不能な状況に陥るかもしれません。またリスクとしての認識があっても薄かったために見過ごされるような要因が襲いかかるかもしれません。

 ここでは一つ、普段から私が注意すべきと思っていることを皆さんにお知らせしておきます。昨日の日経新聞1面に「フラット35優遇延長」と言う見出しのニュースが載っています。内容は住宅着工がスローダウンしたので(そんなことはハナからわかっています)、対処策として政府の金利優遇支援策を延長するというものです。

 私の指摘は優遇策についてではなく、住宅ローンの根本問題です。すべての銀行は住宅金融公庫などがなくなり、企業の貸出が伸びなくなって以来、貸出の主力を個人の住宅ローン、それもフラット35に代表されるような超長期ローンに置いてきました。その貸出残高は118兆円にもなります。

データは日銀の以下のサイトで見ることができます。
http://www.boj.or.jp/statistics/dl/loan/ldo/index.htm/

 銀行にとって35年の長期固定金利ローンを出すということは、35年の超長期固定利付債を買っているのと同じです。発行者は個人です(笑)。つまり金利が上昇すれば、ローンの時価は債券と同じ様に値洗いしなければなりません。国債と違い償還まで持つので時価評価はいらない、などとはいかない債権です(債券ではありません)。アメリカでは住宅ローンの出し手はどんどん証券化してバランスシートからはずしますが、邦銀はそのままです。

 金利の上昇が始まると銀行はどう対処するのか。ちょっと専門的になりわからりずらいかもしれませんが、書いておきます。銀行はもしスワップの相手がいれば、長期の固定金利を変動金利にスワップしておけますが、スワップの出し手はあまりいないでしょう。

 長期国債の下落なら先物の売りでヘッジ可能ですが、個別住宅ローンにその市場はありません。そこで銀行は長期の金利先物市場を使って近似的に売りヘッジをするのです。長期金利の先物市場の参加者の主力は売りを浴びせるヘッジファンドです。そこに銀行も一緒になって売りヘッジをかけることになりますので、暴落に拍車がかかります。

たとえ時価評価を特例で「ナシ」としても、ローンを出し続けるための銀行の調達金利は上昇し逆ザヤになる可能性が出てきて、収益を圧迫します。ここでも登場するのは日銀のクロちゃんです。バズーカでは間に合わないので、核弾頭付きのテポドンを射ちこみ、なりふり構わず低金利での特例融資を拡大するでしょう。

 住宅ローン、みんなで渡れば怖くない(笑)。そしてTOO BIG TO FAILの原則。ここでもきっと横並び体質の銀行を政府日銀が救済せざるを得ません。金利の上昇は国債の暴落への対処だけでは済まないことを、みなさんにお知らせしておきます。住宅ローンが国債暴落の引き金を引く可能性もあるのです。

 というように、世の中には知らない、もしくは注意不足から見落とされているリスクがいっぱいあるのです。

 さて、暗い話ばかりが続きましたが、私はこうしたことがすぐ起きそうだと思って今回の「潮目はかわったか」を書いているのではありません。アベチャンの「誤算」をいくつか指摘していますが、アベチャンの「目算通り」もたくさんあるからです。一番はアベノミクスによる景況感の改善ですが、さらに
 ・ 円安
 ・ 株高
 ・ 大企業のベースアップへの協力
 ・・・などなど

 こうしたことは、延命には大いに役立っています。そして日本がそう簡単に破綻しないもう一つの大きな理由は、山ちゃんもご指摘のように、危うさは自覚していても、わからないものには手を出さない人が大半からです。「トイレットペーパー不足」だとわかりやすいので誰もが飛び付く。でも「外貨でヘッジ」などわけわかんないので飛び付かない。

 しかし潮目に変化が生じているのも確かです。私もOwlsさんのコメントにある
>巷で思っている以上に問題は深刻
に賛成ですし、たかさんの心配ももっともだと思います。

 ですので、今後もみなさんと一緒にムードに押し流されることなくしっかりと「数字」を追いかけて行きましょう。

 これまでは「株価・為替などが先行し、金利さえ抑え込んでいれば実態経済は追いかけくるはず」という図式でしたが、ここに来て実体経済がぐずぐずし始めたのは、アベチャンの支持率低下とともに要注意です。

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17 コメント

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Unknown (Owlss)
2014-08-02 19:49:42
私は潮目が変わった原因は長らく表面化してなかった
日本経済の構造変化が原因だと思うのです。

日本は40年以上も大きな貿易・経常黒字を出した。
オイルショックの時とは例外があったようですが、概ね
大きな経常黒字を背景に円高が進んできた。

バブル崩壊後も労働人口減少とかはあったけど、
それ以上に需要と投資は減少して経常黒字が大きい。そして円高になり、大きな経常黒字を背景に、
大量の国債が消化できてきた。財政問題も表面化
してこなかった。日本経済の強靱さを示しているとは
思いますが、問題を解決しようという意識が政治家と
国民には無くなってしまいました。

いつの間にか円や日本国債は安全なんだ、それを
持っていれば心配ないという意識が蔓延してしまった。
何で安全なのかということを考える人が少なくなった。
今までも安全だった、だからこれからも安全なんだと。

しかし、問題が表面化してないから問題がなかった訳
ではなかった。自覚症状がなくても病気が進行して
いる場合があるように。とうとう目に見えて労働人口の
減少が悪影響を及ぼすようになった。日本の安全の
源ともいうべき経常黒字もゼロに近くなった。

まだ日本人の多くは悪い病気だとは思っていない。
経常赤字なっても問題ないよという人達まで出てくる。
円と日本国債は魔法の資産だと錯覚している人も
いる。どうして今まで大丈夫だったかを考えない。
今まで大丈夫だった経済構造が変化してることに
全く目を向けない。

何となく原発安全神話と同じ精神構造のような・・・
マスコミに露出するエコノミストなんかは明日の株価や
為替の予想ばかり。経済構造の変化については
意図的に無視してるのか、気がついていないのかは
わかりませんが、あまり触れようとしません。尚更、
一般国民には危機意識など高まることはない。

本当は少し前では考えられないようなことが
起きているいるのに。
返信する
教えて頂きたいのですが (しこ)
2014-08-02 23:06:32
林様

いつもお世話になっております。
不勉強なので、教えていただきたいのですが、
記事を見ていて自分なりに解釈したのですが

現時点では国債が消化できているが、来年の消費税増税などで財政が保てないと考えられたり
若しくは増税を見送られると
U+2B07U+FE0E
日本はやばいと海外投資家、ヘッジファンドに思われる
U+2B07U+FE0E
国債の売り、株価下落
U+2B07U+FE0E
金利上昇、銀行の経営が危険に
U+2B07U+FE0E
途中経過はまだ説明できませんが
円安、計上赤字増える
U+2B07U+FE0E
一部輸入企業倒産、物価上昇
U+2B07U+FE0E
家計が危険

というような解釈で良いでしょうか?
だから為替で円安時のヘッジや、
過度な日本円と国債を避ける必要がある

もし違っているところがあれば御指導下さい。
よろしくお願いします。
返信する
リッチな人は”住宅ローンの根本問題”は逆用するのも手 (雪風ファンド)
2014-08-03 09:26:58
三菱信託銀行で超長期の住宅ローンを当初5年固定金利0.5%で組んで自宅を購入し、金利
固定期間終了時に全額繰上げ返済すれば、実質的な金利負担を僅少にできます。

ローンを組むうえで諸経費込はかかりますが住宅ローン減税で毎年ローン残高の1%が減税
対象になるからです。

同様に新生銀行で当初7年固定金利1.15%のローンを金利上昇前に全額繰上げ返済すれば
減税で実質的な金利負担を年0.5%未満にすることもできますね。

物件をキャッシュで買えるような人ならあえてローンを組んで日本の危機に備える運用に回す
のもアリかも知れませんね。
返信する
Owlsさんへ (林 敬一)
2014-08-04 10:28:07
コメントと見解をお聞かせいただき、ありがとうございます。

少子高齢化や財政問題に代表される日本全体の大きな問題が、通奏低音のように流れ、大きさを増しているのに気が付く人と気がつかない人では、将来への対処が大きく違ってくるでしょうね。
返信する
しこさんへ (林 敬一)
2014-08-04 10:29:55
一部に文字がわからない部分があるのは、フォントの適合性の問題でしょうか。それを別にして、しこさんの理解の流れは間違っていませんよ、ご安心を。

>一部輸入企業の倒産
これは将来起こりうると思いますが、今のところ消費者が物価の値上がりを受け入れているので、その限りは大きな問題というところにまで至らない可能性が強いです。

しかし大筋では家計もすこしでも備えをしておくことにこしたことはありません。
返信する
雪風ファンドさんへ (林 敬一)
2014-08-04 10:31:32
将来インフレが起こる場合は、借金した者勝ちですし、不動産がインフレヘッジにもなり得ます。

ただ日本の場合、少子高齢化が空き家問題に拍車をかけますので、不動産の将来性には要注意ですね。
返信する
団塊リタイア組の米国債購入のタイミング(もりもり) (もりもり )
2014-08-04 16:07:41

はじめまして、もりもり と申します。

昨年秋に著作を知り、以後ブログを継続して読んでいます。著作、ブログの影響もあり、米国債の購入を以下のように計画しています。購入のタイミングや、米国債の今後5年くらいの見通しについてご意見をいただけないでしょうか?

目標のキャッシュフローを前提に価格、利回りを気にしないで下記を選んでみました。為替での補填がなければたこ足ですがそれもありかと思います。
米国債購入の予定資金 2000万円 、2年後に1000万円追加で計3000万円。当方65歳 なので、キャッシュフローで100万円/年を目標としています(2000万円では、60万円/年を目標)。
 現時点では、クーポン3.375%、満期2019年11月15日、 価格108.75 (8/1)の債券のクーポン利率が高く目標に近いものになります。
 現在、2000万円のうち半分が米ドルMMFなので、今後も為替を見ながら米ドルへの切り替えを続け、債券価格を見ながら順次米国債に変えて行く予定です。5年後の満期時点では、 もう少し長期(20年前後)の米国債を購入し年100万円以上のキャッシュフローを目指しています。

質問1:5年後の満期の時点で買い換えを予定しているのとして、今後米国の金利が上がれば、クーポン4%前後の長期の債券も出てくる可能性はあるのでしょうか?

質問2: 「債券価格が100を超えていても、満期時点で円安になれば持ち出し分が戻る」との理解で正しいでしょうか?債権の価格、金利や為替は、わかりにくいですね。

質問3:それとも、金利が3%以上になり価格が下がるまで、しばらく米ドルで待ったほうがよいでしょうか? しばらく=年内位でしょうか?

 ご回答をお願いいたします。
(遅くなりましたが、アンケートの回答も送信しました。)
返信する
不動産は (ただの個人投資家)
2014-08-04 19:29:01
都心部の開発計画を最近かなり聞きますね(^-^)
不動産はやっぱり都心で持ってないとその大きな上昇ヘッジにはならないんでしょうかね~(^-^;
返信する
日本は利上げできるのか? (Owls)
2014-08-04 19:50:19
日本は40数年概ね円高方向に推移してきた。
背景には大きな貿易・経常黒字があったから。
しかし、貿易収支は既に大きな赤字に転落し、
経常収支も今年中にも赤字転落の可能性がある。

今までは大きな経常黒字で低金利だろうと通貨高の
圧力が常にありましたが、これが経常赤字に転落し、
尚且つ財政も世界最悪レベル。意図しない程に
通貨安が進んだ場合、日本は利上げで通貨安を
止められるのでしょうか?

考えてみたら、日本は通貨安に大きく動き出した時、
経常黒字以外に何らブレーキは存在しないように
思うのですが、これはどうでしょうか?
返信する
Unknown (しこ)
2014-08-04 20:51:04
林様

ご返信ありがとうございました。
債券で質問なのですが、30年債を3000ドル分所有しています。満期を前提としていますが、約定日の適応為替レートと、受け渡し金額(ドル)をメモしておけば、満期時の確定申告も安心ですか?

もし準備しておいた方が良い情報はありますか?

なんども質問をしてすみません。
返信する

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