今日の市場は円安と株高がカップリングし、どうやら株式市場はひところの悲観一色からまだら模様くらいにはなってきているようです。その裏に日銀の追加緩和策への期待があるのかもしれません。しかし、だとすると、裏切られた時のリパーカッションには注意が必要でしょう。
さて、ちょっとあいてしまった「大丈夫か日本財政」のシリーズに戻ります。「財政破たん派、どこが間違っているのか」は、4月7日が最後でした。おさらいしますと、
1. 赤字財政のファイナンスであり、財政支出に歯止めがなくなり、通貨供給過多からやがてハイパーインフレにつながるハズ
2. リスクを察知した格付け会社がダウングレードすると国と通貨の信用力が低下し、投資家が国債投資を回避するため金利が上昇ハズ
ところが、以下の2つの理由でそうはなっていないという解説をしました。
① 日本と世界、ともにカネ余り状況にあることが一つ
② アメリカやユーロッパで中央銀行が自らの国債を大量に買い入れていてもインフレにつながらないため、それが先進国では当たり前の政策として世界的にリスクと認知されづらくなっている
つまり欧米よりはるかに累積債務の大きな日本でも、中央銀行による財政ファイナンスが、禁じ手とみなされないで済んでいるということです。
そして、
3. リスクを感じた投資家が資金を国外に逃避させる行動に出るハズ
そのため通貨価値が下落し、国債価格も下落するハズなのですが、日本ではなかなか起こりそうもありません。その理由は、日本人の多くが国際標準の投資リテラシーを持っていないためと思われます。
ここまでが前回でした。
国際分散投資をしない日本の個人の投資行動をよいことに、政府は毎年史上最大の予算を組み続け、国債発行により累積債務を増やし続けています。それはいつまでも続けていけるのでしょうか。
あらためて一つ申し上げておきたいことがあります。それは、どこが間違っていたのかの分析は、あくまで「現時点までは」ということで、このままずっと間違ったままでいくということではありません。誤解のないように。
日本では、個人のおカネの多くが銀行や郵貯、生保などに預けられています。ではその金融界の現状はいったどうなっているのでしょう。このところ彼らの行動に変化の兆しがあります。それはマイナス金利導入によりもたらされたと私は見ています。
先日のマイナス金利の導入では実際の導入前にもかかわらず、発表しただけで銀行の貸し出しサイドの金利が低下しました。代表的には住宅ローン金利です。そして企業への貸し出し金利も低下しています。
一方で預金に代表される銀行の調達サイドはもともとの金利が低いため、低下のしようがありません。例えば我々が普通預金に預けている金利も、もともと雀の涙程度だったものが、ついに肉眼では見えないくらいになったというだけです。すると当然利ザヤが縮小していきます。利ザヤの縮小は利益の低下に直結するため、銀行をはじめとする金融株が大きく下げました。2月以降の株安も、金融株の下落が一番ひどくなっていました。
4月14日には三菱UFJの社長でさえ講演で以下のように述べています。ロイターからの引用です。
引用
「三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長は14日、東京都内で講演し、日銀のマイナス金利政策について『銀行業界にとって短期的には明らかにネガティブだ』と述べ、貸出金利の低下などにより、銀行収益に打撃を与えると懸念を表明した。
日銀はマイナス金利による市場金利の低下で、企業の投資や個人の消費意欲が高まる効果を強調する。これに対し、平野社長は『ゼロ金利環境が長く続く日本では既に貸出金利が低水準のため、個人も企業も効果に懐疑的になっている』と反論。
その上で、平野社長は『銀行はマイナス金利(による負担)を顧客に転嫁できないだろうから、利ざやはさらに縮小し、基礎体力低下をもたらすことになる』と指摘した。
邦銀の経営トップが日銀の金融政策に疑問を呈するのは珍しい。」
引用終わり
遂に日銀にとってはいわば身内のハズの最大手銀行すら日銀に反旗を翻しました。国債での運用をメインとしている郵貯や生保なども、今後は利ザヤの縮小に苦しむこと になります。その上もっと深刻なのは、日銀の国債爆食により、投資対象自体が枯渇してきたことです。国債が市場からなくなり、株式も下げ始めると、一体金融界はなんで食べて行こうとするのでしょうか。
さらに、ロイターが本日発表した企業調査によると、なんと8割の企業がマイナス金利の拡大に反対しているという結果が出ています。
引用
「4月のロイター企業調査によると、日銀が導入したマイナス金利の拡大に8割近い企業が反対しており、導入自体が失敗との見方も目立った。
マイナス金利での資金調達を検討している企業は1割強にとどまり、資金調達コスト低下が設備投資計画に寄与するとはみていない企業が全体の3分の2を占めた。
マイナス金利政策は、導入から1カ月以上経過してむしろ評価が下がっている。」
引用終わり
本来貸出金利の低下でメリットを受けるはずの企業までが、さらなるマイナス金利拡大に反対しているというのは、無視しえない結果です。私が繰り返し述べた「個人も企業もがちょうじゃない」ことが裏付けられました。
つづく